魔塔の教授 トンマーゾ
「「トンマーゾ教授、お帰りなさいませ」」
「うわわわわ!?」
魔塔の門を守るように立つ、屈強な二人の兵士の石像が恭しく一礼し、ヨナは驚きの声を上げた。
どのような仕掛けになっているのかは分からないが、よく観察してみるとその動力源は魔力のようだ。
「トンマーゾさん、ひょっとしてこの石像は魔導具なのですか?」
「ご明察ですぞ。魔塔から生み出される魔力によって、半永久的に動く仕掛けとなっております」
「すごいや……!」
兵士の石像もさることながら、トンマーゾの言葉にヨナは興奮を隠せない。
魔塔が独自に魔力を生み出していること。その魔力が尽きることがないこと。
いつ、誰がこの魔塔を建造したのかは分からないが、間違いなくここは、魔導の頂点にある存在なのだと認識するには充分だった。
「ぬほほ、この程度で驚いていては困りますぞ。何せここでは、あり得ないこと《・・・・・・・》が日常的に起こり得る場所なのですからな」
「でも魔塔の皆さんは、そのあり得ないことを日々解き明かそうとしているんですよね」
「……残念ながら幾人もの優秀な魔法使いが研究しても、判明できたのはほんの一握り。小生達は、日々理解できないまま魔塔の恩恵を受けているに過ぎないのですぞ」
はしゃぐヨナの様子を見て嬉しそうにしていたトンマーゾだったが、ヨナの何気ない言葉を受け表情を曇らせてうつむく。
だが。
「ですが、そのために小生達は日々研究を笠ね、この魔塔の謎を……いえ、魔導の全てを解き明かそうとしているのですぞ!」
トンマーゾは勢いよく顔を上げ、決意に満ちた表情で熱く語った。
その姿から、彼が如何に魔法に情熱を燃やしているかが窺える。
「トンマーゾさん、すごいです!」
「ぬほほ、何を言っておりますかな? ヨナ君も試験に合格して、一緒にこの魔塔の謎を解き明かすのですぞ」
「あ……そ、そうでした」
おどけるトンマーゾに、ヨナは少しだけばつが悪そうに答えた。
ヨナの目的は『昏き地下迷宮の不死王』の伝説をこの目で見ることであり、興味こそあるものの、決して魔塔で魔法の研究を行うことではない。
魔塔の中に入りたかったのも、全ては伝説にたどり着くためなのだから。
「ということで、ここが小生の研究室になりますぞ」
「わ、わああああ……」
感嘆の声なのか、あるいは言葉を失ってしまったのか。
トンマーゾが開け放った研究室の扉の向こうには、足の踏み場もないほど書物や研究導具などが散乱しており、ヨナはなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
「さあさあ、入るのですぞ」
「わ、わっ!?」
背中を押され、否応なしに研究室の中へと入ったヨナ。
どうしても避けることができず、いくつかの書物などを踏みつけてしまった。
「ではここに」
「は、はあ……」
乱暴に積まれていた書物をどかし、トンマーゾはヨナに椅子に座るように促す。
だが椅子は思いのほか老朽化しており、普通に座れば足が折れてしまうのではないかと思わせた。
(だ、大丈夫だよね……)
おそるおそる腰をかけると、みし、みし、と音が鳴り、ヨナはただ椅子が壊れないことを祈るばかりだった。
「あ、あの、それで助手としての僕の仕事というのは……」
「それは今からお話ししますぞ」
同じく朽ちかけた椅子に腰を下ろし、トンマーゾは説明を始める。
トンマーゾ曰く、助手といってもする仕事は限られており、書類の整理や魔導具の片づけと手入れが主な業務というものだった。
それに加え。
「もちろん、魔法の実験を行う場合には大いに手伝ってもらいますぞ! 一緒に魔法の全てを解き明かすのです!」
「あ、あはは……」
息がかかりそうなほど顔を近づけ熱弁するトンマーゾに、ヨナは僅かに腰が引ける。
それだけ魔法のことが大好きなのだろうが、それでも、もう少し距離感を考えてほしいと思うヨナだった。
「じゃ、じゃあ、早速お片付けをしますね」
「あ、ヨナ君!?」
既に限界と言わんばかりに軋み出した椅子から逃げるように飛び降り、ヨナはそそくさと床に散乱する書物などを片付け始める。
トンマーゾはヨナを制止しようと手を伸ばしたかと思うと、苦笑いをしてその手を引っ込め、研究に取りかかった。
(これ、今日中に終わるかな……)
せっせと書物を抱えながら、ヨナは不安そうに室内を見回した。
お読みいただき、ありがとうございました!
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