大切な人のもとへ
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「…………………………」
魔王軍残党が襲撃したという国境の砦へと目指す、ランベルク軍。
総大将であるランベルク公爵は、先程から何度も振り返ってはグラッツの方角を眺めていた。
「ランベルク卿、そんなにヨナが心配ですか?」
「パトリシア殿下……」
いつの間にか隣に並んでいたパトリシアが、どこか微笑みを湛えて尋ねる。
その隣には、英雄クィリンドラの娘であるティタンシアもいた。
「……そうね。心配じゃないと言ったら嘘になるわ」
魔王軍残党による国境の砦の襲撃は、別に珍しいことではない。
毎年数回は同じように襲撃してきており、今年に入ってからもこれで二回目だ。
だというのに、ランベルク公爵の脳裏には六年前の悲劇が浮かぶ。
とはいえ、今回は同じ轍を踏まないために、ランベルク家が保有する戦力の半分……五千の兵をグラッツの防衛に当たらせている。
前回は五百しか兵がいなかったが、今回は十倍。あの時は魔王軍残党軍二千を見越してのものだ。少なくとも国境の魔王軍残党を蹴散らしてグラッツに戻るまでは持ちこたえられるはず。
だから、ヨナがダニエルのように殺されてしまうようなことは起こらない。
そう自分に言い聞かせるが、ランベルク公爵はどうしても不安が拭えなかった。
「であれば、我々がすべきことは国境の魔王軍残党を蹴散らし、返す刀でグラッツへと戻ること。幸いにも国境からグラッツまでの距離はそれほど長くないから、我等だけで早駆けをすれば半日もあれば戻れます」
「殿下の言うとおりなのは分かってる。分かってるんだけど……」
それでもランベルク公爵は、ヨナが心配でたまらない。
あの時と同じ状況ということもあるが、それ以上にヨナと亡き弟を重ねてしまっている。
自分では、どうしようもないほどに。
すると。
「……心配ない。魔王軍の残党がどれだけいても、ヨナに敵うはずがない」
それまで黙っていたティタンシアが、前を向いたまま事もなげに告げた。
自分の放った矢を全てその巨大な口の中に収めてしまったあの『渇望』のザリチュを、ヨナは圧倒的な力を持って闇に葬ったところを目の当たりにしている。
それに。
「まあ、そうだな。万に一つ魔王軍残党がグラッツを襲撃したとして、結果は目に見えている。……ふふ、ひょっとしたら、そのことを見据えてヨナは残ったのかもしれない」
パトリシアが顎をさすり、くすり、と微笑む。
彼女もまた、黒竜ファーヴニルと白竜リンドヴルムの闘いの場においてヨナの実力を見届けた者。伝説の竜すらも驚嘆させるあの古代魔法が、魔王軍の残党ごときが相手になるはずもないと、そう思っていた。
「待ってちょうだい。二人の口振りだと、ヨナは本当に魔王軍幹部を……『渇望』のザリチュを倒せるほどの実力者みたいじゃない」
「ランベルク卿がヨナのことを大事にしてくださっていることが分かった今だからこそお話ししますが、ヨナは強い。私など、歯牙にもかけないほどに」
そもそも『渇望』のザリチュを倒したのは偽りであるとパトリシアが抗議し、その情報をもたらしたクィリンドラが英雄としての立場を失墜させてでも抗議を受け入れ謝罪したのは、偏にヨナを守るため。
よからぬ者に利用されたり、脅威として危険に晒されたりしないように。
「帝都での会談からここまで一週間と少しではありますが、ランベルク卿はヨナのことをとても大切にしてくださいました。だからこそヨナは、それに報いるためにも、きっと『背教』のタローマティを倒してくれることでしょう」
「ん……ヨナはすごく優しくて、人を見る目がある子。だからあなたが信頼できる人だと分かっているし、あなたの力になりたいと思っている」
「ヨナが……」
ヨナとともにグラッツに帰還するまでの道中、ランベルク公爵はヨナのことをダニエルに重ね合わせて接してきた。
ではヨナはどうだったか。そんな自分勝手な想いを受け、どのように接してくれていただろうか。
……いや、そのようなことは、考えるまでもない。
ヨナはずっと、パトリシアを見つめていた。
屈託のない笑顔で、オニキスの瞳に嬉しさと親愛を湛えて。
「ふふ……今ならあなた達が、あんな茶番をした理由がよく分かるわ。今の私だったら、きっとその茶番に乗っかっていたわね」
「お分かりいただけたようで何よりです」
「でも、ヨナはすごく強いけど本当は弱い子。だから魔王軍なんて早く片づけて、すぐに戻る」
「そうね」
三人は頷き合い、遠くに見える国境の砦を見据えると。
「さあ! 魔王軍残党を倒して、グラッツに凱旋するわよ! きっと大切な人達が待っているもの!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
ランベルク公爵の檄を受け、兵士達は一斉に駆け出して砦の前で戦闘を繰り広げている魔王軍残党に襲いかかった。
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