『女傑』と呼ばれた領主との『絆のカケラ』
とても大切なおしらせがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
「さあ! このランベルク領を脅かしてきた『背教』のタローマティは、もういないわ! この偉業を、グラッツを挙げて盛大に祝うわよ!」
「わわっ!?」
ヨナを抱きかかえ、ランベルク公爵は高らかに宣言する。
長年苦しめてきた魔王軍残党はタローマティという指導者を失い、烏合の衆と化した。こうなれば、国境周辺から一掃することも容易いだろう。
「もちろん、今夜の主役はヨナよ」
「ランベルク卿、できればそれはやめていただきたい」
頬ずりをしてそう告げるランベルク公爵に、パトリシアがすかさず釘を刺す。
元々ヨナを利用したり危害を加えようとする者が現れることを危惧し、先日の会談を茶番にしたのだから。
「だけど、魔王軍幹部の二人も、しかもたった一人で倒したヨナは、かつての勇者にも比肩すると思うわ。なのにそれが認められないのは、気に入らないわね」
「そのせいでヨナが狙われることになっても、ですか?」
「……ごめんなさい、失言だったわ」
ランベルク公爵も、ヨナが無事だったことの安堵とタローマティの討伐を果たしたことで舞い上がってしまっていたのだろう。パトリシアのその一言で我に返り、ランベルク公爵は謝罪する。
「で、でも、今夜の祝賀会には参加してもらうわ。私の大切なパートナーとして」
「っ!?」
不用意なランベルク公爵の言葉に、ティタンシアは息を呑み、眉根を寄せる。
ランベルク公爵は『大切な弟のような存在』というつもりなのだが、残念ながらティタンシアはそう受け取らなかった。
なので。
「それは駄目。ヨナのパートナーはわたしが務める」
「駄目よ! ヨナは私の隣で一緒に祝賀会を楽しむの!」
「絶対に認めない」
睨み合うティタンシアとランベルク公爵。
『大切な弟』と『大切な想い人』という違いはあるものの、ヨナが何よりも大切で、一緒に楽しみ、喜びを分かち合いたいという思いは同じ。ならば、どうしてヨナの相手役を譲ることができるだろうか。
だが。
「そ、そのー……僕、もう行こうと思います」
ヨナは申し訳なさそうな表情で、おずおずと二人に告げる。
自分のことを大切に想ってくれる二人や、カレリア王国からずっと一緒だったパトリシアと別れるのは寂しいが、ヨナは次の伝説を求めて旅立たなければならない。
残された時間は、あと九か月を切ったのだから。
「っ!? 行くってどこに!? そ、その……ヨナさえよければ、ずっとここにいてくれていいのよ?」
「……もう、あの時みたいにヨナがいなくなるのは嫌」
ランベルク公爵は縋るような瞳で説得をし、ティタンシアは今にも泣き出しそうな表情を見せる。
弟と死に別れ、またもやヨナを失うかもしれないと思ったランベルク公爵として、到底受け入れ難かった。
ティタンシアに至ってはなおさらだ。
『渇望』のザリチュを倒したと思えば、妖精王オベロンの手によってカレリア王国へ転移させられてしまったヨナ。
満足に別れの挨拶を交わすことすらできず、ヨナへの恋心を募らせていたティタンシアだ。もう二度と離れたくないと思うのは当然だった。
でも……それでも。
「ランベルク閣下、ティタンシアさん、ごめんなさい」
ヨナにできることは、ただ深々と頭を下げて謝罪するだけ。
こんなにも求めてくれた二人の優しさがこの上なく嬉しい反面、一緒にいてこれ以上つらい思いをさせたくない。
「……二人共、別にこれが今生の別れではない。それに、ヨナにはヨナの次がある。私達にできることは、ヨナのこれからを見送ることだけだ」
二人の肩に手を置き、パトリシアが諭す。
本音を言えばヨナと離れ離れになることに一抹の寂しさを覚えるパトリシアではあるが、それでも、次を目指すヨナを送り出すのだ。別れを惜しんでヨナを苦しめるわけにはいかない。
そんなパトリシアの思いを汲み取ったヨナは、どこか寂しさや悲しみが入り混じった笑顔を見せる。
彼にとってもまた、旅の中で最も長く一緒にいた女性なのだから。
「その……ほ、本当にありがとうございました! 皆さんに出逢えて、とっても幸せでした!」
「「ヨナ……」」
ランベルク公爵は眉根を寄せて唇を噛み、ティタンシアは新緑の瞳から涙を零す。
パトリシアは……ただ、笑っていた。
「それではまた!」
「! え、ええ!」
「ん! 絶対約束!」
「ふふ……またな」
三人に見送られ、魔法陣に乗ったヨナは転移した。
そこは……マルグリットが暮らすツヴェルクの街。
『なんだいヨナ、マルグリットに逢いに来たってわけかい。三人の美人を置き去りにしておきながら、あんたも罪作りだねえ』
「う……べ、別にいいじゃないか……」
突然聞こえてきたあの女の声に揶揄われ、ヨナは口を尖らせる。
だが、ヨナは決して三人を置き去りにしたわけではない。
その証拠に、彼は確かに言った。『それではまた』、と。
これは、ヨナの彼女達への再会の約束。
死にゆく運命にあり、悲しくならないようにと別れを告げてきたヨナの、心の変化。
それは小さな少年が初めて抱いた、小さな小さな希望の光。
きっとその光は、彼の運命の行く末において大切な道標となるだろう。
そして。
「ヨナ!」
「あ……マ、マリー!」
誰よりも先にヨナを見つけ、駆けてくるのはマルグリット。
ヨナの心に希望の光を灯した、小さな小さな少女。
彼女がいれば、きっとヨナは大丈夫。
この……絶望しか待ち受けていない運命を、輝かせることができると信じている。
ツヴェルクから遥か遠く離れた場所にある、グラッツの街。
――厳しく、強く、優しい領主と紡いだ小さな小さな『絆のカケラ』は、ヨナとマルグリットの運命を祝福した。
お読みいただき、ありがとうございました!
これで第五章は終わり、次回から第六章……といきたいところですが、申し訳ありません!
ちょっと別作品の書籍化作業など、かなりスケジュールが立て込んでおり、本作は次回更新までしばらくお休みをいただきます……。
締め切りをやっつけ次第、すぐに更新を再開したいと思いますので、それまでどうかお待ちくださいませ。
※この作品は作者の私にとって非常に思い入れのある作品ですので、エタらせるつもりはありません。
ご迷惑をおかけしますが、連載再開をどうぞお楽しみに!




