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ウィッチ・ブランダー ~魔女の奇妙なやらかし~  作者: 目黒白金
第一章 人間たちを消滅させてしまいました
3/7

1-1 『今日も世界は平和ですね』

 魔女は少数種族です。ここ北方において、その数は千人にも満たないでしょう。


 大規模な国家や都市を形成し暮らす人間と異なり、魔女は各々小さなコミュニティが世界中に点在しています。

 そのうちの一つ、とある森の中。私はこの日も、自宅からほど近い教室で授業に勤しんでいました。


「さて、魔女は生まれつき【固有魔法】を備えています」

 黒板にチョークでその用語を書き込み、教壇から数名の小さな生徒たちを見渡します。


 腰まで伸びた濃紺の長髪、雪のように色白の肌。つぶらな瞳は透き通るような翠色で、整った顔立ちは人形のよう。

 その小さな頭には大きめの尖り帽子、小柄な体には黒いローブを纏っています。これらの衣装は、我々『魔女』のトレードマークとも言えるでしょう。


 私はレイラ。今年で十六になる天才魔女です。二つ名は『瑠璃紺(るりこん)の魔女』。十五歳の誕生日、師匠に命名されました。家柄は一応北方の名家の一つに数えられていますが、あまり実感はありません。

 生まれも育ちもここ北方で、今日に至るまで魔女として何不自由なく暮らせています。


 因みに北方とは今いるノースランド全域を指し、他と比べて遥かに低い気温、日照時間の少なさが特徴的な寒冷地帯です。

 ただ自分は寒い所が好きなので、ここはとても過ごしやすく思います。自然も豊かですし、水も美味しいですし。


 さてさて本日の授業ですが、場所はいつも通りの教室。

 教室と言っても木造の簡素な小屋ですが、設備は申し分ないですし、生徒が少ないのでちょうど良い広さです。


 今日の生徒は四人。皆この辺りに住まう魔女の子供達で、その顔ぶれは連日変動します。それぞれ来たり来なかったりしますが、学びたい子に教えているだけなので家庭訪問をすることはありません。


 そして自分も子供の頃は、同じように近所の教室で色々と教えてもらっていました。今では私が先生というわけですね。


 では、授業に戻るとしましょう。

「固有魔法は一人一人異なり、その種類も様々あります」

「カミナリ魔法とかー?」

 生徒の一人が尋ねました。

「それは【属性魔法】です」

「違うの?」

 また別の一人が尋ね、私は丁寧に説明しました。

「基本的に【固有魔法】は自らの意思で使用する魔法ではありません。体質のようなものと考えてください」


 そう、それは体質。人間で言えば痩せ型だったり、お酒が強かったり、食欲が旺盛だったりするのと同じです。特殊なものだと、本人ですら把握していない場合もあります。


「どういうのがあるのー?」

「例えば、何らかの生物に姿を変える事ができる『変身系』。体が水や炎に変わる『属性変化系』。他にも、何らかの特殊な性質を持つ『特質系』、死ぬことのない『不死系』などがあります」

「私、ママが猫に変身できるよー」「私は何だろ?」


「レイラの固有魔法は?」

 一人の生徒が尋ねました。

「秘密です。そう易易と他人に教えるものではありませんので」

 これに限らず、魔女の扱う魔法は命に関わる個人情報、もとい弱点でもあります。身を守るためにも、それを知られるリスクはなるべく避けた方が無難です。


「ケチー」「ケチレイラ」

「ケチだからケッコン出来ないんだよー」

「そこ、うるさいですよ」

 余計なお世話というか、私はまだ十六歳です。成人したてのうら若き魔女です。それがついこの間までママの乳を吸っていたマセガキに、何を言われる筋合いは無いと思うのです。


「くらえー、レイラ」

 その時生徒の一人がふざけて杖を向けてきたので、即座に注意しました。

「こら。杖を人に向けてはいけません。いつも言っているでしょう」

 これは最低限のマナーです。仮に魔法が暴発したら大変ですからね。

 故に魔女が杖を人に向けるのは、明確な敵意がある時くらいです。

「冗談だよー」

「冗談でもダメです」

「はーい……」

 まあ、彼らが今用いているのは子供用の安全な杖(魔法の出力が控えめ)なので、実際のところはそこまで危険では無いですが。


(……おっと)

 ふと気付けば辺りが暗くなってきました。夜の森は危険です。

 杖を懐にしまい、早々に解散を(うなが)します。

「今日はここまで。明日は魔女の歴史について教えます」

「「はーい」」

 生徒達は早々に帰り支度を済ませ、順に別れを告げました。


「またねー、レイラ」「先生バイバイ」

「はい、気をつけて帰るんですよ」

 小さな手を振り、教室を後にする生徒達。次第にそのシルエットが見えなくなるまで見送ってから、どっと椅子に腰掛けます。


 と、そこで、まだ残っていた生徒の一人・カーラ(六歳)がニヤニヤしながら尋ねました。

「レイラ、今日はサバト行かないの?」

「行きません。セクハラですよ」

「レイラ怒ったー」

「怒ってません。あと『先生』をつけなさい」

 【サバト】というのは……追々説明します。子供のいる場所で話したくないので。まあ、魔女が不定期で催すとある『伝統行事』とだけ言っておきましょう。


「じゃあまたねー、レイラ先生」

「寄り道はダメですよー」

 漸く最後の一人を見送り、私は疲れから息をつきました。

「……ふぅ」

 束の間の幸せな時間も終わりを告げ、安心と同時に寂しさに包まれます。


 こうして毎日子供たちを教育する生活を始めてから、早くも一年が過ぎました。

 マセガキは苦手ですが、子供は好きです。日々成長していく未来の魔女見習い達。その姿に心から癒やされ、何より元気付けられます。私の天職だと思います。


 まあ、と言ってもこの授業は趣味のようなもので、私の本職は別にあるのですが。

 それについてはまた後ほど。今日は私も、家に帰るとしましょう。

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