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天の涙に落ちこぼれ

作者: 黒月 一条


 右手に雨粒。

 左手に風。


 二つが交わり陽の光。

 時に反発して落ちる霹靂。


 たまに虹。

 七色に融合してもそれは一瞬の奇跡。


 気まぐれに繰り返しながら、今日も明日も過ぎていく。


 例えばそれが、ひとりの落ちこぼれ魔法使いによって行われているとしたら、安心して空の下を歩けますか?



【天の涙に落ちこぼれ】



「おい、ラル!」


 突然の怒声に驚いて、青年が肩を震わせ立ち止まった。振り向かなくても、背後から迫ってくる気配は、一歩一歩近づくごとに青年ラルに冷や汗をかかせた。


 だが逃げるわけにはいかない。


 逃げたところですぐに取っ捕まって余計に雷を落とされるのは分かっている。


 ここは大人しく、彼の訪れを待つしかない。


 俯いたままいると、口から憂鬱が「はわわわわー」と言葉になって零れていった。


 今日はどれくらいお説教されるのだろうか。もはや想像もつかない。


「お前いい加減にしろよ! お前の担当地域は快晴だって言っただろーが! みぞれなんか降らせやがってこの野郎!」

「ごごごめんて。右手が滑っちゃったんだ。気を付けるよ」

「オメーは何回そう言ったぁ?」


 ラルの前に回り込んで口をひん曲げているこの男はラルの幼馴染みでもあるヒュー。


 ヒューはラルよりも少しばかり年上で兄のような存在でもあったが、同時にラルの先輩でもある。


 ラルとヒューはどちらも気象系魔法使いで、この天空の国オッテンキーから人間の暮らす地上の天候管理を任されている。


 ヒューはすでに一人前の気象魔法使いとして周囲に認知されていたものの、後から入ってきたラルといえば、一番簡単な快晴でさえもコントロールできない時がある。


「なんにもしないで見てるだけで良いのに、どーしてオメーは余計にややこしくするんだよ!」

「そそそそんな事言ったって手が勝手にうっかりするんだ……あっ!」


 言ったそばからどこかの地域にドカーンと雷の落ちる気配。


「ああ、またやっちゃった!」

「おめぇ! またやっちゃったじゃねーんだよ! ほら見ろ」


 怒りの収まらないヒューに更なる怒りを注いだラルは、そのまま首根っこを捕まれると、ヒューが魔法で生み出した水鏡の水面に顔を押し付けられた。


「あ、つめたっ」


 勢い余って鼻先が少し水に触れる。


 ラルの鼻が離れると、それによって揺れていた水面が次第に静けさを取り戻していった。


 じーっと見つめるラルの目に、キャーキャー叫びながら家路を急ぐ人々の光景が映る。


その空模様と言ったら滝のような大雨に、次から次へと落下する雷。ラルとて逃げたくなるような悪天候だ。


「たた大変だ!」


 ラルは慌てて右手のひらを上向きに返すと、二言三言呟き、具現化した水の塊をひとつ造り出した。


 そしてそこにふっと息を吹き掛ける。


 するとどうだろう。


 水鏡に映る世界は、再びの晴れ間に包まれていくではないか。


 天候の回復を見計らって、ラルがふーっと安堵の溜め息を吐く。


 そして人好きのするふにゃっとした笑顔でヒューを振り返った。


「この人たち傘持ってないのかな?」

「おめーが言うなボケ」

「いでっ」


 容赦ないヒューのげんこつをくらって思わず両手で頭をさするラル。


 その動きに合わせて、地上では心地よい風が吹き始めていた。


 気象魔法使いの右手には、水の力が宿っている。


 そして左手には、風を纏っている。


 天候の安定は、ラルがそれを自在に操れるようになるまではお預けかもしれない。


 なお、ラルが一人前になれるかどうかは神のみぞ知る。




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