暗闇の鬼ごっこ
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「その……私は存じ上げておりません。ただ、ダニエル様が魔族に殺されてしまったと……」
「そうなんですか。僕はてっきり、この屋敷の中で殺されたのかと思いました。信じていた人に、裏切られて」
「っ!?」
そう告げたヨナのオニキスの瞳が窓の外から覗く月を映し、妖しく輝いた。
「そ、それは本当ですか!? ダニエル様がこの屋敷の者に裏切られて殺されてしまったなんて、そんな……」
ペトラは誰の目で見ても分かるほどに顔を真っ青にして狼狽する。
「今のは僕の当てずっぽうで話しただけですから、本当かどうかなんて分かりません。なのでペトラさん、少し落ち着いてください」
「あ……そ、そうですね。ですが少々悪い冗談が過ぎるのでは」
少しおどけるヨナの様子に、ペトラは僅かに眉根を寄せる。
もしヨナの告げたことが本当であれば、ランベルク家にとって由々しきもの。だからこそペトラは、たとえランベルク公爵お気に入りのヨナであっても、不満を露わにしてしまったのかもしれない。
「その……ごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそこのようなことを申し上げてしまい、申し訳ありませんでした」
ヨナが申し訳なさそうに謝罪する仕草を見せると、ペトラはどこか安堵した様子で同じく深々と頭を下げた。
「あ、そういえば話は変わりますが、ランベルク閣下はここに兵の半分を置いていかれるとおっしゃってました。そうすると、今回はダニエル様の時と同じようにはいかないですよね?」
「ええ、そのとおりです。残された兵士達は全て、グラッツの外でいつでも魔王軍残党を迎え撃てるように体制を整えております」
「なるほど……それなら安心だな」
そう言ってヨナは無邪気に嗤う。
ペトラはその姿を見て無邪気な子供だという印象を受けるとともに、やはりダニエルとは違うのだと再認識した。
ダニエルの時は、もっと隙がなかったのだから。
すると。
「あれ……? 今日のお屋敷、どこか静かじゃないですか?」
ヨナが首を傾げ、ペトラに尋ねる。
確かにヨナの言うとおり、多くの使用人達がいるランベルク家であるはずなのに、ここまで使用人を誰一人として見かけなかった。
「それは当然でございます。兵の半分はランベルク閣下とともに国境の砦へと進軍し、残る半分もグラッツの外で守備に当たっているのですから」
「ですけど使用人の皆さんは兵士ではありませんよ? ならいくら今が深夜とはいえ、普通にお屋敷の中で仕事をしていると思うんですが」
「……そうですね」
ヨナの疑問に、ペトラは短く答える。
暗がりのランプの明かりに照らされた彼女の表情は、微笑みを湛えているように見えるものの、どこか感情のない、いわば仮面を貼りつけているかのようにも見えた。
「まあいいです。それにしても、ダニエル様のお部屋から遠ざかってないですか? 僕の記憶だと、たしか向こうのほうだったと思うんですが」
「…………………………」
ヨナの問いかけに、ペトラは何も答えない。
微笑みの仮面を、貼りつけたまま。
その時。
「違うみたいですし、僕は行きますね」
「っ!?」
くるり、と翻り、ヨナは走り出した。
いきなりのことで驚くペトラだったが。
「お、お待ちください! 暗闇の中を走っては危ないですよ!」
ランプを片手に慌ててヨナを追いかけるペトラ。
だというのに、表情は相変わらず微笑んだままだ。
誰もいない屋敷の中、笑顔で暗闇の廊下を走るヨナと、微笑みながら追いかけるペトラ。
もしその様子を誰かが見たならば、あまりにも異様な光景に慄いてしまうかもしれない。
そして。
「ふう……いきなり走り出したので、心配しましたよ」
中庭まで来たヨナが立ち止まって笑顔で振り返ると、ペトラは息を吐いて胸を撫で下ろし、彼へと歩み寄って右手を伸ばす。
まるで、『もう逃がさない』と言わんばかりに。
ペトラの手がヨナに触れようとした、その時。
「あははっ」
夜空に向かって両手をかざし、ヨナが笑った。
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