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審判の火

「“イルヴェントドーロ”号への搬入を急げ! 今回はバリスタの槍だけでなく、鉄球も大量に仕込んでおくんだぞ!」


 ヨナがベネディア王国を訪れた日から、今日で三日。

 ベネディア王国の軍港では、海兵達の威勢のいい声が飛び交っている。


 『中央(メディウス)海の守り神』の討伐に向けた、準備のために。


「魔導具はまだかな……」


 慌ただしい港の様子をぼんやりと眺めながら、ヨナがポツリ、と呟く。

 カルロ達が期待している、切り札である帝国の魔導具。


 その威力の検証のために今日はこれから海上で試験を行う予定となっており、ヨナも同乗させてもらうことになっている。

 討伐の当日は危険だとして許可はしてもらえなかったが、守り神がこれまで出没した海域でなければ問題はないだろうとの判断だ。


「それにしても、大きいなあ」


 軍港に停泊するひと際大きな軍船、イルヴェントドーロ号。

 総司令官であるカルロの旗艦とのことだが、本来の持ち主は彼の父であり国王の“マクシミリアーノ=レガリタ=ベネディア”である。


 元々のカルロの船は先の一回目の遠征の際に守り神に破壊されてしまっており、今回は必勝を期して王自ら彼に与えた。


 なお、ヨナはマクシミリアーノ国王には会ったことはない。

 素性こそ明かしたものの今のヨナは平民の立場を貫いており、仮に今も他国の貴族子息だったとしても気軽に会えるものではないので、当然といえば当然であるが。


「ようヨナ、ここにいたのか」


 カルロが笑顔でやって来て、気安く手を挙げた。


「カルロさん、いいんですか? みなさん忙しそうにしていますけど」

「いいんだよ。それに俺は、これから搭載する魔導具の立ち合いのためにここにいるんだからな」


 ちょっと揶揄(からか)うように尋ねるヨナに、カルロは苦笑して答える。

 だが、いよいよ魔導具のお披露目ということらしい。


 一応ヨナは三日前の夜に魔導具を目にしてはいるものの、あれで全てというわけでもない。

 ここへ来る馬車で見た積み荷の量を考えれば、あの程度であるはずがないのだから。


「カルロ殿下」

「おう、こっちだ」


 布をかけた荷車と一緒に現れたのは、先日の技術者の男……“ガリレオ”だった。


「いやあ、お待たせしました。稼働試験に少々てこずってしまいまして」

「構わん。それよりヨナもお待ちかねだから、急いで船に載せてくれ」

「任せてください」


 ガリレオはどん、と胸を叩くと、一緒にいる他の技術者達に指示を出して船へと運び込む。


「んじゃ、そろそろ俺達も乗り込むか」

「はい!」


 ヨナとカルロは舷梯(げんてい)を渡って乗船し、ガリレオ達の様子を見つめた。

 この魔導具によって守り神討伐の成否が決まるとあって、普段は飄々(ひょうひょう)としているカルロも緊張した面持ちを見せる。


「殿下、準備が整いました」

「よし! では出航するぞ!」


 カルロの合図で海兵達が(いかり)を上げ、帆を張った。

 いよいよ、イルヴェントドーロ号が中央(メディウス)海の沖へと動き出す。


「うわあああ……!」


 目の前に広がる海原を見つめ、ヨナは感嘆の声を漏らした。

 当たり前だが船に乗るのは初めての彼は、感動で胸を震わせる。


「どうだ、すごいだろ」

「はい!」


 オニキスの瞳を輝かせて興奮するヨナを見て、カルロは頬を緩めた。

 十一歳とは思えないほどの頭の回転の速さを持ち、物腰も静かで落ち着いているヨナだが、こういうところは年相応……いや、純粋で素直な性格も相まって可愛らしい。


 だからこそ。


「ヨナ様、あちらに見える島はサン=メストレと言いまして……」

「それよりもヨナ様、向こうの岬では好きな人に告白すると結ばれるという言い伝えが……」


 侍女のアウロラとプリシラが仕事を怠けてこの船に乗り込み、甲斐甲斐しくヨナの世話をしているのだが。

 ヨナを気に入ったのは分かるが、さすがにいかがなものかと思うカルロだった。


「カルロ殿下、そろそろです」

「よし。浮標(ふひょう)を投げ入れろ」

「はっ」


 海兵が狙いを定め、浮標(ふひょう)を海に向かって放り投げる。

 さらに船は進み、浮標(ふひょう)との距離が充分に取れたところで。


「今だ! 取舵一杯!」

「了解!」


 舵を思いきり切り、船は横風の助けも借りて綺麗に回頭、反転した。

 これだけ大きな船がいとも簡単にそんなことをやってのけ、瞳を輝かせてカルロを見る。


「どうだ。すごいだろ」

「はい! まさかカルロさんに、こんな才能があるなんて思いもよりませんでした!」

「は、はは……」


 自慢げに指で鼻を(こす)るカルロだったが、純粋なヨナゆえの返しに何も言えず、乾いた笑みを浮かべた。


 気を取り直し、カルロはガリレオを見る。


「これで準備が整ったな」

「ええ。あとはこいつ(・・・)をぶっ放すだけです」


 ガリレオが覆っていた帆布(はんぷ)を取り、イルヴェントドーロ号の甲板の先に取り付けられた魔導具がいよいよその姿を現した。

 鋼鉄製の丸太のような大きな筒が土台に支えられ、さらには動力源となる魔力炉が搭載されている。


「この『審判の火』を持ってすれば、きっと守り神を打ち倒すことができる……!」


 魔導具を見つめ、カルロは不敵な笑みを浮かべた。

お読みいただき、ありがとうございました!


おかげさまで本作は今日もハイファンタジー日間1位です!

本当にありがとうございます!


このまま日間ランキング1位を維持するために、どうか皆様のお力を貸していただけませんでしょうか!


もしお力をお貸しいただけるのであれば、

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皆様の応援が、本作の連載を続ける原動力になります!

どうか……どうか応援をよろしくお願いします!!!

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