倒すべき敵との繋がり
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「……なんて、そんなことをするわけないじゃないか。だってオマエは魔族じゃなくて、人間なんだから」
「な……っ!?」
ヨナから放たれた言葉は、ペトラを驚かせるには充分だった。
どうしてこの少年は、自分が魔族ではないことを見破ったのか。
そもそもこの世界において、人間と魔族が相容れることはない。
だから魔族の肩を持っている時点で、それは人間ではないことの証左なのだ。
そんな世界の常識に囚われることなく、いとも容易く見抜いたヨナ。
この少年の叡智に、ペトラは戦慄した。
「ど……どうして見抜いた……?」
「僕はこの魔法……【グラヴィタツィオン】を、人間だとぎりぎり耐えられない重さに設定しておいたんだ」
「あ……」
ペトラはようやく、全てを理解する。
魔力も身体能力も、人間に比べて魔族のほうがかなり優れていた。
ヨナの言葉どおりなら、もしペトラが魔族であったならば制限こそ受けるだろうが、少なくとも今みたいに身動き一つ取れないということはない。
とはいえ、ヨナもヨナで半分は賭けであったことは否めない。
何しろヨナが知る魔族は、『渇望』のザリチュのみ。
ザリチュが幹部ということを加味した上で【グラヴィタツィオン】の効果を調整してはいるが、魔族の身体能力が人間とさして変わらなかった場合、魔族と人間を判別することは不可能。
また、ヨナの古代魔法によって兵士が拘束されている状態のため、魔王軍残党の襲撃を受けたらひとたまりもない。
後者に関しては、そうならない自信がヨナにはあったことも事実だが。
「まあいいや。それで、どうして人間のオマエが魔王軍に加担しているのかな?」
「…………………………」
ヨナの問いかけに、ペトラは口ごもる。
その様子から、ひょっとしたら『スヴァルトアルヴ』の者達と同様に、『背教』のタローマティとの契約によって逆らうことができないのかとも考えたが、ヨナはすぐに思い直した。
仮にそうだとしたら、ペトラの態度には矛盾がある。
『スヴァルトアルヴ』の者達は明らかに無理やり従わされていたことが窺えたが、ペトラからはそれが感じられない。……いや、それどころか積極的に手を貸しているようにしか見えなかった。
ならペトラが『背教』のタローマティに心酔しているか、もしくは操られているかのいずれか。
口調まで変わってしまっていることから、おそらくは後者だろう。
「黙っているならそれで別にいいよ。ただ……これだけは教えてくれるかな。オマエはペトラさんでいいの?」
「……おかしな質問をする。私がペトラだとしたら、失望したとでも言いたいのか? 生憎だが私はペトラで間違いない」
「ありがとう。……ああそれと、オマエの仲間の一人である『渇望』のザリチュは、僕が倒したよ」
「っ!? 何だと!」
驚くペトラを無視し、ヨナは先程と同じように両手を空へ向けて掲げる。
「天空で踊りし光の根源よ。我の前に顕現し、因果を滅する斧となりて、無慈悲に操られた忠義に厚き者達に繋がりし悪意の糸を断ち切れ」
ヨナが右手の人差し指を空に向けて高速に描くと、【グラヴィタツィオン】の光の魔法陣と同規模の魔法陣が夜空に浮かび上がった。
「【ツェアシュトロイエン】」
魔法陣から放たれた慈愛の光が、グラッツの街に温もりを与える。
心を奪われた者には自由を、心を奪いし者には断罪を。
これでもう、ペトラを操っていた者の呪いは払われた。
「あ……う……」
「! ペトラさん!」
まさに糸が切れたように意識を失うペトラにヨナは駆け寄り、身体をゆすって声をかけると。
「あ……ヨ、ヨナ様……」
彼女はゆっくりと目を開け、ヨナを見つめる。
ペトラの瞳からは先程まであった濁りが消え、変わってダニエルの部屋で語ってくれた優しさが宿った。
「っ!? わ、私は一体!? というより、どうして身体が動かないんですか……っ!?」
「落ち着いてください。実はペトラさんは、魔族に操られていたんです」
まだペトラが元に戻ったか、あるいは本当のペトラであるか確認ができていないため、ヨナはまだ【グラヴィタツィオン】を解除せず、とりあえず起こったことについて彼女に説明する。
「そんな……で、ではお嬢様は、魔王軍残党の討伐に……」
「はい。ほんの一時間前に出立したばかりです」
ランベルク公爵のことを『お嬢様』と呼んだことが確認でき、ヨナは今度こそ【グラヴィタツィオン】を解除した。
あれほど重かった身体が急に軽くなり、ペトラは勢いよく身体を起こして目を見開く。
「それでペトラさんにお尋ねしたいのですが、ここ最近でおそらく操られる前に誰かと接触したり、あるいは普段とは違う出来事が起きたりしたことはありませんか?」
ヨナがそう問いかけると、ペトラは口元に手を当てて思案する。
そして。
「……そういえば今日の夕方、執事長が声をかけてこられたんです。ただ、どこかいつもと違う雰囲気だったことを覚えています」
「執事長……」
「ひょっとしたらヨナ様もご存知かもしれません。お嬢様とご一緒にこの屋敷にお越しになられた際、出迎えた初老の男性です」
「あ……」
ペトラの言葉に、ヨナは思い至り頷く。
馬車から飛び降りたヨナと心配そうに慌てて降りたランベルク公爵を、目を見開いて見つめていた初老の男性のことを。
「ペトラさん、その執事長を探しましょう! きっと彼……いえ、執事長に扮した魔族が、『背教』のタローマティと繋がっているはずです!」
「! は、はい!」
ヨナとペトラは、執事長の男を探しに大急ぎで屋敷の中へと戻った。
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