茶番とそれを許さない者
とても大切なお願いがあります!
どうか、あとがきまでご覧くださいませ!
「……以上、エストライア帝国としましては、不当に帝国を惑わせたクィリンドラ様に対し、厳重に抗議をさせていただきます」
祝賀会の会場であるホールとは対角線の反対側にある、会談のために用意された貴賓室。パトリシアは丸めた書簡を傍にいる侍従に手渡す。
「確かにこちらの勘違いでした。このクィリンドラ=アルヴェルヒ、貴国からの抗議を厳粛に受け止め、謝罪いたします」
パトリシアの正面に座るクィリンドラは侍従から書簡を受け取って目を通した後、深々と頭を下げて謝罪した。
この貴賓室には二人と侍従のほか、皇太子と第二皇子、宰相や各大臣、五大公爵家をはじめとした有力貴族達、クィリンドラの従者であるティタンシア、それに当事者のヨナがいる。
カール皇帝の命を受け、ここにいる全ての者が会談に臨んでいるが、ヨナやパトリシア達にとっては茶番でしかない。
そもそもクィリンドラの目的はヨナを見つけることであり、むしろ非を認めることで彼を守れるのであれば、お安い御用だった。
パトリシアもパトリシアで、先程の祝賀会の場で言いたいことは既に言っている上に、当事者であるヨナが気にしていないのだから、もはやどうでもいい。
それより、祝賀会でヨナと一緒にいられなかったパトリシアとしては、早くヨナから祝賀会での出来事や感想などを聞きたくて仕方がなかった。
だが。
「お待ちいただきたい。さすがにそのような大事を、勘違いの一言で済まされては困りますな」
第二皇子のヴォルフが、会談に割り込んできた。
「……ヴォルフ兄上。私は皇帝陛下の名代として、この会見の場におります。申し訳ありませんが、差し控えていただきますよう」
「っ! 何を言う! 俺は第二皇子でありエストライア帝国の元帥、軍事の全てを担っている! ならば国防に関わるかもしれない大事において、俺の言を聞き入れないなど言語道断だ!」
パトリシアの物言いが気に入らなかったのか、ヴォルフは烈火のごとく怒る。
茶番のまま終わらせようとしていたパトリシアにとって、この展開は少々面倒だった。
「お言葉ですがヴォルフ殿下。私はパトリシア殿下が皇帝陛下の名代であるからこそ、こうして大人しく謝罪しているのです。そのような失礼な真似をなさるのなら、こちらとしては帝国の抗議を受け入れなくても構わないのですが」
「っ!?」
クィリンドラにまるで獲物を狙う隼のような殺気を向けられ、ヴォルフは息を呑む。
五百年前の『人魔対戦』において、クィリンドラの弓によって命を奪われた魔族は数知れず。『沈黙の射手』の実力は少しも衰えてはいなかった。
「で、では、誰がどう見てもただの子供が魔王軍幹部を倒したなどと、どうして我々帝国を謀ったのか!」
怯んだヴォルフだったが持ちこたえ、なおもクィリンドラを糾弾する。
ヨナの実力を知っているパトリシアやクィリンドラ、同席しているハーゲンベルク侯爵は言いがかりも甚だしいと思ったが、それ以外の者はそうは思わない。……いや、むしろヴォルフの意見に賛同する者がほとんどだった。
「ですからそのことに関しては、先程から謝罪しているではないですか。ヴォルフ殿下は一体何を求めておられるのですか?」
これ以上駆け引きをしたところで話にならないと感じたクィリンドラが、単刀直入に尋ねる。
きっとこの男は今回のことを理由に、何かしらの便宜を求めているのだ。なら、それを聞き出したほうが早い。
「なに、簡単なことです。クィリンドラ様はその子供が魔王軍幹部である『渇望』のザリチュを倒したと謀った。ならば真偽の程を改めて確認するため、その子供にもう一度魔王軍幹部を倒させればいい」
「……何を言っているの? これ以上その薄汚い口を開くのなら、この『沈黙の射手』クィリンドラが受けて立つわ」
もはや殺気を隠すつもりもないクィリンドラが立ち上がり、ヴォルフへと歩を進める。
このままではヴォルフがただでは済まない。周囲の者達は止めようとするが、脚が言うことを聞かなかった。
無理もない。『人魔大戦』の英雄であり、勇者とともに魔王に挑んだクィリンドラである。帝国の人間で彼女に敵う者など、いるはずもない。
……いや、一人だけいる。
もちろん既にラングハイム家と縁を切り、帝国に縛られることのなくなったヨナのことではない。
それは。
「……クィリンドラ様、非礼はお詫びします。ですが、これ以上はおやめいただきたい」
「パトリシア殿下……」
クィリンドラとヴォルフの間に割って入り、パトリシアが静かに告げる。
自分とて『人魔大戦』の英雄。並大抵の圧力ではなかったはずなのに、パトリシアは涼しい表情をしていた。
つまりパトリシアは、十八歳にして英雄の域にいるということ。
「ヴォルフ兄上も、なぜ今さらヨナに魔王軍幹部と相対させようとなさるのですか。既に彼の実力は否定され、それこそ無意味なこと。いたずらに魔王軍残党を刺激し、戦端を開くおつもりか」
「ぐ……っ」
パトリシアに琥珀色の瞳で睨まれ、ヴォルフは言葉を詰まらせる。
ヨナの強さが眉唾であることが判明した以上、真偽を確かめる必要はない。
(だが……戦ってもらわねば困るのだ……っ)
パトリシアとクィリンドラが、どうしてここまでただの平民の子供を庇うのか理解できないが、少なくともこの子供が魔王軍幹部と戦うとなれば、きっとパトリシアも同じく挑むことになるだろう。
もしパトリシアが『背教』のタローマティを倒すことができれば帝国にとって最上。このような決断をした自分の采配が評価され、帝位争いにおいて皇太子レオナルドに迫ることができる。
反対にパトリシアが敗れてしまった場合は、そのまま死ねば常に比較され続けてきた目障りな妹がいなくなる。
仮に生き残ったとしても、その時は『白銀の剣姫』が本当は大したことがないのだと喧伝し、その評価を地に落とすことも可能。
つまり、どちらに転んでもヴォルフにとって上手く事が運ぶのだ。
何とかして『背教』のタローマティとの戦に持ち込めないかと、ヴォルフが策を巡らせていると。
「……真偽を確かめる云々はともかく、その少年を『背教』のタローマティと戦わせれば、それで皆が納得するのではないか?」
これまで沈黙を保っていたレオナルドが、静かにそう告げた。
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