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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第五章 白銀の剣姫と『背教』のタローマティ
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裏切りの正体

とても大切なお願いがあります!

どうか、あとがきまでご覧くださいませ!

「あははっ」


 夜空に向かって両手をかざし、ヨナが笑った。

 魔王軍幹部、『渇望』のザリチュを深い深い闇の底に沈めた時と同じように。


 ――|自分と同じくらいの少年の命を卑劣な手で理不尽・・・に奪った輩に、絶対に抗えない理不尽(・・・)でそれ以上の絶望を味わわせるために。


「地の底深くにて(たわむ)れし土の根源よ。我の前に顕現(けんげん)し、大地へと縛る枷となりて、偽りを友とする魔の下僕共を地に這わせよ」


 ヨナが右手の人差し指を高速で描いて詠唱すると、夜空に光の魔法陣が浮かび上がった。

 あまりにも大きく、グラッツの街を全て覆ってしまうほどの魔法陣が。


「【グラヴィタツィオン】」


 光の魔法陣が地面へと落下した瞬間、ペトラはその場で平伏し……いや、この表現は正しくない。

 彼女は見えない(・・・・)何か(・・)によって押し付けられているかのような、まるで身体に巨大な重量物を背負わされているような感覚に襲われ、そのまま地面にい圧し潰されているのだ。


 そう……まるで彼女が犯した罪を背負うかのように。


「う……ぐ……っ」

「ねえ、教えてくれますか? あなたは……いえ、オマエは一体何者なのかを」


 普段は屈託のない笑顔を見せる愛くるしいヨナ。だが今の彼のオニキスの瞳と声は、どこまでも冷たい。


「……どうして分かった」

「まずは僕の質問に答えるのが先だよ……って言いたいところだけど、仕方ないから教えてあげる」


 ヨナは這いつくばって目に見せない重みに耐えるペトラを見下ろし、抑揚のない声で説明を始める。

 違和感を覚えたのは、夕食の時。


 ワインを求めたランベルク公爵のことを、ペトラは『ランベルク閣下』と呼んだ。

 だが、ダニエルの部屋でランベルク公爵の過去を教えてもらった時は、彼女は確かに『お嬢様』と呼んでいたのだ。


「ランベルク閣下が出立した後も、しきりに僕をダニエル様のお部屋に連れて行く……これは違うか。連れて行くふりをして、僕を(さら)うか殺すつもりだったんだよね? ダニエル様にした時と、同じように」

「…………………………」


 重くのしかかる苦しみに耐えているからか、それとも図星を突かれたからなのか。

 ペトラは唇を噛み、目を伏せた。


「そしてオマエがとても卑怯で卑劣で、最低の奴なんだってことが分かったよ。オマエはランベルク公爵が一番苦しむことを、あえて行っているんだから」


 仮に国境の魔王軍残党による襲撃を囮にしてグラッツを襲撃するだけなら、こうやってわざわざヨナを狙う必要はない。

 ペトラはダニエルの面影を重ね合わせているヨナを傷つけることで、ランベルク公爵を苦しめたいのだ。


「ランベルク閣下も前回の教訓を活かしてグラッツの外に兵を展開させ、街が襲撃を受ける前に食い止めることができるようにしたのも、ひょっとしたらオマエ……もしくはオマエの仲間が、そう仕向けた可能性もあるよね。外の兵さえ(かわ)して街の中に入ることができれば、簡単に制圧が可能だろうから」

「……っ」


 雄弁に語るヨナをペトラは睨みつける。

 彼女の一挙手一投足が、ヨナの言葉が真実であると証明していることも気づかずに。


 すると。


「フ……フフ……」

「?」

「馬鹿め! この私の正体に気づいて捕らえたところで、この街は既に我々の……タローマティ様の手中にある! すぐにでも他の者がこの屋敷に殺到し、ランベルクの弱みである貴様は死んだほうがましだというほどの苦痛を……」

「言っておくけど、僕のこの魔法……【グラヴィタツィオン】の効果範囲はグラッツ全体。それは街の外に展開している兵士達にも適用されているよ」

「な……っ!?」


 本性を現したペトラだったが、まさかこの魔法が街全体はおろか街の外にまで及んでいると知り、驚愕のあまり目を見開いた。


 そしてようやく、ペトラは理解する。

 自身が今受けているこの魔法が、あり得ないほど規格外のものであることを。


 その魔法を事もなげに放った、目の前の小さな少年の凄さを。


 なら。


「……殺せ」

「…………………………」

「殺せ! こうなってしまった以上、グラッツの制圧もランベルクに苦痛を与えることも叶わなくなったのだ! ならば魔族として……親愛なるタローマティ様の部下として、このまま生き恥を(さら)すつもりはない!」


 ヨナを睨みつけ、ペトラが訴える。

 既に何も手立てがない以上、待っているのは死。ならば早く楽にしろと、彼女は訴えているのだ。


「ハア……分かったよ」

「! ……すまない」


 溜息を吐いて了承するヨナに、ペトラが感謝の言葉を告げる。

 その口の端を吊り上げて。


 だが。


「……なんて、そんなことをするわけないじゃないか。だってオマエは魔族じゃなくて、人間なんだから」

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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