魔王軍襲来、居残りのヨナ
とても大切なお願いがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
「すぐに全軍集めて! 時間がないわ!」
「は、はっ!」
ランベルク公爵が指示を飛ばし、兵士達が慌ただしく動く。
グラッツから国境までは二日もかからず到着できるが、それでも報告を受けてから国境の砦が陥落するより先に間に合わせるためには、一刻の猶予もない。
「ランベルク卿」
「パトリシア殿下……」
「もちろん、私も連れて行ってくれるんですよね」
甲冑を身にまとい帯剣するパトリシアが声をかける。
元々、『背教』のタローマティをヨナとともに討伐するために来た彼女。先手を取られてしまったのは不覚だが、それでもこの状況は望むところだった。
「当然じゃない。『白銀の剣姫』が名前だけじゃないことを祈っているわ」
「言ってくれますね」
ランベルク公爵とパトリシアが、互いに不敵な笑みを見せる。
「……わたしを忘れてもらっては困る」
「あら……あなたもあの『沈黙の射手』の子供なのよね。なら、期待してもいいのかしら」
「ん、わたしのほうがお母さんより強い」
先の『渇望』のザリチュとの戦いの時は相性の問題もあり通用しなかったが、弓の実力に関しては折り紙付き。『背教』のタローマティ討伐では前回の汚名を雪ぐつもりだった。
そして、ヨナに見せつけるのだ。自分はこれだけ役に立てる、だから傍にいさせてほしい、と。
とはいえ、ヨナは誰かを傍に置くことを望まない。
死にゆく運命にある彼にとって、誰かと一緒にいることは自分の苦しみを曝け出すとともに、悲しみを背負わせるということ。そんなこと、ヨナには耐えられなかった。
すると。
「ランベルク閣下……」
現れたのは、身支度を整えたヨナだった。
まるで、『背教』のタローマティ討伐に是が非でもついていくとでも言うかのように、オニキスの瞳に覚悟と決意を湛えて。
「……ヨナ、まだ深夜よ。あなたは部屋で寝ていなさい」
「…………………………」
優しく、それでいて有無を言わせない口調でランベルク公爵が告げる。
先の会談においてヨナが『渇望』のザリチュを討伐したというのは誤りだとされたが、それでも、彼にはどこか不思議な印象を覚えていたランベルク公爵。
ヨナの身にまとう雰囲気やたたずまいから、クィリンドラがカール皇帝の前で言ったことはあながち狂言ではないのではないかと錯覚してしまうほどに。
それでも、ヨナを連れて行くという選択肢はない。
最愛の弟を失った時と同じ状況であっても、ここに残すほうがヨナにとってはるかに安全なのだから。
それに……あの時と同じ轍を、踏むつもりはない。
「うふふ、心配しないで。グラッツには軍の半分を置いておくし、この屋敷も魔族の襲撃を受けてもびくともしないわ。だから、ね」
傍に寄り、ランベルク公爵はヨナのさらさらの黒い髪をそっと撫でる。
ヨナは気持ちよさそうに、目を細めた。
そんな二人の様子を見守っているのは、パトリシアとティタンシア。
ヨナの実力を身をもって知っている二人は、『背教』のタローマティごときに後れを取ることはないことを理解していた。
だからヨナがどのような選択をするのかも分かっている。
たとえランベルク公爵が同行を認めなくても、きっと転移によってついて来るだろうということも。
だが。
「はい。僕はここで、ランベルク閣下やパトリシアさん、ティタンシアさんの帰りを待ってます。だから……どうかご無事で」
そう言ってにこり、と微笑むヨナ。
パトリシアとティタンシアは一瞬驚くが、冷静に考えればここで強く願い出ても拒否されるのは目に見えている。
それが分かっているからこそ、ヨナはこの場では引き下がったのだろう。そう考えた。
なら、予定どおりランベルク公爵に従軍し、ヨナが来るまでに少しでも脅威を取り除いておくこと。二人は得物を握りしめ、強く頷く。
そして。
「じゃあ、行ってくるわね」
「皆さん、ご武運を」
出立する三人を、ヨナは玄関で深々とお辞儀をして見送った。
「ヨナ様、玄関にいたままでは寒うございます。早く部屋にお戻りなさいませんと」
「はい」
ペトラに連れられ、ヨナはランベルク公爵の弟であるダニエルがかつて使用していた部屋へと向かう。
「そういえば」
階段に足をかけたところで、前を歩くペトラにヨナが声をかけた。
「ランベルク閣下の弟君が魔王軍残党に殺害されたのは、戦場で、だったんですか?」
「え……?」
どうしてヨナがそんなことを尋ねたのか。その意味が理解できず、ペトラは思わず首を傾げる。
「その……私は存じ上げておりません。ただ、ダニエル様が魔族に殺されてしまったと……」
「そうなんですか。僕はてっきり、この屋敷の中で殺されたのかと思いました。信じていた人に、裏切られて」
「っ!?」
そう告げたヨナのオニキスの瞳が窓の外から覗く月を映し、妖しく輝いた。
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