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中央海の守り神

「よしっ」


 いよいよ『中央(メディウス)海の守り神』討伐に向けて出港の日の朝。

 ヨナは一人、部屋で気合いを入れていた。


 既に支度を整え、いつでも向かう準備はできている。

 この城から……ベネディア王国から、旅立つ準備も。


 ただ。


「……扉の向こう側、絶対にいるよね」


 当日になれば、ヨナが抜け出すことに気づいているのだろう。

 アウロラとプリシラの気配が、扉の向こうから感じられた。ひょっとしたら『ちゃんと見張っているぞ』と、警告のためにわざと気配を漂わせているのかもしれない。


「まあ、問題ないけど」


 カルロの乗る船であるイルヴェントドーロ号へは、この部屋から転移してしまえば何も問題はない。

 あとは二人が、その前にこの部屋に入ってこないことを祈るだけ。


 だというのに。


「ヨナ様。本日はこちらのケーキなどいかがでしょうか」

「いいえ、私のお持ちしたマカロンのほうがお口に合いますかと」


 いつもどおりといえばそれまでだが、やはり二人の侍女は部屋の中へ入ってきてしきりにヨナにデザートを(すす)めてくる。

 ヨナは二人の心遣いにはありがたいと思う反面、今日だけは一人にしてほしかったと心の中で項垂(うなだ)れた。


(仕方ない。お菓子を食べて二人がいなくなった後から転移しても、充分間に合う)


 そう思うことにして、ヨナはまずはアウロラのケーキを口に含む。


「! 美味しい!」

「ありがとうございます。そしてごちそうさまでした」


 ケーキのあまりの美味しさにヨナが感動すると、なぜかアウロラがそんなことを言った。

 何も食べていないのに、『ごちそうさまでした』とはどういう意味だろうか。


「お姉様に負けてはいられません。次はこちらを」

「はむ……うわあああ! これもすっごく美味しいです!」

「「はうっ!」」


 顔を(ほころ)ばせるヨナを見て、二人が胸を手で押さえて変な声を上げた。

 もはや二人にとって、愛くるしいヨナの笑顔はこの上ないご褒美でしかない。


 その後も二人は、ヨナにお菓子を(すす)めては身(もだ)える。

 ヨナは微妙な顔をしつつも、二人の様子を眺めていた……のだが。


「え、ええとー……」

「どうしましたか?」

「お身体の具合が悪いのですか?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……」


 お菓子を食べた後も二人にベッドの両側から見つめられ、ヨナは身動きが取れず何とも言えない気分になる。

 ただ、このようなことを昨日までしたことがない。やはり自分は警戒されているのだと、ヨナは感じた。


(ひょっとして、カルロさんが討伐を終えて帰ってくるまで見張っているつもりじゃ……)


 ヨナのその勘は正しい。

 二人はヨナのことが心配であり、また、カルロからヨナを監視しておくように厳命されていることから、二十四時間彼の(そば)を離れないことにした。


 もちろん子供に過ぎないヨナが自分達の監視をかいくぐって抜け出すことなど、到底不可能であることは分かっているが、万が一のこともある。

 万全を期すために、念には念を押したわけだ。


「そ、その、お仕事はいいんですか?」

「ご心配くださり、ありがとうございます。フェデリコ様にヨナ様のお(そば)にいる許可をいただきましたので、問題はありません」

「むしろヨナ様から離れては侍女失格です」


 どうやら二人は、何としてでもヨナから離れないつもりのようだ。

 これではヨナがカルロのもとに駆けつけ、守り神と対峙することができない。


 そう考えたヨナは、シーツの中で二人に気づかれないように魔法陣を描く。


「あ……こ、これは……っ」

「そんな……」


 二人は必死に耐えるが(あらが)うことができず、ものの数秒でベッドに突っ伏して眠ってしまった。

 もちろんこれは、ヨナの古代魔法によるもの。


 ヨナは二人が眠ったことを改めて確認すると、ゆっくりとベッドから降りる。


「ごめんなさい。そして、ありがとうございます」


 二人に向かってぺこり、とお辞儀をしたヨナは、イルヴェントドーロ号へ転移した。


 すると。


「や、やっぱり守り神に挑むなんて無茶だったんだ!」

「今さらビビッてんじゃねえ! それでもやるんだよ!」


 目の前に現れたのは、悲鳴と怒声を上げ、慌ただしく走り回る海兵達の姿。

 揉屑(もくず)となって海の上に漂う、船の残骸。


 そして……あれほど大きな旗艦イルヴェントドーロ号をすっぽりと覆ってしまうほどの巨大な影を作り出す、青の鱗を全身に(まと)った超大型の海蛇の魔獣。


「これ、が……」


 ――『中央(メディウス)海の守り神』が、口を開けて構えていた。

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