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第2話:ゲームの主人公が消えたなんて聞いてない

 今年、治癒魔法を授かった少女はいない。

 それを聞いたディアは予想外の展開に眩暈に襲われる。幸い、クリスは顔色の悪いディアを気遣ってすぐに部屋を出ていってくれた。

 故にディアは速やかにペンと手帳を取り出して、脳内会議を始めることができたのだ。


「主人公がいない……そんなの、絶対にまずいわ! 「黎明のリュミエール」のハッピーエンドには主人公の存在が必要不可欠なのに!」


 そう。「黎明のリュミエール」には主人公の少女・ニコルと結ばれる可能性がある攻略対象キャラが五人存在する。


 一人目はたった今部屋にいたディアの婚約者であり、正統派王子──クリス。

 二人目はディアの兄であり、インテリ眼鏡イケメン──リオン。

 三人目はクリスの兄であり、俺様系訳アリ王子──ジェイド。

 四人目は主人公の幼馴染であるツンデレ世話焼き系男子──ホープ。

 最後の五人目は邪悪な魔族の王──ジン。

 

 この五人はそれぞれ闇を抱えており、主人公のニコルが誰を救うかによって各攻略ルートに分かれるのだ。しかしそのニコルがいないとなると、五人の闇はそのまま残ってしまう。


「それにどのルートだって、最終決戦で攻略対象キャラが命を落としてしまうような危機に陥る! その際にニコルが治癒魔法で治癒するか、蘇生させることでハッピーエンドに物語は導かれるのに! 私も例外ではない。悪役令嬢なんて損な役回りをしているディアが死ぬルートもある……!!」


 勿論、ディアは死にたくない。それに最推しのクリス様は勿論のこと、誰一人として大好きなゲームのキャラ達を死なせたくない。ここは現実なのだからなおの事だろう。


 そのためにどうするか。


 そこで、ディアはペンを握った。すぅっと息を大きく吸い、目を瞑る。


(考える……。そう、オタクの私には他人より秀でた力がある。それは──想像力(イマジネーション)! だから──!!)


「まずは今の状況を導入として様々なシチュエーションを想定し、いかにハッピーエンドへ導くか、考えるのみ!!」


 ディアは素早い勢いでペンを走らせる。描いて、描いて、描きまくった。これこそディアが前世で培った“技術”である。


 好きな作品やキャラクターの別側面を見てみたいというオタクは多い。故に、「もし~だったら」という原作とは一味違うif世界を作り出す技術に長けてしまう傾向にあるのも不思議ではない。


 ディアはそれを利用して、「黎明のリュミエール」のif世界──二次創作をそれはもう頭がおかしくなるくらいには描いた。使用人や両親には体調不良を訴えて、部屋にこもり、二日間ずっと描き続けた。「黎明のリュミエール」についての設定・知識の再確認も兼ねて。


 ……ついでに傲慢我儘悪役令嬢に転生してしまった現実からの逃避と、最推しを三次元でしかも間近に見てしまった事による萌えをなんとしても消化したかったのもある。


 そうして二日もすればついに十三歳のディアの体力が尽きる。バッタリと床に突っ伏して動けなくなったのだ。


 そして一つの結論に至った。


「そうよ。主人公がいないなら──主人公の代わりに攻略キャラ達を救い、溺愛される存在を作ればいいのよ」


 ニヤリと口角を上げた。


 ディアには「黎明のリュミエール」の二次創作の中で特に好んだジャンルがある。それは「クリス愛され」だ。つまりは「最推しであるクリスが攻略対象のイケメン達から溺愛される」という内容の創作物。

 乙女ゲームというのは本来自分と攻略キャラとの恋愛を楽しむものだが、BLを嗜んでいる女性達がそういう楽しみを堪能している事も珍しくはないのだ。


(そうよ、ニコルの代わりにクリス様をこの世界の主人公に仕立て上げることもできるんじゃないのかしら!? クリス様の光魔法は物語のクライマックスでどのルートを辿ったとしても必ず活躍するし、実質ニコルとW主人公と言っても過言ではない。ニコルの治癒魔法がなくても私の守護魔法でキャラ達を守って、そもそも怪我させなきゃいいのよ!)


 ディアはくるくるとその場で踊る。イケメン達に愛されるクリスの絵を想像するだけで、興奮が止まらない。


「クリス様ほどこの世界の主人公に相応しいお方はいないわ。逆ハールートのシナリオのように、攻略キャラ達のクリス様の好感度を平等に上げればいいのよ。そうしたらリオクリも、ジェイクリも、ホプクリも、ジンクリも……みんなみんな摂取できる!! うふふふふふふふ!!」


 しかしその夢の実現の為に、ディアがやらなければいけない事が主に四つ存在する。


 一つ目は、ディア自身が守護魔法を極め、キャラ達が大怪我したり、死ぬことがないようにすること。


 二つ目は、攻略キャラの中のクリスの好感度を上げること。


 三つ目は、ディア一人でできることは限られているため「傲慢我儘令嬢」をやめてディア自身の汚名を回復し、味方を増やすこと。


 四つ目は可能な限りバッドエンドのフラグを潰していくこと。


 ディアは傍に散らばった渾身の二次創作物をかき集めると、大事に胸の中に閉じ込めた。

 その表紙には「クリス王子ラブラブ♡イチャイチャ溺愛大作戦」というタイトルと攻略キャラ四人全てがクリスに頬を染めるイラストが殴り書きされている。


「まずは最も身近な方を味方にしましょう。()に上手く接触すれば、ミッション四つ全てを同時に進行……できる、わ……ぐぅ」


 ディアの言葉がそこで終わった。ようやく力尽き、眠りについたからだ。

 この後、侍女のリンとディアの両親から無茶をして眠らなかった事に対してこっぴどく叱られたのはまた別の話。

「面白そう!」と思っていただけたら評価・ブックマークを投げてくださると執筆の励みになります。

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