ランベルク公爵の矜持
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「……真偽を確かめる云々はともかく、その少年を『背教』のタローマティと戦わせれば、それで皆が納得するのではないか?」
これまで沈黙を保っていたレオナルドが、静かにそう告げた。
「レオナルド兄上、今の話を聞いておられないのですか? そのようなことは無意味だと言っているのです」
ヴォルフに続きレオナルドまでそのようなことを言い出したため、パトリシアは少し殺気を込めて言い放つ。
最初は帝国側として大人しくしていた彼女も、さすがにもう暴発寸前。もし同じような台詞を吐こうものなら、その時はパトリシアを止めることはできない。
「待て。私も別にそのような少年を死地に送りたいわけではない。だが、それでは納得できない者がいるということを理解してほしいのだ」
「どういう意味ですか?」
パトリシアが恐ろしく低い声で尋ねると、レオナルドはある人物を見やる。
それは五大公爵家の一人、ランベルク公爵家の当主ヘルミーナだった。
「いいか、今『背教』のタローマティと対峙しているのはランベルク家。多くの仲間を犠牲にしてきた彼女達にとって、タローマティ討伐は悲願なのだ。きっと今日の会談も、希望を胸にこの場に臨んでいたはず。その気持ちも汲み取らねばならない」
「…………………………」
ランベルク公爵は、レオナルドとパトリシアに鋭い視線を向ける。
それにどのような意味が込められているのかは分からないが、少なくとも皇室に対して良い感情を持っていないことだけは明らかだった。
「……ですが、ヨナを派遣することに何の意味があるのです。むしろただの少年を押しつけられても、ランベルク卿も困るだけだと思いますが」
「パトリシアの言うとおりだ」
「なら……」
「最後まで聞け。今回のことはクィリンドラ様の言葉を鵜呑みにしてしまった帝国側にも落ち度はある。なら、せめて帝国として埋め合わせをするのが筋というものだろう」
レオナルドの言っていることは暴論ではあるが、藁にも縋る思いのランベルク公爵からすれば、失望したと思うことも理解できる。
パトリシアは話を続けるよう、レオナルドに目で促した。
「少年の実力はどうであれ、今回のことは長年悩まされ続けてきた『背教』のタローマティを討伐する良いきっかけだと思う。そこで」
レオナルドはパトリシア、そしてヴォルフを見やり、口の端を持ち上げると。
「帝国軍全軍をもって、魔王軍幹部『背教』のタローマティ討伐に当たる。もちろん、私もこの戦に従軍する」
「「っ!?」」
さすがにこの展開は予想外だったパトリシアとヴォルフは、揃って息を呑む。
特にヴォルフとしてはレオナルドの口車に乗せられてパトリシアを討伐に向かわせようとしていただけに、まさか自分までもが巻き込まれるとは思いもよらなかった。
「ふ、ふざけるのもいい加減にしてもらいたい! どうしてそんな話になるのだ!」
「なんだ。帝国軍元帥でありながら、魔王軍幹部に臆したか」
「っ!? そ、そういうわけでは……」
レオナルドに煽られ、ヴォルフが口ごもる。
彼自身も一廉の実力者ではあるものの、個の強さはパトリシアよりも数段劣る。突然背後に忍び寄った死の香りに、ヴォルフは背中に冷たいものを感じた。
一方で、レオナルドは内心ほくそ笑む。
元々彼の本命は、パトリシアではなくヴォルフの排除。
単純で思慮が浅いヴォルフとはいえ、立場は元帥であり帝位争いにおいて唯一の対抗馬と言っていい。
何しろパトリシアは、そもそも帝位などには興味がないのだから。
あとは皇太子という立場を利用して総大将に収まり、ヴォルフを戦場で罠に嵌めるだけ。
だが。
「……冗談はよしてちょうだい。役立たずに何人来られても、こちらとしては面倒見切れないわ」
ランベルク公爵は険しい表情を浮かべ、吐き捨てるようにそう告げる。
彼女は生まれた時から魔王軍残党との戦いを運命づけられ、これまで何度も危機に瀕しながらも乗り越えてきた自負があった。
何より、今まで僅かばかりの支援と労いの言葉しか送ってこなかった帝国を、彼女は一切信用していない。
それに自分達の命がけの戦いを政治の道具に使われ、馬鹿にされたと言っても過言ではなかった。
「支援するというのなら、役立たずではなくて魔導具の一つでもくださいな。それに……か弱い子供を戦場に駆り出そうなんて、ふざけるのも大概にして!」
とうとう我慢できなくなったランベルク公爵は、大声で叫ぶ。
これには会談の場にいる全ての者は、押し黙るしかなかった。
「だ、だが、『白銀の剣姫』の強さはランベルク卿も理解しているだろう。なら、我が妹は戦力として数えることは……」
「いらないと言っているの」
なおも妹を戦場に送ろうと画策するヴォルフの言葉は、言い切る前にランベルク公爵に一蹴される。
結局、二人の皇子のしたことは会談の場をいたずらに混乱させただけ。レオナルドとヴォルフの思惑は、自分達の株を落としただけに終わった。
「……では、今回は帝国の抗議をクィリンドラ様が受け入れ、正式に謝罪した。これで会談を終了するということでよろしいですね?」
「「…………………………」」
パトリシアの問いかけに、レオナルドとヴォルフは沈黙する。
他の者達も、同意を示すように頷いた。
「では、これで会談を終了します」
この一言で、会談はお開きとなった……のだが。
「パトリシアさん」
「? どうしたヨナ」
「あの……僕、ランベルク閣下の領地に行ってみたいです」
パトリシアの袖を引き、ヨナはそう耳打ちした。
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