双子の侍女
「ようこそベネディア王国へ。ベネディア王国王太子、“カルロ=レガリタ=ベネディア”はお前を歓迎する」
「えええええ!?」
驚くヨナを見て、カルロはしてやったりとばかりに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
とはいえ、ヨナも彼が身分の高い人物であることは、先日の狼の魔獣が襲ってきた時に薄々気づいてはいたので、内心ではそこまで驚いてはいない。
だが、カルロが楽しそうなのでそれに合わせることにした。まだ十一歳だというのに、ある意味カルロよりも大人である。
そのまま馬車は街の通りを抜け、白い城がある小島へと繋がる橋を渡った。
「ヨナは俺の客人として、しばらくはこの王城で暮らすといい。落ち着いたら、どこかいい場所に住む所を用意してやるからな」
「あ、あはは……」
カルロの気遣いは嬉しいが、『中央海の守り神』の伝説を確かめたら次の伝説を求めて旅を再開する予定なので、ヨナは申し訳なくなって苦笑いを浮かべる。
ただ、中央海を一望できるこの城からなら、その守り神を見つけることができるかもしれないと、ヨナは期待で胸を躍らせた。
「お帰りなさいませ、王太子殿下」
「ああ」
城の中に入ると、黒服を来た侍従が恭しく一礼して出迎える。
その後ろに控える同じ顔をした二人の侍女も、深々とお辞儀をした。
「国王陛下がお待ちです。それと……」
侍従はカルロの傍に寄り、何かを耳打ちする。
そんな二人のやり取りを、ヨナはじっと見つめていた。
「分かった。……ああ、ヨナは俺の大事な客人だから、丁重にな」
「「かしこまりました」」
カルロは侍従とともにこの場を離れ、ヨナはというと……。
「ヨナ様。この“アウロラ”が、あなた様のお世話をいたします」
「いえ、この“プリシラ”が、ヨナ様のお世話を……」
「……プリシラは、“フェデリコ”様の用事があったのでは?」
「お姉様こそ、お部屋の掃除はもうお済みなのでしょうか」
なぜか侍女の二人が、ヨナの世話を巡って言い争いを始めた。
その様子を眺めるヨナはどうしていいか分からず、おろおろとしてしまう。
ただ、同じ顔であることや会話の内容からも、二人は姉妹のようだ。
(それにしても、そっくりだなあ……)
今はアウロラがハーフアップ、プリシラがポニーテールをしているために区別がつくが、髪を下ろしたらきっと判別は不可能だろうと、ヨナが二人を眺めてくだらないことを考えていると。
「「それではヨナ様、どうぞこちらへ」」
どうやら二人は、両方でお世話をすることに決めたようだ。
ヨナは前を歩くアウロラ、後ろに控えるプリシラに部屋へと案内されると。
「うわあああ……!」
「「はうっ!」」
部屋の窓から見える中央海に、ヨナは感嘆の声を漏らす。
森を抜けた街道から見た景色も素晴らしかったが、ここはまるで窓という額縁に飾られた一枚の絵のようだった。
そんなヨナの様子を見て、アウロラとプリシラは胸を押さえ、小さく変な声を上げた。
「コホン……ヨナ様、長旅でお疲れでしょう。お風呂でお身体を癒してくださいませ」
「あ、ありがとうございます。ですが、花びらとかは浮かべなくても大丈夫ですからね」
「く……っ」
咳払いをしてそう告げるアウロラに、ヨナはお礼を言いつつハーゲンベルク家の屋敷での教訓を活かして釘を刺す。
聞こえてきたのは、傍に控えるプリシラの悔しそうな声だった。
◇
「ヨナ様、カルロ殿下との夕食の準備が整いました」
お風呂から上がり、用意された服に着替えたヨナの部屋に、城に到着した時に出迎えてくれた男性……侍従長のフェデリコが訪れ、胸に手を当てて一礼する。
アウロラとプリシラも部屋に控えており、肌をつやつやとさせて満足げな表情を浮かべていた。お風呂で一体何があったのか、残念ながら三人が語ってくれることはないだろう。
なお、入浴中にフェデリコのことをヨナに教えたのもこの二人である。
「あ……ありがとうございます」
「では、まいりましょう」
フェデリコに連れられ、ヨナはカルロの待つ食堂へと向かう。
「カルロ殿下も首を長くしてお待ちです。殿下の幼い頃からお仕えしておりますが、あのように楽しそうにされる姿を見たのは久しぶりでございます」
「そうなんですね」
出逢ってからのカルロを見る限り、ずっと楽しそうにしている印象しかなかったが、長年仕える侍従長がそのように感じたのなら、そういうことなのだろう。
ヨナもカルロと一緒にいると楽しいので、彼も同じように思ってくれていたことを知り嬉しくなった。
「よう! 待ってたぜ!」
既に席に着くカルロが、手を振って気やすくヨナに声をかける。
テーブルには、海の幸がずらりと並んでいた。
「す、すごいですね……!」
「だろ?」
瞳を輝かせるヨナを見て、カルロはどこか得意げである。
そんな二人の様子に頬を緩めるフェデリコと、なぜか「「ごちそうさまでした」」と声を揃えて呟くアウロラとプリシラの二人。
「さあ! 腹いっぱい食えよ!」
「はい! いただきます!」
ヨナは給仕に取り分けてもらった見たことのない魚介の料理を頬張り、あまりの美味しさに至福の表情を浮かべる。
たとえ『中央海の守り神』の伝説に出会うことができなかったとしても、カルロに出逢いこの料理を食べることができただけでも、来た甲斐があったとヨナは思った。
「と、ところで、カルロ殿下は……」
「おいおい、俺とお前の仲だろ? そんな堅苦しく『殿下』なんてつけなくてもいいぞ」
「あ……は、はい。カルロさんは、どこからここに帰る途中だったんですか?」
ヨナはふと疑問に思っていたことをカルロに尋ねる。
カルロとはオーブエルン公国とベネディア王国との国境の森で出逢ったが、一国の王太子である彼が平民を装って一人旅をしていたのは明らかに普通じゃない。
とはいえ、そのことを正面から聞いたところでカルロが答えてくれないことは分かっている。
なので、カルロがどういった場所を立ち寄っていたのか、それが分かればある程度予測できるとヨナは考えたのだ。
まあ、あくまでも興味本位として。
それは王城に到着した際に、フェデリコが『買い付け』という言葉をカルロに耳打ちしていたから。
すると。
「ん? おお……ちょっとエストライア帝国に用事があってな」
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