闇に葬り去られし魔の眷属
とても大切なお願いがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
「! ペトラ様!」
「皆さん! 無事でしたか!」
「は、はい……ただ記憶が曖昧で、私達の身に一体何があったのでしょうか……」
ヨナがペトラとともに屋敷内に入ると、つい先程まで一人として姿を見せなかった使用人達が、困惑した表情で次々と現れた。
「説明は後です。今は執事長を捜してください」
「わ、分かりました!」
ペトラが使用人達にてきぱきと指示を出す。
使用人達もそのほうが余計なことを考えなくて済み、平静を取り戻せると判断したのだろう。すぐに指示に従い、屋敷内の捜索に当たった。
「街のほうが騒がしいですね……」
「ひょっとしたらペトラさん達と同じように、街の住民も操られていた可能性があります。最悪、グラッツの外で防衛する兵士達も」
ここまで大規模に人間を操ってみせた『背教』のタローマティ。
宗教とは縁遠い二つ名であるのに、逆に人間を洗脳して支配下に置くその能力は、まるで宗教のようだとヨナは感じた。
ただ。
「……僕は、絶対に許さない」
逃れられない死という理不尽に晒されているからこそ、誰よりも理不尽を嫌悪するヨナ。
そんな理不尽を人為的に強要する者など、彼が許せるはずがなかった。
引き続き全ての使用人による執事長の捜索を続けるが、その行方は依然として分からない。
その後住民達の協力も得て街全体まで範囲を広げるものの、見つかったとの報告はなかった。
既に屋敷どころかグラッツを抜け出したのかと考えたヨナだが、すぐにかぶりを振って打ち消す。
以前のグラッツ襲撃でも、『背教』のタローマティはランベルク公爵が最も苦しむやり方を選択した。きっとタローマティは諦めずにこの街を狙ってくるはず。
……いや、ランベルク公爵が目をかけているヨナを。
「……ペトラさん、少し夜風に当たってきます」
「? は、はあ……」
ヨナは屋敷の外へ出て、人気のない場所……庭園の奥にある小屋の裏へと足を運ぶ。
もちろん、敵を誘い出すために。
すると。
「このような場所に子供が一人で来るなんて、不用心だな」
現れたのは、執事長。
思ったとおりの展開に、ヨナはほくそ笑む。
「そっちこそ。こんなにも大勢の人々が捜索していることを分かってるはずのに、余裕だね」
「それはこちらの台詞だ。先程は不覚を取ったが、私は魔族であり偉大なるタローマティ様の右腕。人間ごときに後れを取ることはない」
「頼んでもいないのに自己紹介までして優しいね。魔族ってみんなそうなの?」
「っ!」
ヨナに煽られ、険しい表情を見せる執事長。
だがこの男も、目的である『背教』のタローマティではなかった。
いずれにせよヨナの古代魔法は強大過ぎるがゆえに、大規模な魔法は使えない。
「さあ……貴様の血をもって、ランベルクに手向けるとしよう。ダニエルの時のように、喜んでくれるといい……っ!?」
「うるさい」
気を取り直した執事長が悦に浸っていた隙にヨナは、素早く魔法陣を描いていた。
魔王軍幹部、『渇望』のザリチュを闇に葬った、あの魔法を。
「深淵を彷徨いし闇の根源よ。我の前に顕現し、終末の果てへと誘う導き手となりて、卑劣を友とする賤しき魔の下僕を引きずり込め」
闇に溶け込む漆黒の魔法陣が、執事長の頭上に浮かび上がる。
罪深きこの男に、これから死の審判を与えるために。
「【ドゥンケルハイト】」
地面が底なしの闇へと変わり、無数の黒い手が執事長へ向かって伸びてくる。
仲間である『渇望』のザリチュが待つ、あの闇の中へと連れ去ろうと、手ぐすねを引いて。
「く……っ!? これは……」
「無駄だよ。僕が魔法を解除しない限り、黒の手は永遠にオマエを追い続けるから」
まとわりつく黒い手を必死に振り払う執事長だが、次から次へとつかみかかってくるためいよいよ追いつかず、手足が拘束される。
あとはただ、光のない世界で弄ばれるだけ。
「最後に聞いておきたいことがいくつかあるんだ。ペトラさんやみんなを操っていたのは、オマエの仕業ってことでいいんだよね?」
「…………………………」
「答えないなら、オマエが終わるだけだよ」
「っ!?」
ヨナの言葉を聞き、執事長は目を見開く。
ひょっとしたら、質問に答えれば最悪のことは避けられるかもしれない。
……いや、いくら恐るべき魔法の使い手であったとしても、所詮は子供。上手く騙して隙を突けば、仕留めることができる。
そんな思惑を持って。
「……私にそこまでの力はない。全てはタローマティ様のお力によるもの」
「そう。じゃあ次に……『背教』のタローマティはどこにいる?」
「う……っ!?」
低い声で問いかけるヨナに、執事長は思わず唸ってしまった。
この男も魔王軍幹部には劣るが、それでも幹部の右腕を務めている。
にもかかわらず、執事長は目の前の小さな少年に気圧されてしまった。
ここで初めて、自分のほうが老獪で実力も上であると勘違いしていたのだと、魔族の男は認識する。
自分は、この少年に遠く及ばないのだと。
「そ、その……」
「早くしないと、僕の手ではどうすることもできなくなっちゃうよ」
「ひっ!?」
ヨナの言葉に周囲を見ると、いつの間にか自分の身体が暗闇に膝下まで飲まれていることに気づく執事長。
このままでは間違いなく、『渇望』のザリチュと同じ運命を辿ることになる。そう気づいた執事長は。
「タ……タローマティ様は、この街の北およそ二キロ先の地下洞窟にいる!」
「ありがとう。オマエが素直な魔族で嬉しいよ」
ヨナは満足げに頷き、屈託のない笑顔を見せた。
「さ、さあ早く、今すぐ私を解放してくれ!」
「知らない」
「っ!? は、話が違うじゃないか!」
踵を返すヨナに、執事長は大声で叫ぶ。
いつしか醜い蝙蝠に変化した顔に、恐怖の色を湛えて。
「バイバイ」
「ま、待て! 待ってくれ! 待ってええええええええええええええッッッ!」
執事長……蝙蝠の魔族は、遠ざかるヨナに向けて右手を伸ばす。
だが、その訴えも、伸ばした手も、全ては闇の中へと引きずり込まれた。
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