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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第五章 白銀の剣姫と『背教』のタローマティ
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お前は卑怯だ

「……それからはフェリペとまともに言葉を交わすこともなく、小生は引きこもって前以上に古代魔法の研究に没頭しておったというわけですぞ」


 全てを語り終えたトンマーゾは、力なく笑う。

 何故これほどまでに二人が険悪な雰囲気だったのか、どうしてトンマーゾはどこか遠慮がちで、フェリペが彼に対して辛辣だったのか、ヨナはようやく理解した気がした。


 ただ。


「それでも、分からないことがあります。どうしてフェリペさんは、それほど嫌っているトンマーゾさんに、魔塔のシンボルとも言うべき『ノルニルの宝玉』を惜しみなく貸し出してくれたのでしょうか」


 そう……過去の出来事を恨んでいるのであれば、トンマーゾに力を貸すなどあり得ない。

 つまりそれは、わだかまりこそあれ、フェリペにとってまだトンマーゾは親友なのだということではないか。


 とはいえ、地下迷宮へと続く螺旋階段の入り口が開かれた時、ヨナは見た。

 フェリペが、まるでそれを望んでいないかのように苦々しげな表情で舌打ちをした姿を。


「それは分かりませぬが、きっとこの件で責任を取らせ、小生を魔塔から追い出そうとしておったのかもしれませぬな」


 そう言ってトンマーゾは苦笑する。

 伝説にある『昏き地下迷宮の不死王』に至るこの場所を発見したのだ。これは過去を振り返っても素晴らしい功績となることは間違いない。


 ならばフェリペの思惑は外れたことになり、トンマーゾはこれからも魔塔にいることができるだろう。舌打ちの意味も、それなら頷ける。


「……ヨナ殿。小生はこの先で古代魔法を見つけたら……いや、仮に何もなかったとしても、魔塔を去ろうと思いますぞ」

「え……?」


 入り口の明かりも見えない暗闇の先を見上げ、トンマーゾははっきりと告げた。

 微笑みこそ浮かべる彼の瞳は悲しみを湛えつつも、揺るぎない決意のようなものが窺える。


「ぬほほ、さすがに潮時というものでしょう。何も成すことができなかった小生が、いつまでも夢に縋るようなことはできませぬので」

「で、でも! そうしたら古代魔法を見つける夢は……」

「ヨナ殿がおりますぞ。古代魔法を使える君なら、いつか……いいや、きっとその深淵にたどり着けると信じております。こう見えて小生、人を見る目は確かですからな」


 ヨナを見つめるトンマーゾの瞳には、期待と未来に向かう彼への激励が込められていた。

 だが、彼は知らない。ヨナの未来が、残り九か月足らずしかないことを。


「……そんなの、卑怯ですよ」


 トンマーゾの期待に応えられないヨナは、絞り出すような声で告げる。

 自分はもう未来など残されていない彼にとって、夢も未来もある大人がそれを放棄するなど許せるはずがない。


「ヨナ殿の言うとおり、小生は卑怯ですな……」

「ああ、お前は卑怯だ」

「「っ!?」」


 ヨナの言葉に自虐気味に相槌を打ったトンマーゾに追い打ちをかけるように……いいや、非難するように辛辣に同意する声。

 二人は周囲を見回すが、この場にはヨナとトンマーゾしかいない。


 なら。


「……どうやら私は、ここの試練を突破することができなかったようだ」


 その声は、そびえ立つ壁の向こうから聞こえた。

 言うまでもない。ここまで一緒に階段を降りてきた、フェリペのものだ。


「フェリペさん、そ、その……」

「過去に盲執(もうしゅう)し、未だに受け入れることができない私に、この先へ行く資格はないらしい。まったく、忌々しい話だ」


 諦めと呆れが入り混じった彼の声。

 だが不思議と、どこか納得しているようにも感じ取れた。


「私は今でも、トンマーゾ=ロッシという男を許せん。いや、許せるはずもない」

「…………………………」

「だってそうだろう。この男は誰よりも……この私よりも、魔塔にいる魔法使いの中で最も優秀でありながら、古代魔法を見つけることを言い訳(・・・)にして、今もなお逃げ続けているのだからな」


 トンマーゾが語った過去では、本来はフェリペではなく彼こそが次の魔塔主に選ばれた。

 それを手放しフェリペにその座を譲ったのは他でもない。トンマーゾ自身なのだ。


「魔塔主様からトンマーゾを次の魔塔主に指名することを聞かされた際、確かに落ち込みもした。だがそれと同時に、私はトンマーゾであれば納得できると、そう思っていた。なのに」


 フェリペが絞り出すように告げた言葉で、ヨナは理解する。

 フェリペは決してトンマーゾを憎んだわけではない。これは、彼なりの叱咤しったなのだと。


 トンマーゾと顔を合わせるたびに皮肉を言っていたのは、そういった理由があったのだ。


 それだけじゃない。

 『ノルニルの宝玉』という魔塔の宝を彼のために提供し、一方で地下迷宮の入り口を見つけた時に舌打ちをした。


 それもきっと、古代魔法という幻想に囚われるトンマーゾに、現実を見せるため。


 何故フェリペが、そんなことをしたのか。


 それは。


「……フェリペさんは、トンマーゾさんに魔塔主の座を譲りたいんですね」

お読みいただき、ありがとうございました!


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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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