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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第五章 白銀の剣姫と『背教』のタローマティ
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行く手を阻む壁

「暗くてかなわん。【ライト】」


 階段をほんの少し降りたところで、フェリペが右の手のひらをかざすと、そこから拳大の光の球体が放たれた。

 球体は三人の頭上を浮遊し、地下へと通じる階段を明るく照らす。


 すると。


「うわあああ……!」


 現れたのは、魔塔と同じ直径はあろうかというどこまでも深い穴と、外壁に沿って下へと通じる長く果てしない螺旋の階段。

 それを見たヨナは、思わず感嘆の声を漏らした。


「……まさか魔塔の下に、これほどのものがあったとはな」

「確かに驚きですぞ。ですが、これでますます古代魔法への期待が高まりますな」


 眉根を寄せるフェリペとは対照的に、トンマーゾは期待に胸を膨らませ瞳を輝かせる。

 ただ、この下に何かあるということだけは、二人の……いや、ヨナを含めた三人の共通認識だった。


「これ、どこまで続いているのかな……」


 地下階段を降り始めてから既に一時間以上が経過し、ヨナが呟く。

 ヨナの額には珠のような汗が浮かんでおり、明らかに疲労しているように見受けられた。


 無理もない。本来の彼はまともに動くことができないほど身体が壊れており、今はただ【マリオネッテ】で操っているだけ。

 その魔法も常時発動し続けなければならず、しかも精密な操作を求められるのだ。普通の者なら大したことはないのかもしれないが、この程度でもヨナへの負担は大きい。


 肉体にも、精神にも。


 すると。


「わわっ!?」

「さあ、行きますぞ」


 ヨナの様子に気づいたのだろう。トンマーゾは半ば強引に彼を背負った。


「だ、大丈夫です! 僕はまだ……」

「黙って背負われていろ」


 足手まといになりたくないヨナが降りようとするが、それをフェリペがぶっきらぼうな言葉で制止する。

 ただ、その言葉には有無を言わせない圧のようなものがあった。


「……ごめんなさい」

「何を謝ることがある。このほうが時間も短縮できてちょうどいい」


 うつむき謝罪するヨナに、フェリペが告げる。


「ぬほほ、相変わらず言い訳が下手ですな」

「ふん、うるさい」


 トンマーゾに揶揄われ、フェリペが鼻を鳴らして顔を背けた。

 どうやらこれは彼なりのヨナへの気遣いだったようて、そう考えるとこの男も存外悪い男ではないのかもしれない。


 そうして、さらに進むこと二時間。


「これは……」


 まるで三人の行く手を塞ぐかのように、階段に巨大な石の壁が出現した。

 壁の端には、古代文字が刻まれている。


「ヨナ君、ここには何と?」

「はい。ええと……『汝に三つの試練を与えん。全てを乗り越えた時、答えが授けられる』とのことです」

「むう、『三つの試練』か……」


 フェリペが口元を押さえ、僅かに唸る。

 もちろん彼もそう易々と進めるとは考えていないが、古代文字が示す『三つの試練』というものが、危険を伴うものであると見て間違いない。


 何より、ヨナやトンマーゾとは違い、フェリペにはこれより先に進む目的はない。魔塔の責任者という立場を考えれば、ここで引き返すというのも一つの手である。


 だが。


「当然、行くのだろう?」

「はい!」

「ぬほほ、聞くまでもありませんな」


 問いかけるフェリペに、ヨナとトンマーゾは強く頷く。

 目的のある二人はともかく、フェリペは本当にそれでよいのだろうか。それとも、彼は彼なりに『三つの試練』を受けるだけの目的があるのだろうか。


 いずれにせよ。


「この壁に刻まれている魔法陣に、手を添えるみたいです」

「そうか」


 ヨナの言葉を受け、躊躇なく魔法陣に触れるフェリペ。ヨナとトンマーゾもそれに続いた。


 その時。


「っ!?」


 ヨナの視界を、これまでの十一年という短い人生が走馬灯のように……だが、なぜか逆行するように過ぎて行った。


 そして。


(ここは……ひょっとして、ラングハイム家……?)


 現れたのは、別れを告げたはずの実家の庭園。

 物心ついた頃から、部屋のベッドの傍の窓から眺めていた景色が、目の前にあった。


「奥様、あまり無理はなさいませんように……」

「うふふ、今日はすごく体調がいいの。それにほら、この子も喜んでいるわ」


 心配する侍女をよそに、黒髪の美しい女性は優しい笑みを浮かべ、大きくなった自分のお腹を慈しむように撫でる。

 彼女こそ、ラングハイム家で拠り所にしていた女性(ひと)


 ――ヨナの母、マルテ=コルネリア=ラングハイムだった。


(母上……!)


 ヨナは声にならない声を絞り出し、一歩、また一歩とマルテへ近づこうと歩み寄る。


(母上! 母上ええええええええッッッ!)


 オニキスの瞳に涙を浮かべ、これまでの想いを声に乗せてヨナは叫ぶ。


 ここにいるよと、気づいてほしくて。

 ずっと頑張ってきたんだよと、褒めてほしくて。


 だが。


「マルテ、これ以上は君の身体に障る。屋敷の中に入りなさい」

「あなた……はい」


 現れたラングハイム公爵がマルテの肩を抱き寄せ、二人並んで仲睦まじく屋敷へと入って行った。

 今もなお大粒の涙を零して母を呼ぶ、ヨナを一人残して。

お読みいただき、ありがとうございました!


皆様にお知らせです!


『余命一年の公爵子息は、旅をしたい』がHJノベルス様より書籍第1巻が絶賛発売中!

おかげさまで大好評となっております!


挿絵を担当されるのはシソ様! 可愛らしいヨナとカルロ、それにアウロラ・プリシラの双子姉妹が目印です!


まだお買い上げでない方は、どうかどうかお手に取ってくださいませ!

書店様にない場合は、是非ともお取り寄せを!


よろしくお願いいたします!!!


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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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