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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第五章 白銀の剣姫と『背教』のタローマティ
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友との語らい

「……フェリペさんは今も、トンマーゾさんに魔塔主になってほしいんですね」

「ああ、そうだ。私は今でも、この男こそが魔塔主に相応しいと思っている」


 ヨナの言葉に、間髪入れずに同意するフェリペ。

 三つの試練を突破できなかったのは、まさにこのためだろう。


 そう……フェリペはただ一人、過去のことに囚われ続けていたのだ。


「残念ですが、小生は魔塔主になるつもりはありませんぞ。お主はそこまで評価してくれますが、生憎自分のことは自分が一番分かっておりますのでな」

「いいや、分かっていない。お前こそが魔塔主に最も相応しいのだ。あの先代の魔塔主様が、そうお認めになったように」


 自分は魔塔主に相応しくないと主張するトンマーゾと、彼こそ魔塔主に相応しいと主張するフェリペ。

 二人の会話は、どこまで行っても平行線になる。そう思われたのだが。


「ぬほほ。そもそも、目の前にこれほど魔塔主として優れた手腕を発揮する様を見せつけられては、逆立ちしても敵いっこありませんぞ」


 そう言ってトンマーゾは楽しげに笑う。

 壁の向こうにいるフェリペは分からないだろうが、ヨナにはトンマーゾが心からそう思っていると感じた。


 つまりトンマーゾは、何一つ後悔をしていないのだ。

 先程過去を語った時は寂しそうな表情を浮かべつつも、己の選択は間違っていないと信じている。……いや、間違っていなかったのだと確信していたのだろう。


 そうでなければ、三つの試練を突破することなど、できるはずがない。


「……小生の考えていたとおり、魔塔主になったフェリペは魔塔の魔法使い達をまとめ上げ、魔導が大きく発展した。それを見てきた小生は、むしろお主に嫉妬しておりましたぞ」

「お前が……? この私を……?」


 壁の向こうから聞こえる、フェリペの信じられないといった声。

 何故なら彼はトンマーゾこそが魔塔で最も優れた魔法使いであり、それは先代の魔塔主が認めたのだから。


「そもそもあの先代魔塔主様が、小生が断った程度で諦めると思いますかな? 小生は直接聞きましたが、どちらを魔塔主にするか悩んでおられたようですぞ。だから苦渋の選択をしようとした先代魔塔主様の背中を、小生が押したまで」

「嘘だ! あの御方はお前を魔塔主にすると、確かに言ったのだ! なら!」

「どれだけ否定しようとも、それが事実。小生の罪は、それをもっと早くお主に伝えなかったこと。……お主はもう、自他共に認める魔塔主なのだと思っていたのですがなあ……」


 魔塔主の選定での一件で生まれたわだかまりこそあれ、それでもフェリペは魔塔主という立場を受け入れていたのだと思っていた。

 ところがフェリペは、まだ自分こそが魔塔主だと認めていなかったのだ。


 そのことを知り、トンマーゾは悔やむ。

 どうしてもっと早く、彼と話をしなかったのかと。


「それに、小生が魔塔に入ったのは古代魔法を研究するため。お主のように魔塔への思い入れはそこまでないのですぞ。そんな男が魔塔主に? 冗談はよしてほしいのですぞ」


 肩を竦め、トンマーゾは軽口を叩く。

 ただし、魔塔への思い入れがないなどという嘘を吐いて。


 十年も過ごしてきたのだ。既に彼にとって魔塔は、帰るべき故郷となっている。

 それでもトンマーゾは、嘘を吐かざるを得なかった。


 壁の向こうにいる、無二の親友のために。


「そういうことですので、お主は諦めて魔塔主を続けるのですな。これ以上小生にその座を譲ろうとしても、お断りですぞ」

「信じられん。……と言いたいところだが、私と違ってお前は試練を突破してこの壁の向こうにいる。つまりは、そういうことか……」


 フェリペは悪態を吐きつつも、その声は静かで言葉も淀みない。

 彼がこの五年間抱えてきたわだかまりがなくなったのかと問われれば、きっとそんなことはないのだろう。


 ただ、これを事実として受け入れようと、そう努力することを決めただけ。


「おい」

「何ですかな?」

「戻ってきたら覚悟しろ。これまでのことを含め、言いたいことは山ほどあるんだからな」

「ぬほほ、そうですな。小生も、お主には言いたいことは山ほどありますので」


 トンマーゾは笑いながらそう答えると、徐に立ち上がった。


「ヨナ君。では、まいりますかな」

「あ……は、はい!」


 無二の友とは、壁を挟んで五年ぶりに語り合った。

 この続きは、地下迷宮から帰ってからするとしよう。


 トンマーゾはそう考えながらカイゼル髭をつまみ、ヨナとともに再び暗闇の続くらせん階段を降りて行った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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