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壊れている身体

「……それで、どんな具合なんだ?」

「シッ。静かにしてください」

「す、すまん……」


 ヨナの診察を行っている医師に注意され、カルロは頭を掻く。

 顔を真っ青にしてプリシラが来た時は驚いていたが、今は彼も少し落ち着きを取り戻していた。


「「…………………………」」


 部屋の隅で、沈痛な面持ちで様子を見守るアウロラとプリシラ。

 彼女達は初対面からヨナを気に入っており、少し暴走してしまうところがあるものの甲斐甲斐しく彼の世話をしていた。


 しかも二人は、ヨナが苦しむ姿を真っ先に目の当たりにしていたのだ。

 いくら優秀な侍女とはいえ、狼狽(うろた)えてしまうのも仕方がない。


「ふう……」


 一通り診察を終え、医師は立ち上がって深く息を吐いた。


「それで、ヨナの容体はどうなんだ?」

「……とりあえず、部屋の外へ」


 険しい表情の医師を見て、あまりよろしくない結果だということが見て取れる。

 カルロはアウロラ達にヨナを任せ、医師とともに部屋を出た。


「はっきり申し上げて、彼の容体は最悪です。脈は不規則で心臓の音も弱い。他の臓器や全身もかなり深刻な状態ですね……」

「っ!? そんなわけねえだろ! ヨナはさっきまで、普通に笑って過ごしてたんだぞ!?」

「だとしたらそれは、奇跡(・・)としか言いようがありません。残念ですが、彼は身体を動かすこともままならないはずです」


 ヨナは頭も切れるし冷静沈着だが、それ以外は年相応の子供と同じ。

 少し動きがぎこちなく不器用なところはあるものの、とてもそんな状態だとは思えなかった。


「私も詳しく検査をしたわけではありませんので何とも言えませんが、彼はかなり以前……ひょっとしたら生まれつき、このような症状を抱えていたものと思われます」

「ど、どういうことだよ……」


 元気だったつい先ほどまでのヨナと、医師が説明するヨナ。

 とても同一人物だとは思えず、カルロの頭は混乱を極めた。


「カルロ殿下、普段の彼からはお気づきになられませんでしたでしょうか。彼は、死んでしまいたいと思ってしまうほどの苦痛に襲われていたはずです。そういった兆候などは……」

「ない……いや、なかった(・・・・)んだよ(・・・)……」


 カルロは思い返すが、ヨナはたまに寂しそうな表情を見せる時があっても、それ以外はいつも笑顔だった。

 まさかそんな痛みに耐えていたなんて、誰が思うだろうか。


 すると。


「カ、カルロ殿下! ヨナ様が!」

「っ!? ヨナがどうした!?」


 カルロは医師とともに、慌てて部屋の中に飛び込む。

 見ると、相変わらず苦しそうなヨナが必死に手を伸ばしていた。


 その先にあるのは、ヨナの(かばん)


「ヨナ様! こちらです!」


 プリシラは(かばん)を手に取ると、ヨナの(そば)へと持ってきた。


「あ……く、くす……り……」

「く、薬ですね!」


 消え入りそうなヨナの声を聞き取り、プリシラが(かばん)を開けて探す。

 中には薬が二種類あり、ヨナがどちらを指しているのか、それとも両方なのか、彼女には判断がつかない。


「ヨナ様! どちらの薬……っ!?」


 プリシラが見せる薬のうち一つを手にすると、ヨナはそれを震えた手で口に放り込んだ。


「ん……んく……っ」


 薬を飲み込み、目を(つぶ)って天井を仰ぐヨナ。

 しばらくすると、荒かった呼吸が徐々に落ち着きを取り戻し、ヨナの表情も穏やかになる。


 そして。


「すう……すう……」


 土色だった顔もようやく戻り、ヨナは寝息を立て始めた。


「……どうだ?」

「とりあえず、峠は越えたようです」


 医師の言葉に、カルロとアウロラ、プリシラは胸を撫で下ろす。


「ですが先程申し上げたとおり、彼の身体はもう限界を迎えています。薬を持ち歩いていることからも、それは間違いないかと」

「そうか……」


 全ての診察を終えて医師は退室し、部屋にはヨナとカルロ、二人の侍女だけとなった。


「お前……一体どれだけ抱えてやがるんだよ……っ」


 まだ子供だというのにラングハイム家を飛び出して一人旅をし、身体は死の病に(おか)されている。

 しかも、この小さな身体で大人でも耐えがたい苦痛に耐えて。


「「カルロ殿下。どうかヨナ様を……」」

「分かっている。ヨナが元気になるまで、いつまでもここで暮らしてもらうさ」


 身体を含め、ヨナがどれだけのものを抱えていようが、どんなものを抱えていようが構わない。


「ヨナ……この俺が必ず、お前を助けてやるからな……っ」


 つらい境遇であっても笑顔でひたむきに生きるヨナを見つめ、カルロは拳を握りしめた。

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