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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第一章 おせっかいな伯爵令嬢と小さな悪魔
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待っていた出逢い

『お前もあと一年で死ぬっていうのに、旅なんてしてどうするんだい』


(ああ……)


『このままだと、旅のせいで死ぬまで一年もかからないだろうねえ』


(また、あの女の人の声だ……)


『これから先お前に関わる者達は、出来損ない(・・・・・)だと知ってがっかりするだろうさ。お前の家族と同じように』


(うるさい、なあ……黙ってよ……)


『それなら最初から、温かい屋敷のベッドで大人しく寝ていたほうが、よっぽどよかったんじゃないのかい? たとえ家族が、お前のことを(うと)ましく思っていても』


(……もう)


「いい加減にしてよ!」

「うおっ!?」


 突然大声で叫んだヨナに、隣に座っていた中年の男が驚きの声を上げた。


「な、なんだい坊主、怖い夢でも見たのか?」


 男におずおずと声をかけられ、ヨナはここが馬車の荷台の上で、座りながら眠っていたことに思い至り、なおかつ大声で寝言を言っていたことも理解する。


「そ、その……ごめんなさい……」

「気にすんな。それよりすごい汗だぞ? これでも飲みな」


 お辞儀をして謝罪するヨナに、男は相好を崩して水筒を差し出した。

 男の指摘どおり、ヨナは汗でびっしょりだ。


「ありがとうございます」


 水筒を受け取り、ヨナは水を口に含んだ。


 それにしても帝都を発って一週間が経つが、ヨナは夢の中で度々ささやいてくる女の声に悩まされていた。

 ラングハイムの屋敷で暮らしていた時には、このようなことは一度もなかったというのに。


 しかも、夢の中で女が姿を現したことがない。

 毎回何も見えない暗闇の中で、女の声だけが語りかけてくるのだ。


 ただ、きっと声の主は、絶世の美女(・・・・・)に違いない(・・・・・)


「それにしても、坊主は見たところまだ十歳くらいだろ? なのに一人で帝都からこんな遠くまで、大変だなあ……」

「あ、あはは……」


 乗合馬車を利用するに当たって、ヨナは素性を偽っている。

 本名であるヨナタンではなくただの“ヨナ”と名乗り、子供の一人旅でも怪しまれないように遠い親戚の家を尋ねることにした。


 最初は疑われたりもしたが、『念のために』とギュンターが用意してくれた手紙を見せて、ようやく信用してもらえた。


 そして、ヨナの隣で気さくに話しかけている中年の男は商人らしく、商談のためにエストライア帝国の穀倉地帯にある田舎町、“ツヴェルク”へと向かっているとのこと。

 せっかくなのでヨナもツヴェルクに親戚がいることにして、そこに向かうことにしている。


「まあ、帝都に比べて珍しいもんがあるでもなく、あえて言うなら見どころは景色くらいだが、のどかでいい街だ。きっと坊主も気に入ると思うぞ」

「そうなんですね……!」


 商人の男の言葉に、ヨナはオニキスの瞳を輝かせた。


 ラングハイムの家を飛び出してからのヨナにとって、見るもの、聞くもの、触れるもの全てが新鮮で、ずっと楽しくてしかたない。

 最初は本に載っていた伝説巡りをするつもりだったのに、今は後回しでも構わないとさえ思っている。


 これから向かう先にはきっとたくさんの素晴らしいものがあると、ヨナは信じて疑わない。


 それからさらに馬車に揺られて三日。


「うわあああ……!」


 目の前に広がるどこまでも続く緑の穂を見て、ヨナは感嘆の声を漏らす。

 確かに商人の男の言うとおりその景色はとても綺麗で、ヨナの心は感動で震えた。


「へへ。どうだ、すごいだろ」

「はい! こんな景色、生まれて初めて見ました!」

「そうかそうか!」


 はしゃぐヨナを見て、商人の男は顔を(ほころ)ばせる。

 やはり子供が素直に喜ぶ姿は、見ていて気分がよいものだ。


「ここまで来れば、夕方にはツヴェルクの街に着くだろ。これからずっとこんな景色が続くんだ、飽きたら昼寝でもするんだな」


 確かに商人の男の言うとおり、どれだけ進んでも緑の景色が変わらない。

 しばらくするとさすがのヨナも満足したようで、荷台で横になって居眠りをした。


 そして。


「ほら、坊主。着いたぞ」

「ふあ……」


 商人の男に起こされ、ヨナは目をこすりながら身体を起こす。

 そこは帝都やラングハイム領の街と比べればかなり小さな街だけど、夕日に照らされた古い街並みをヨナは一目で気に入ってしまった。


「坊主、これを持っていきな」


 停留所で馬車から降りると、商人の男が木札をヨナに手渡した。

 木札の表には紋章、裏に『オットマー商会』と記されている。


「商談が終わるまでこの通りの端にある宿屋に泊っているから、何か困ったことがあったらこの札を持っていつでも尋ねてきな」

「あ……ありがとうございます!」

「おう! じゃあな!」


 商人の男はひらひらと手を振り、ヨナと別れた。


「さて……僕はどうしようかな」


 親戚の家を訪ねてきたという設定(・・)のため、商人の男と同じ宿を利用することはできない。

 野宿という選択肢もあるが、慣れない馬車の旅をしてきたのだ。できればベッドの上で眠りたいというのが、ヨナの希望だ。


 どうしたものかと、ヨナは腕組みをして首を(ひね)っていると。


「あら……見慣れない格好をした子供がいますわね」


 後ろから聞こえた、女の子の声。

 ヨナはゆっくりと後ろを振り返ると。


「あなた、どこから来ましたの?」


 腕組みをした一人の女の子が、ヨナに尋ねた。

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