無理だと断じる
「この『審判の火』を持ってすれば、きっと守り神を打ち倒すことができる……!」
魔導具を見つめ、カルロは不敵な笑みを浮かべた。
「目標! 百メートル先の浮標! 砲塔照準合わせ!」
「はっ!」
カルロの指示を受け、海兵が砲身の先を浮標へと向ける。
その間にガリレオが魔力炉を作動させると、ごうん、ごうん、と唸り声を上げ始めた。
「ヨナ様、下がりましょう」
「は、はい」
傍に控えていたアウロラが声をかけると、心配そうに様子を見守っているヨナは頷き、数歩下がる。
そして。
「放てえええええええええッッッ!」
――ドオンッッッ!
「うわあっ!?」
中央海上に轟音が鳴り響き、鋼鉄の筒から放たれた魔法の火球が一直線に浮標へと襲いかかった。
そのあまりの音の大きさにヨナは咄嗟に耳を塞ぐが間に合わず、思わず大声を上げて目を瞑ってしまう。
「ど、どうなったの!?」
ヨナは慌てて海上へと目を向けた。
そこには――海面に直径十メートルの穴がぽっかりと開き、その周囲を見上げるほどの水しぶきが舞っていた。
「す、すげえ……!」
魔導具のすさまじい威力に、カルロが茫然とした表情を浮かべていたかと思うと、みるみるうちに口の端を吊り上げる。
「いける……いけるぞみんな! この『審判の火』があれば、今度こそ守り神を仕留められる! 仲間達の仇を取るぞッッッ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」
カルロが拳を突き上げ、海兵達も同じく拳を上げて大歓声が巻き起こった。
この海兵達の中にも、カルロと同じくかろうじて生き残ることができた者もいるのだろう。数人の海兵は感極まって涙を零している。
ベネディア王国の者達にとって、『審判の火』はまさに希望となった。
だが。
「無理だ……」
ヨナは冷めた表情で皆の様子を見つめ、一人冷静に呟く。
『中央海の守り神』を実際に見ていないので何とも言えないのは事実だが、少なくとも伝説にあるとおり山のように大きな存在だということは、その姿と脅威を目の当たりにしたカルロが言うのだから間違いない。
何より、守り神はそこいらの魔獣とは違うのだ。
今回の試験の結果を踏まえ、所詮は対人あるいは城壁などの建造物を前提として製作された魔導具であると再認識したヨナには、これで守り神に対抗できるとは思えなかった
とはいえ、この魔導具が人々にとって脅威であることは間違いないのだが。
「絶対に守り神を倒すぞ!」
「そうだそうだ! 俺達で死んでいった仲間達の仇を取るんだ!」
まるでお祭りのように騒ぐカルロや海兵達を見つめ、ヨナはかぶりを振った。
甲板に、小さな魔法陣を書き残して。
◇
「どうしたヨナ、浮かない顔をして」
港に戻り、重い足取りで舷梯を下りるヨナに、カルロが尋ねる。
既に先程までの浮かれた様子はなく、彼は司令官の顔に戻っていた。
「……いえ、なんでもありません」
「そうか? ならいいんだが……」
力なく微笑むヨナを見て、カルロはそれ以上何も尋ねない。
そんな二人の様子を、アウロラとプリシラが心配そうに見つめていると。
「カルロ殿下、お帰りなさいませ」
舷梯の前で待ち構えていたのは、侍従長のフェデリコだった。
「ああ、おかげで上手くいった、これで皆の仇が討てる」
「それはようございました」
「それで、わざわざここに来た用件はなんだ?」
「はい。国王陛下が、本日の魔導具の試験について戻り次第報告するようにとのことです。それと」
フェデリコが、ここでヨナへと向き直る。
「殿下の客人であらせられるヨナ様に、ぜひともお会いしたいとのことです」
「っ!? 僕ですか!?」
想定外の話に、ヨナは驚きの声を上げた。
公爵子息だった時なら可能性としてほんの僅かではあるがあり得るかもしれないが、今は平民でありカルロにも素性について黙っていてもらうようお願いしてある。
だからこそヨナには、国王の意図が読めない。
「まあ……ヨナが心配するようなことはないと思うし、悪いが会ってやってはくれないか」
複雑な表情を浮かべ、カルロがそう告げる。
ひょっとしたら彼には、国王の思惑が分かるのかもしれない。
「……そうですね。僕もお世話になっている身ですし」
あまり気乗りしないが、ヨナは頷く。
もし面倒なことになりそうなら、その時は守り神討伐の日までどこかに身を潜めていればいいだけのこと。ヨナはそう思うことにした。
「では、どうぞこちらへ」
フェデリコが用意した馬車に乗り込み、ヨナとカルロは城へと向かった。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
皆様の評価は、作者にとって作品を書き続ける原動力です!
何卒応援をよろしくお願いします!




