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王太子の忠告

「ヨナ様。こちらのお召し物などいかがでしょうか」

「いいえヨナ様。私のご用意したこちらこそ至高かと」


 夜の祝賀会に向け、アウロラとプリシラがヨナに服を勧めては、まるで着せ替え人形のように何度も試着を繰り返していた。

 かれこれ二時間も続いており、既にヨナはお疲れである。


「で、でしたら、後で僕が選んで着替えておきますので、時間になるまで休憩させてください!」

「「むう……」」


 二人は不満げな表情を浮かべるが、身体の悪いヨナを気遣い、渋々了承した。


「それでは失礼いたします」

「どうぞごゆっくりお休みくださいませ」


 アウロラとプリシラは(うやうや)しく一礼し、部屋を出て行った。


「さて……」


 ヨナは夜の祝賀会に向けて二人が選んだ服……ではなく、旅の服に着替えて机に向かう。

 カルロやアウロラ達に宛てた、手紙をしたためるために。


「ええと……やっぱりお礼からだよね」


 ペンを走らせながら、ヨナは国境の森でのカルロとの出逢い、ベネディア王国で食べた海の幸の味、少し暴走気味ではあるもののたくさんお世話をしてくれた二人の侍女、海蛇の魔獣と、何より伝説の『中央(メディウス)海の守り神』に思いを馳せる。


 この国に来て十日足らずの期間ではあるが、ツヴェルクの街で出逢ったマルグリットやハーゲンベルク伯爵と過ごした時間に負けないくらい、彼にとって何物にも代えがたい思い出ができた。


 そんな大切な時間を過ごしてくれたことへのたくさんの感謝と喜び、それとちょっとしたお願い(・・・)を手紙に記し、ヨナは封をすると。


「さあ、行こう」


 ヨナの小さな身体には不釣り合いの大きな革の(かばん)を手に、ヨナは床に魔法陣を描こうとしたところで。


「よお」

「あ……」


 ノックもなく部屋を訪れたのは、カルロだった。


「まあそんなことだろうと思ったが……もう行くのか?」

「……はい」


 カルロの問いかけに、ヨナは逡巡(しゅんじゅん)してから頷く。

 本当はもっとここにいたいが、残された時間はあと十か月。自分の死を、カルロ達に背負わせたくない。ヨナはそう考え、静かに去ることを選んだ。


 だが、それもカルロに見つかってしまい、無意味となったが。


「……確かにそのほうがいいよな。言っちゃ悪いが、お前はここにいないほうがいい。王国にとっても、お前にとっても」

「あ……で、ですよね……」


 カルロの言葉に、ヨナは愛想笑いを浮かべて胸襟(むなえり)をぎゅ、と握りしめる。

 ここにいていいのだと……役立たずの出来損ない(・・・・・)ではないのだと言ってくれたカルロにはっきりとそう告げられ、自分が勘違いしていたのだと気づいた。


 やっぱり自分は、ここにいてはいけない存在だったのだと。


「そうだ。お前のあのとんでもねえ魔法……せめて俺やガリレオだけなら口止めできただろうが、あの場には大勢の海兵達がいた。いくら箝口令(かんこうれい)を敷いたところで、絶対に漏れる」

「え……?」


 カルロの言うとおり、ヨナは海兵達の前で古代魔法を披露した。

 だが、別に隠すつもりはなかったし、見られたところで困らない。ヨナはそのことを危惧するカルロに、首を傾げる。


「……分かってなかったか。まあそれも仕方ない」


 そう言うと、カルロは苦虫を噛み潰したような表情で頭を掻いた。


「いいかヨナ。この世界で魔法が使える奴なんざ、ほんの一握り。それもほとんどが『審判の火』の何倍も劣る魔法しか使えねえんだ」

「あ……!」


 ここまで説明を受けて、ヨナはようやく思い至る。

 この世界の魔法はカルロの言うとおり威力も低く、古代魔法の足元にも及ばないことを。


 ヨナは旅に出るまでラングハイム家の屋敷に籠りきりであり、魔法と古代魔法の違いは本で学んで理解しているが、そもそも世間の常識には疎い。

 だからこそ、古代魔法を誰かに見せるということは、それだけで危険がつきまとうことに気づけなかったのだ。


「うちの国の中だけならいい。だがヨナの魔法を知ったら、他の国は戦々恐々とするだろうな。たった一人の手で、国を滅ぼしてしまうかもしれねえんだから」

「そ、そんなこと……」

「ヨナやベネディア王国にその気がなくても、他の国はそう思わねえってことだ。そうするとどうなる? ヨナを自国に引き入れるか、あるいは何としてでも排除するか、そのどちらかだ」


 そう……もはや帝国の魔導具など、ヨナの前では玩具に等しい。

 彼一人いれば、どのような国であっても平伏すしかないのだ。


 たとえそれが、エストライア帝国であっても。


「だから……これから先、ヨナは滅多なことで魔法は使うな。自分の身を守る時など、どうしてもって時だけにするんだ」

「はい……」


 両肩に手を置き真剣な表情で告げるカルロに、ヨナは頷く。


 今の話を踏まえれば、ベネディア王国の王太子である彼からすれば、むしろヨナという存在は喉から手が出るほど欲しいはず。

 それでもカルロが送り出すことを選んでくれたことに、ヨナは感謝しきりだった。


「最後の最後まで、僕のためにありがとうございます」

「おいおいよせよ。そんな言い方だと、まるで今生の別れみたいじゃねえか」

「あはは……」


 悪態を吐くカルロに、ヨナは寂しく微笑む。

 残された命を考えれば、カルロとはもう逢うことはないだろう。ヨナはそう思い、ちくり、と胸が痛んだ。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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