見つけた手がかり
書籍第1巻が、いよいよ明日発売!
あとがきまで、どうかご覧くださいませ!
「これで粗方確認したものの……」
「残念ながら、古代魔法に関するものはなかったですね……」
窓から月明かりが差し込むトンマーゾの研究室。二人はあからさまに肩を落とす。
とはいえ、フェリペ達に絡まれた直後のような空気は既になく、二人……いや、トンマージにあるのは、古代魔法への情熱だけ。
そしてトンマーゾは、ヨナが古代魔法の使い手ではないのだと、引き続きその考えをあえて貫いている。
「ですけど、古代魔法は絶対に存在するんです。それに、石板や魔導具に刻まれている古代文字も、古代魔法のものと同じ……だと思います」
「そ、そうですな! こうなったら、魔塔の隅々まで調べ尽くしてやりますぞ!」
トンマーゾの優しい思いを汲みつつも、今も古代魔法【マリオネッテ】を使い続けているヨナは、彼を励まし背中を押す。
彼もまた拳を振り上げ気勢を上げた。
少し白々しくもある二人のやり取りがどこか滑稽で微笑ましく思うが、そんな二人の互いを気遣う優しさが小さな奇跡を起こす。
それは。
「っ!? これ……」
魔塔の地下三階にある、今は誰も使われていない埃塗れの倉庫の中。
壁の隅に置かれていた棚の裏側に、確かに刻まれていた。
――『汝を誘わん。いにしえの魔の頂へ』
「ヨナ君……ひょっとして……」
「……古代魔法に関してのものかどうかは分かりませんが、この倉庫の中には、何かしらの手掛かりがあるんだと思います」
色めき立つトンマーゾに、ヨナは冷静に答える。
だが、『いにしえの魔』が古代魔法を指しているのだと、ヨナは確信していた。
「ぬほほ! ならば、この倉庫を隈なく調べますぞ! ようやく……ようやく手掛かりを見つけたのですからな!」
「はい!」
二人は倉庫の中のものを洗いざらい確認し、無関係と思われるものを次々と外へと放り出す。
長年未使用となっていた倉庫だけにヨナ達は埃塗れになったが、トンマーゾはあと少しで古代魔法の一端に触れることができる喜びで、そんなことは一切気にしない。
その一方で、ヨナは別の意味で倉庫内の調査に躍起になっていた。
(ひょっとしたら……ううん、とにかく確かめてみないと)
そう……魔塔のどこかにあるという伝説の地下迷宮へと通じる道が、ここにあるかもしれないのだから。
「っ!? ヨナ君、こっちですぞ!」
何かを発見したのか、トンマーゾが大声で叫ぶ。
ヨナは大慌てで、彼のいるところへ走った。
「これは……」
トンマーゾが指し示す床にあったのは、刻まれた古代文字と三つの丸い窪み。
古代文字は、『魂を三つ捧げよ。さすれば答えを与えん』と記されていた。
「なるほど……その『三つの魂』というものが、鍵ということですな」
ヨナの説明を聞き、トンマーゾはカイゼル髭をつまみながら頷く。
とはいえ、この『三つの魂』というものが何なのか、ヨナには皆目見当つかない。
そう思っていると。
「トンマーゾさん?」
「……『三つの魂』について、小生に当てがありますぞ」
いつになく神妙な面持ちで、トンマーゾが呟く。
どうやら彼は、その『三つの魂』のことを知っているようだ。
「行きますぞ、ヨナ君」
「わわっ!?」
ヨナの手を引き、倉庫を出るトンマーゾ。
彼は一体、どこへ連れて行こうとしているのか。ヨナは尋ねようとするも、トンマーゾは話しかけられない空気を出しており、ただ黙ってついて行くことしかできなかった。
そして。
「ここ、は……」
やって来たのは、魔塔の上層階にある部屋の扉の前。
トンマーゾの研究室の扉と比べかなり豪奢で重厚な扉は、どこか威厳を感じさせる。
「ここはフェリペの研究室ですぞ。彼は今やこの魔塔で最も権力のある魔法使いの一人でありますからな」
真剣な表情を崩さないまま、トンマーゾがヨナに告げる。
何故、どうして彼がこの研究室へやって来たのか。言うまでもなく、『三つの魂』を手に入れるために必要だからなのだろう。
トンマーゾは二度、三度と深呼吸を繰り返すと、意を決して扉を叩いた。
「はい……って、トンマーゾ教授……」
「失礼。フェリペはおりますかな?」
扉を開けて出てきたのは、フェリペと一緒にいた魔法使いのうちの一人の女性。トンマーゾは間髪入れず、研究室の中へ入ろうとするが。
「……フェリペ様は今、大事な研究の最中です。トンマーゾ教授を中へ通すわけにはいきません」
「悪いがこちらも引き下がれないのですぞ」
「っ!?」
日々古代魔法の研究にばかり明け暮れ、何一つ成果を上げることができない男。
変わり者で、どれだけ馬鹿にされても、貶されても、ただへらへらと笑っているだけの、恥も外聞もない無能な男。
たった一人の偉大な魔法使いの温情によってかろうじて首が繋がっているだけの、魔塔の役立たず《・・・・》。
そのトンマーゾが初めて見せる覚悟に満ちた表情と迫力に、魔法使いの女は気圧されたじろいでしまった。
その隙に。
「あっ!?」
「フェリペ、話があるのですぞ!」
魔法使いの女を押し退けて研究室内に入ったトンマーゾは、大きな声で告げた。
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お知らせです!
『余命一年の公爵子息は、旅をしたい』がHJノベルス様より書籍第1巻がいよいよ明日、8月19日(火)に発売されます!
挿絵を担当されるのはシソ様! 可愛らしいヨナとカルロ、それにアウロラ・プリシラの双子姉妹が目印です!
早い書店様では、既に並んでいるところもございます!
本作を長く続けるためにも、どうかどうか、予約をはじめ書店様でお見かけの際は、ぜひともお手に取ってくださいませ!




