兄のような王太子と双子侍女との再会
いよいよ連載再開です!
また、お知らせがありますので、あとがきまでお読みくださいませ!
「うわあああ……! やっぱりすごく綺麗……!」
転移魔法によりベネディア王国の港に来たヨナは今、中央海を眺め感嘆の声を漏らしていた。
昨夜はハーゲンベルク邸でマルグリットやハーゲンベルク侯爵と楽しい一夜を過ごし、次の伝説に向かうためこの国に立ち寄ったのだ。
ただ。
「マリーにも、この海を見せてあげたいな……」
今朝マルグリットと別れる時の彼女の悲しそうな表情を思い出し、ヨナは胸がちくり、と痛い。
残り九か月足らず。世界中の伝説に出逢うこともさることながら、彼女との思い出をたくさん作ろう。ヨナはそう考えた。
すると。
「あれ? ひょっとして……」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには。
「カルロさん!」
「はは! やっぱりヨナじゃねーか!」
二か月前、『中央海の守り神』の伝説を見るためにこの地を訪れたヨナ。その過程において共に海蛇の魔獣を討伐し絆を結んだ、彼にとって兄と呼べる存在。
ベネディア王国の王太子、カルロ=レガリタ=ベネディアだった。
「ヨナ、元気にしてたか!」
「わぷっ!? は、はい!」
乱暴にヨナの頭を撫で再会を喜ぶカルロ。
ヨナもまた、この懐かしい歓迎に思いきり顔を綻ばせた。
「っと。それでヨナは、この国に何の用だ? ひょっとして、『中央海の守り神』に会いに来たのか?」
海蛇の魔獣討伐時に現れた、山のように巨大な白い魚。それこそが伝説の『中央海の守り神』だったわけだが、今回はそれが目的ではない。
「実は、フィオレンツァの街に行こうと思いまして」
「フィオレンツァ? ああ、なるほど」
ヨナの言葉を聞き、納得の表情を浮かべ頷くカルロ。
それもそのはず。フィオレンツァは魔導都市と呼ばれ、世界中の魔法使い達が集う場所。
何より――あの街には、〝魔塔〟と呼ばれる世界最高峰の魔法研究機関がある。
古代魔法の使い手であるヨナがその地を目指すのは当然だと、カルロは考えたのだ。
「つーことは、ここから船で向かうつもりなんだな」
「はい!」
転移魔法を使えばすぐにでもフィオレンツァに行くことができるが、古代魔法を覚えるまでずっと寝たきりだったヨナは、旅そのものを楽しもうと決めている。だから彼は、あえて一般の交通手段を使うことにしている。
とはいえ、残された時間も限られているので、ベネディア王国へは普通に転移魔法を使っているのだが。
「だとしたら、二、三日は足止めかもな」
「え……?」
「早ければ今夜にも時化が来る」
カルロの言葉の意味が分からず、呆けた声を漏らしたヨナ。それを見て、彼は補足した。
だが、現在のベネディア王国は雲一つない晴天。とても海が荒れる様子はない。
「こればっかりは長年の勘ってやつだがな、ほぼ間違いないぜ。それに、あれを見てみろ」
そう言ってカルロが指差した先は、海とは反対の方角。そこには海猫が空を舞っていた。
「あいつ等は時化が来る時は、ああやって避難するんだ」
「へえー……!」
自分の知らなかったことを教わり、ヨナはカルロを尊敬の眼差しで見つめる。
初めての出逢い……オーブエルンの森の中でも、彼は色々なことを教えてくれた。
火の起こし方や、干し肉を串に刺すやり方など、本の知識だけでは分からないようなことを。
「やっぱりカルロさんはすごいですね」
「おいおい、そんなに褒めたって美味い飯しか出ねえぞ」
カルロは少し照れたふりをしつつ、ヨナの手を引いた。時化のこともあるが、早速ヨナを王城へ招待するつもりのようだ。
そして。
「「ヨナ様!」」
出迎えたのは、アウロラとプリシラの双子の侍女。
ヨナを見た瞬間、これ以上ないほど瞳を輝かせた。
「時化が治まるまで、ヨナにはここで過ごしてもらう。その間、しっかり世話を頼むぞ」
「当然です! もちろんです!」
「このプリシラが、誠心誠意お世話いたします!」
「……お待ちなさいプリシラ。あなた、フェデリコ様からおつかいを頼まれていたのでは?」
「それであれば午前中に済ませております。お姉様こそ、お洗濯はお済みなのでしょうか」
「あ、あはは……」
どちらがヨナをお世話するかで言い争いを始めるアウロラとプリシラ。変わらない二人の姿に、ヨナは苦笑する。
だけど、この二人がヨナを誰よりも大切にし、心を尽くしてくれたことを知っている。
少々暴走気味ではあるが、ヨナはそんな二人が大好きだった。
「とりあえず、今夜は再会を祝してパーティーをするから、二人とも頼んだぞ。ヨナを最高に格好よくしてやってくれ」
「「お任せください」」
カルロの言葉を受け、アウロラとプリシラは獰猛な笑みを浮かべた。
まさにヨナという可愛らしい草食動物を前にした、肉食獣のように。
「さあ、ヨナ様。お着換えをいたしましょう」
「お姉様お待ちください。その前にお風呂に入っていただきませんと」
「確かにプリシラの言うとおりですね」
「あ、はは……」
先程まで言い争っていたはずなのに、気づけば息ぴったりの二人。
これから待ち受ける試練を思い浮かべ、ヨナは顔を引きつらせた。
お読みいただき、ありがとうございました!
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