表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第一章 おせっかいな伯爵令嬢と小さな悪魔
16/138

調査開始

「ああもう……年下のヨナに慰められるなんて、屈辱ですわ……」

「ええー……」


 ようやく泣き止んだと思ったら、なぜか悪態を吐くマルグリット。

 上着を涙と鼻水でびちょびちょにされたヨナからすれば、理不尽極まりない。


 でも。


「フフ……」


 頬を赤らめ、嬉しそうにはにかむ彼女を見てしまっては、何も言えないヨナだった。


「そ、それで、僕から提案なんですが、伯爵様がどうして税を増やしたのか、そのお考えを確認してみてはいかがですか?」

「……無理ですわ。わたくしも一度お伺いしたことがありましたけど、何も教えてくださいませんでしたもの」


 マルグリットは表情を曇らせ、再びヨナの胸に顔を(うず)める。

 彼女のように真正面から尋ねたら、ハーゲンベルク伯爵からそのような反応しか返ってこないのも無理はない。


「ですから、伯爵様本人に確認するのではなく、僕達で調べるんです」

「っ!? し、調べるって!?」


 ヨナの言葉を聞き、マルグリットは勢いよく顔を上げた。


「おそらくハンスさんも協力はしてくださらないでしょうから、僕とマルグリット様で、まずは伯爵様の周辺を監視したりしてみましょう。あとは、街の住民達から聞き込みをしてもいいかもしれませんね」

「ええ! ええ!」


 マルグリットの真紅の瞳に、光が宿る。

 やはり彼女には、今のように力強く誇りと自信に満ちた笑顔がよく似合う。


「あ……で、でも、ヨナは親戚の家を探していたんですわよね……?」

「それこそ今さらじゃないでしょうか。それに、伯爵様が領民を(ないがし)ろにするような御方ではないことが分かれば、きっと街の住民達も親戚の家を探すのに協力してくれるでしょうし」

「そ、そうですわね!」


 ヨナのその一言で、マルグリットはパアア、と顔を(ほころ)ばせる。

 そんな彼女の笑顔に、ヨナまで嬉しくなった。


「では、早速行動を開始しましょう! まずは伯爵様の周辺の調査です!」

「ええ! ……でも、さすがにそれは明日からですわね。今日はもうこんな時間ですもの」

「あ……そ、そうですね」


 マルグリットの視線の先……暗くなった窓の外を見つめ、ヨナも頷く。


「そういうことだから、明日に備えて今夜はたくさん食べますわよ!」

「は、はい!」


 二人は笑顔で頷き合い、手を取り合って食堂へ向かった。


 ◇


 次の日の朝、朝食を終えた二人はハーゲンベルク伯爵の執務室へと向かう。

 午前は来客が来ているとハンスからあらかじめ聞いており、二人はその会話を盗み聞きしようと考えていた。


「……もう来ているみたいです」

「きっと、取引先の商人ですわね」


 二人は頷き合うと、執務室の扉に耳を当てて中の会話を聞く。

 マルグリットの言うとおり、商談中のようだ。


「……少々高くなっても構わん。それより、できる限り多く売ってもらいたい」

「はあ、それは構いませんが……」


 ハーゲンベルク伯爵は何かを買い付けるようだが、相手の商人が戸惑っている様子。

 いずれにせよ、領民達から集めた税収の使い道はここにあるとみてよさそうだ。


「では、よろしく頼む」

「ええ、かしこまりました」


 どうやら商談は終わったようで、二人は急いで通路の陰に隠れた。


 だが。


「それではまた後日」

「うむ」


 執務室から現れた商人を見てヨナは思わず声が出そうになり、慌てて口を塞ぐ。

 それもそのはず。その商人は、馬車の中で一緒だったあの男なのだから。


「……行きましたわね」

「は、はい。それより、ちょっといいですか?」


 ヨナは商人の男から受け取った木札を見せ、マルグリットに説明した。


「ということは、ヨナはあの商人と知り合いなんですのね」

「はい。何か困ったことがあったら、大通りの先にある宿屋へこの木札を持って尋ねてこいって……」

「そう……なら、行くしかないですわね」

「どちらへ行かれるのですか?」

「「っ!?」」


 突然背後から声をかけられ、二人は息を呑む。

 振り返ると、ハンスがにこやかな表情で立っていた。


「もも、もちろん、ヨナの親戚のお家を探しにですわ! そうですわよね!」

「そ、そうです!」


 マルグリットの咄嗟(とっさ)の嘘に、ヨナも相槌を打つ。

 何をしているのかハンスに知られたら、きっと止められてしまうだろうから。


「そうでしたか。なら、私もご一緒いたします」

「っ!? だ、大丈夫ですわ! ヨナもいますし、ねえ?」

「は、はい! 僕が絶対にマルグリット様をお守りします!」

「ふああああ!?」


 ヨナの宣言に、マルグリットが変な声を上げた。

 彼女は幼い頃に今は亡き母に読み聞かせてもらった物語に登場する、お姫様を守る騎士に今も密かに憧れている。


 まさかヨナがその騎士と同じ台詞を言うとは思いもよらなかったらしく、白い肌がみるみるうちに赤くなった。


「そうでしたか。ではヨナ様、お嬢様をどうぞよろしくお願いいたします」


 二人に柔らかい視線を向けていたハンスは、ヨナに(うやうや)しく一礼する。


「さささ、さあ! いい、行きますわよ!」

「わっ!?」


 恥ずかしさを誤魔化すようにマルグリットはヨナの手を強引に引っ張ると、足をもつれさせる彼を連れて大急ぎでその場を離れた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


皆様の評価は、作者にとって作品を書き続ける原動力です!

何卒応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼HJノベルス様公式サイトはこちら!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ