女子達の攻防
「あ……あれは……っ!?」
「おお……!」
扉が開け放たれ、現れたのは手を繋ぐ小さな少年と少女。
――白の礼装姿のヨナと、今日のために用意した黒と赤のドレスに身を包むマルグリットだった。
「フフ……ご覧なさいまし。会場中の人々が、わたくしとヨナだけを見ていらっしゃいますわ」
「あ、あはは……僕としては、目立ちたくないんだけど……」
「何をおっしゃいますの。このような華やかな場で目立たなくては意味がありませんわよ」
苦笑するヨナに、どこか得意げに話すマルグリット。
まるでこういった社交の場に慣れているかのように振る舞う彼女だが、実は片手ほどしかこういった場に参加したことがない。要は見栄を張っているのだ。
領地が帝都から離れているということもあるが、何よりハーゲンベルク侯爵が悪い虫がつかないようにと、積極的に遠ざけていたことが理由である。
「えへへ、そうかな」
「ええ、そうですわ」
参加している大勢の貴族達が注目しているが、二人はあまり意に介さずにホールを歩く。
「それより、わたくしはもうお腹がぺこぺこですわ。何か食べに行きますわよ」
「う、うん!」
マルグリットに手を引かれ、色々な料理が並んでいるテーブルへと足を運ぶヨナ。
思ったとおり、早速尻に敷かれているようである。
すると。
「「ヨナ!」」
「わわっ!?」
彼の名を叫ぶなり飛び出してきた、二人の女性。
一人は第一皇女パトリシア、もう一人は『アルヴ』の長の娘ティタンシアだ。
「パ、パトリシアさん……って、ティタンシアさんも!?」
「ま、まったく……心配したのだぞ……!」
「……やっと逢えた」
無事であることを確認し安堵の表情を見せるパトリシアと、感慨深げな表情を見せるティタンシア。
いきなり目の前に二人が現れ驚いたヨナだったが、逃げ出したことに対する申し訳なさと、再び出逢えたことの喜びでヨナの表情は複雑なものとなっていた。
一方で。
「……ヨナ。いつパトリシア殿下とお知り合いになりましたの? それに、隣にいらっしゃる綺麗な女性はどちら様なのかしら?」
「っ!?」
ぎり、と握る手に力を込め、表情こそ笑っているものの真紅の瞳が一切笑っていないマルグリット。
(ぼ、僕、マリーに何かしたっけ……?)
理由が分からず、困惑しきりのヨナ。
気づけば冷や汗が滝のように溢れ出し、どうしたらいいのかとパトリシアに視線を送って助けを求めてみると。
「ほう……まさかヨナに、こんな素敵な女の子がいたとはな」
顎に手を当て、嬉しそうに頷くパトリシア。
ヨナの視線の意図には一切気づいてはいないが、その一言で事態は好転した。
「そそ、そうでしょうか……」
「うむ。見たところどこかの貴族家の者のようだが」
「は、はい! ハーゲンベルク侯爵家の長女、マルグリットと申します!」
マルグリットは少し顔を上気させ、少しぎこちなくカーテシーをする。
彼女が第一皇女だから、こんなにも緊張しているわけではない。ヨナの恋人のような扱いを受けたことが、嬉しくて仕方がないのだ。
「むう……ヨナ、いつの間にこんな女の子を……」
「え、えーと……」
今度はまるで怨念めいた視線を送って憮然とした表情のティタンシアに、「何か怒らせるようなことをしただろうか」と、ヨナはますます混乱する。
「フフ……ヨナ、それでこちらの女性はどなた?」
「え? え、ええとー……オーブエルン公国で仲良くなった、ティタンシアさん……です……」
「そう」
笑顔のマルグリットのただならぬ雰囲気に声を震わせるヨナを一瞥し、マルグリットはティタンシアの前へと出た。
「はじめまして。ヨナと一番の仲良しの、マルグリット=ハーゲンベルクですわ」
胸に手を当てて優雅にカーテシーをしたかと思うと、余裕のある表情を見せる。
しかも自分がヨナの一番なのだと誇示しながら。
ただし、恋人や婚約者であると嘘を吐くだけの度胸はない。
とはいえ傍にヨナがいなければ、そう名乗っていただろうが。
「ん……わたしはティタンシア=フィグブローム。ヨナとは一緒に寝た仲」
「……そうなんですの?」
「ご、誤解だよ!?」
ぎぎぎ、と軋む音が聞こえてきそうなほどゆっくり振り返る笑顔のマルグリットに、ヨナが全力で訴える。
一緒に寝たといっても、『アルヴ』の里に向かう途中の野営で一緒のテントを利用したってだけであり、決してやましいことはない。
そこへ。
「ほう、ヨナと一緒に寝たということであれば、私もそうだな」
「パトリシアさん!?」
まるで追い打ちをかけるようにパトリシアが油に火を注いだ。
事実ではあるけれども、時と場所を選んでほしいと思うヨナ。いずれにせよ、ホールのこの狭い空間だけ一触即発の空気になっている。
「ふうん、わたくしから黙って去ったと思ったら、そんなことばかりしていたんですのね」
「だから、違うったら!」
「どうだか」
あからさまに頬を膨らませ不機嫌さを隠さないマルグリットに、ヨナはとにかく弁明する。
その様子にパトリシアは苦笑し、ティタンシアは嫉妬する。
でも、二人が感じたのは、この小さな少年少女がとてもお似合いだということ。
そう思ってしまったティタンシアは、少し悔しくて唇を噛んだ。
すると。
「ヨナタン……」
「兄上……」
現れたのは、ラングハイム公爵と弟のジークだった。
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