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王との会話、そっと撫でる死神の手

「それでは準備が整うまで、今しばらくお待ちください」


 王城に到着したヨナとカルロが案内されたのは、応接室だった。

 まあ、国王が準備万端でわざわざヨナ達を待ち構えているはずもないので、当然ではある。


「ヨナ様、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 カップを手に取り、ヨナはプリシラが淹れてくれたお茶を口に含む。

 船に乗っていた疲れなどもあったのだろう。蜂蜜の入った温かいお茶でヨナの緊張が少しほぐれ、ほう、と息を吐いた。


「それにしても見たかよ。あれ(・・)があれば、守り神なんざ簡単に仕留められるぜ」

「は、はあ……」


 船を下りてからここまでカルロはこの話ばかりしており、これで八回目である。

 ヨナとしては、あの魔導具『審判の火』が仮に十基あったとしても、守り神に通用するとは考えていない。


 その程度で倒されてしまうような存在が、伝説になるはずもないのだから。


「ラングハイム公爵から買い付けた魔導具は他にもある。本当はすぐに量産できればよかったんだが、こればかりはな」


 そう言って、カルロは肩を(すく)める。

 ヨナは他の魔導具も見せてもらったが、それらは通常の魔法の威力を増幅するためのもので、対個人戦が想定されたものだった。


 ただ……『審判の火』もそうだが、それらは言うなれば人殺しのための兵器。

 綺麗事だけで世界が成り立っていないことを聡いヨナは充分理解しているが、それでも、そういったものを受け入れることができるかといえば話は別だ。


 何よりヨナは、そんなものをラングハイム家が帝国に秘匿し、独自に製造していたという事実が許せない。


「カルロ殿下、ヨナ様。国王陛下の準備が整いました」

「分かった」

「は、はい」


 カルロとヨナは席を立ち、フェデリコに続いて謁見の間へと向かう。

 ヨナはそう思っていたのだが。


「このような格好ですまんな」


 通されたのは、謁見の間ではなく国王の寝室。

 国王のマクシミリアーノはベッドで横になったままだった。


 だが……国王の頬は痩せこけ、目の下にはくま(・・)ができている。おそらく、かなり重い病を(わずら)っているのだろう。


「王太子カルロ、参上つかまつりました」

「こ、国王陛下に拝謁賜り、恐悦至極に存じます」


 二人はマクシミリアーノ国王の前で(ひざまず)き、(こうべ)を垂れる。


「公式の場であるまいし、堅苦しい挨拶はよい。何より、お主のそのような姿を見ると背中がむずがゆくなるわ」


 そんな皮肉とともに、マクシミリアーノ国王は破顔する。

 だがカルロに向ける眼差しはとても柔らかく、きっと二人は普段から良好な親子関係を築いているのだろう。


 父であるラングハイム公爵と視線すら合わせることのなかったヨナは、二人が……カルロが羨ましく思えた。


「あー……ヨナの手前、せっかく王太子らしく振る舞おうと思ったのに台無しだよ」

「何を言うか。お主が余計なことをしたせいで、ヨナも困っておるだろう」


 普段の調子に戻り顔をしかめて頭を掻くカルロに、マクシミリアーノ国王は肩を(すく)めた。


「それで……帝国の魔導具はどうだった?」

「そうそう! 聞いてくれよ親父!」


 カルロは『審判の火』の試験結果について、興奮した様子で身振り手振りを交えて説明する。

 その隣でヨナは、「ああ……またか」と、眉根を寄せてうつむいた。


「ふむ……ならば今度こそ、守り神を仕留めることはできそうじゃな」

「ああ……! 絶対にあいつを、生かしちゃおかねえ……っ!」

「これ、カルロ。守り神との戦いはこれからなのだぞ」


 どうやら『審判の火』の威力はマクシミリアーノ国王を満足させるには充分だったようで、彼は何度も頷く。

 とはいえ、気負い過ぎるカルロをたしなめるところからも、国王は冷静なようだ。


 ただ、『中央(メディウス)海の守り神』の伝説を見誤っていることは確かだが。


「とにかく分かった。カルロは引き続き、守り神討伐の時に向けて励め」

「お、おう……」


 もう用はないとばかりに、マクシミリアーノ国王はカルロに退室するように目配せする。

 そうなるとヨナが一人残される格好となってしまうため、カルロとしてはどうしたものかと曖昧に返事をした。


 だが、やはり国王はカルロの同席を求めていないどころか、むしろ邪魔であるかのような雰囲気を見せる。

 やむなくカルロは立ち上がり、ヨナの(そば)に寄ると。


「ヨナ、俺は扉の前にいるから、何かあったら大声で俺を呼べ」


 そう耳打ちし、部屋から出て行った。


「さて……待たせてすまなかった」

「い、いえ」


 わざわざヨナを一人にし、マクシミリアーノ国王は何の話があるというのだろうか。

 ラングハイム家にいた時は出来損ない(・・・・・)の公爵子息に過ぎず、今ではただの平民だというのに。


「はは……そう緊張するな。カルロがお主のことを大層気に入っておったから、会ってみたいと思っただけじゃ」


 マクシミリアーノ国王曰く、三日前の帰還報告の際に魔導具の説明もそこそこに、とにかくヨナのことを楽しげに話したらしい。


 元々気さくで人懐っこく、多くの国民に慕われているカルロではあるが、それでも王太子であることを自覚して、人と接する時には深入りせずに一線を引くところがある。

 だというのに、彼がここまで誰かを気に入ったのは初めてとのことだそうだ。


 こそばゆい感じがするものの、ヨナは嬉しくなって口元を緩めた。


「ヨナよ、これからもカルロのことを頼む。彼奴(あやつ)は柔軟な思考も度胸もあるが、少々熱くなりやすいところがあるのでな」

「あ、あはは……」


 マクシミリアーノ国王の口振りからすると、どうやらカルロの側近としてヨナに期待している節がある。

 ヨナは『中央(メディウス)海の守り神』の件が片づいたらここを去るつもりなので、どう返事していいか分からず、愛想笑いを浮かべた。


「なに、ベネディアに残りカルロに仕えよと言っているのではない。お主の人生でこれから先交わることがあったら、その時は頼むと言っておるだけじゃ」


 どうやらヨナの考えなど最初から見透かしていたようで、マクシミリアーノ国王は笑顔でそう告げる。

 でも……残念ながらそれも叶わない。


「ふう……カルロの無駄話を聞かされたせいで、余も疲れた。ヨナよ、お主と話ができて楽しかったぞ」

「は、はい」


 静かに目を(つむ)るマクシミリアーノ国王。

 ヨナはゆっくりと立ち上がり、(そば)に控えていたフェデリコに目配せをした後、音を立てないようにそろり、と退室した。


「……ヨナも見て分かったと思うが、親父はもう長くない」


 部屋の前で待っていたカルロが、悲痛な表情でそう呟く。

 ヨナは何と答えていいか分からず、ただ静かに頷いた。


「だからさ……俺、親父が愛するこの国を守っていくんだと、俺が親父の跡を継いで守っていくから心配いらないと、守り神を倒して証明してやりたいんだ」

「…………………………」

「はは、俺も何言ってるんだろうな。ヨナからすりゃ、どうでもいい話だってのに」

「そんなこと、ないですよ……」


 自嘲(じちょう)気味に笑うカルロに、ヨナはかぶりを振る。

 父親と(たもと)を分かったヨナだからこそ、そう言えるカルロに羨望(せんぼう)の眼差しを向けて。


「まあお前も初めての船で疲れただろう。今日はゆっくり休め」

「はい」


 部屋まで送ってくれたカルロにお辞儀をし、ゆっくりと扉を閉める。


 その時。


「あ……ぐ……っ」


 突然ヨナを襲った、激しい眩暈(めまい)と吐き気。

 それ以上に、心臓が速く、激しく打った。


「く……薬……薬を……っ」


 ヨナはよろけながらトランクケースへと向かう。

 だが、その場で床に倒れてしまい、身体をよじらせて腕を伸ばすが届かない。


「「っ!? ヨ、ヨナ様!?」」


 扉を開けて現れたのは、アウロラとプリシラ。

 二人がヨナに慌てて駆け寄るが。


「あ……う……」


 痛みと苦しみから大量の汗と涙を流すヨナは、アウロラの胸にしがみつき、そのまま意識を失った。

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