地下迷宮を目指して
「この下に、古代魔法の手掛かりが……!」
暗闇の中にどこまでも続く階段の先を見つめ、トンマーゾが瞳を輝かせる。
その隣で。
「…………………………ちっ」
フェリペがつまらなそうに舌打ちをしたのを、傍に控えていたヨナは見逃さなかった。
「ヨナ君! きっとこの先に、古代魔法があるに違いないのですぞ!」
「そ、そうですね……」
はしゃぐトンマーゾとは対照的に、ヨナはフェリペが気になって仕方がなかった。
もちろんヨナも、階段を降りれば『昏き地下迷宮の不死王』が待っているかと思い、気が逸っているのは間違いない。
だがそれ以上に、フェリペから感じる違和感を払拭することができないでいた。
「これより先は、私とトンマーゾで向かう。君達はここで待機していたまえ」
「っ!? お、お待ちください! どのような危険が待ち受けているのか、分からないのですぞ!」
「そうです! それにこの男では、いざという時にフェリペ様をお守りできません! どうか私達も一緒に!」
二人の魔法使いが前に出て、必死に訴える。
フェリペがどういう意図で二人だけで階段を降りようと考えたのかは分からないが、いずれにせよこのままではヨナもここに取り残されてしまう。
だから。
「待ってください! 僕も一緒に行きます!」
魔法使いの二人に負けじと、ヨナも胸に手を当てて訴えた。
「馬鹿を言え! フェリペ様には子供のお守りをする余裕などないのだ!」
「そうです! こんな子供より、どうか私達をお連れください!」
魔法使いの男が怒鳴り、ここぞとばかりに魔法使いの女がフェリペに懇願する。
「……トンマーゾ、貴様の助手だろう。なら貴様がこの少年を説得……」
「失礼ですがあなたは、これが読めますか?」
顔をしかめトンマーゾに説得を促すフェリペに、ヨナは床に刻まれた古代文字を指し示した。
「む……癪だが私には読めん。だがトンマーゾがいれば……」
「残念ですが小生にも読めませんぞ。何より、古代文字を解読しここを発見することができたのは、全てヨナ君のおかげでしてな」
カイゼル髭をつまみ、少し得意げに話すトンマーゾ。視線をヨナへと移すと、軽くウインクをした。
どうやらヨナが同行できるよう、トンマーゾは手助けしてくれたようだ。
「お願いします! きっと役に立ってみせますから!」
そう言うと、ヨナは深々と頭を下げる。
求める伝説に繋がるかもしれない階段を目の前にして、ヨナに引き下がるという選択肢はない。
何よりヨナにとって、残り一年の人生の全ては、世界中の伝説を纏めた本に記された伝説を、この目で確かめるためにあるのだから。
「…………………………」
腕組みをし、静かに目を瞑るフェリペ。
その様子を、ヨナと魔法使いの二人が固唾を飲んで見つめていると。
「……分かった。少年、私達と一緒に来るのだ」
「は、はい!」
「お待ちください! それでは我々は……!」
静かに目を開けたフェリペの答えにヨナは色めき立つ……が、一方で納得がいかないのが魔道士の二人。
ただの少年に過ぎないヨナが同行を許され、体力も魔法の実力も上だと自負する自分達が留守番をするなど、到底認められない。
だが、そんなことはフェリペにはお見通しのようで。
「君達には私が不在の間、この魔塔を預かるという重要な役割がある。動力室から『ノルニルの宝玉』が持ち出され、魔塔の機能が失われた今、私の代わりにここにいる全ての魔法使いを束ねることができるのは、君達を置いて他にいないのだ」
「「…………………………」」
フェリペの言葉に、魔法使いの二人は言葉を失う。
彼から自分達に向けられた信頼と期待への喜びと、与えられた使命への重圧で。
「分かるな」
「「はい……」」
こう言われてしまっては、魔法使いの二人は受け入れるしかない。
フェリペに優しく肩を叩かれ、二人は唇を噛み頷いた。
「さあ、行くぞ」
「は、はい!」
「ま、待つのですぞ!」
踵を返し、さっさと階段を降りて行くフェリペ。その後をヨナとトンマーゾは、慌ててついて行った。
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