魔道具の提供元
「俺達はこの魔導具で、『中央海の守り神』を討伐するのさ」
「なんですって!?」
カルロの耳を疑うような言葉に、ヨナは思わず声を上げた。
「ヨナは『中央海の守り神』の伝説ってやつを知っているか?」
「え、ええ……守り神は山のように大きな存在で、人々を守ってくれるって……」
「なら話が早い。はっきり言うと、その伝説はまやかしだってことだ」
「は……?」
言っている意味が分からず、ヨナが呆けた声を漏らす。
『中央海の守り神』の伝説はまやかしだと言っておきながら、その守り神を討伐するというカルロ。これは明らかに矛盾している。
「ああ、言い方が悪かったな。伝説に出てくる『中央海の守り神』は人間の味方なんかじゃない。あいつは……敵だ」
カルロと出逢ってからこれまで、ヨナはこんなにも憎悪に満ちた表情をした彼を見たことがない。
それだけ『中央海の守り神』に、深い因縁があるということなのだろうか。
「あの悪魔が現れたのは半年前、中央海の沖だった……」
眉根を寄せ、カルロが訥々と説明を始める。
ベネディア王国の漁船が数人の漁師を乗せて沖に漁に出たが、いつもなら大漁のはずなのになぜかその日は一匹も魚を獲ることができなかった。
夜まで粘ってみるものの結果は同じで、漁師達は諦めて港に戻ることにした。
その時だ。『中央海の守り神』が姿を現したのは。
伝説にあるとおりあまりにも巨大なそれは、何を思ったのか漁船に襲いかかった。
大きな口を開けて船体に噛みつき、木っ端微塵にする守り神。
その一部始終を唯一生き残った漁師は訴えるが、最初は誰も相手にしない。
そもそも伝説を信じている者もほとんどおらず、しかも、守り神が人間を襲うなどあり得ないと高を括って。
だが、その後も漁船が守り神に襲われる事態が相次ぎ、ようやく王国は重い腰を上げる。
すぐに実態把握と討伐のため、カルロを総司令官とした海軍を編成し、守り神が出没するという中央海の沖へと向かった。
だが。
「そ、そんな……」
カルロをはじめ、海軍の全員が絶句する。
伝説のとおりまるで山だと思わせるほどの巨大な海蛇が、彼等の前に姿を現したのだから。
「っ!? 引け! 引けえええええッッッ!」
カルロはすぐさま退却の指示を出すが、それよりも早く守り神は海軍の船に襲いかかった。
船は次々と破壊され、火矢や軍船に備え付けのバリスタで攻撃を仕掛けるも全く歯が立たない。
海に投げ出されてしまったことで幸運にも生き延びることができたカルロだったが、目の前の惨状……悲鳴を上げる部下が、仲間が食われていく様に戦慄した。
「……そして俺は誓った。必ず守り神を殺し、死んでいった仲間達に報いるってな」
カルロは説明を終えると、唇を噛む。
その瞳に、復讐の炎を宿して。
「それで……帝国の魔導具があれば、倒せるんですか?」
「きっとな。……いや、俺達はあの神気取りの化け物を倒さなきゃいけねえんだ……っ」
鬼の形相を見せ、カルロが歯噛みした。
一方で、ヨナは冷静に分析する。
いくら帝国の魔導具が優れているとはいえ、所詮は対人を想定したもの。超巨大魔獣に通用するかと言えば、その可能性は低いだろう。
(果たして、僕の古代魔法なら通用するかな……)
ハーゲンベルク領で飛蝗を駆除した時に、古代魔法の威力は把握した。
あれだけの規模の魔法であれば、たとえ山のような大きさの守り神であっても通用すると思いたいが、こればかりは実際に相対してみなければ分からない。
いずれにせよヨナの目的は、『中央海の守り神』の伝説をこの目で見ること。
なら、カルロに協力することもやぶさかではないのだが……。
「そういえば、帝国の魔導具をよく買い付けることができましたね。自分達の強さの秘密が暴かれるわけですから、絶対に断られると思ったのですが……」
「よく分かったな。実際、事情を説明して帝国に直接魔導具を譲ってくれって頼んだが、全く相手にされなかったよ」
「じゃあ、どうやって?」
ヨナが尋ねると、カルロが口の端を持ち上げた。
「かなり吹っかけられたが、ある貴族が横流ししてくれたんだ。帝国には内緒でな」
「それは……」
その貴族のやっていることは間違いなく背信行為だと言おうとしたが、今のヨナはラングハイム家の長男でも、公爵子息でもない。
もはや帝国とは縁が切れたのだから、それも関係のないことだと思い至り、ヨナは振り払うようにかぶりを振った。
「で、ですがその貴族、危険を冒してまでよく売る気になりましたね。それにそういった武器は帝国でも厳重に管理されているでしょうから、横流しをしたらすぐにばれてしまうような気もしますけど……」
「知ったことじゃないが、その貴族が言うには『魔導具を独自に生産しているから、帝国が気づくことはない』そうだ」
カルロの言葉に、ヨナは頭が痛くなる。
これでは背信行為どころか、謀反を起こそうと画策していると捉えられてもおかしくはない。……いや、実際に謀反を企てようとしているのかもしれない。
「そ、それで……その貴族の名前は……?」
「ああ、ラングハイム公爵だ」
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