彼の素性は話せば長くなる。2
彼くんの内面の感情が出そうで出ないような
ベッドの素材が良かったからと言って、すべてわたしの利益にはならないらしい。
「・・・汗びっしょりだ」
わたしが汗でびっしょりになった理由は『夢』。まともに寝れなくなった頃から見れなかった夢だ。
わたしの両親は最初から、ひどい人物ではなかった。
異世界の両親から生まれたときから自我を持っていたのだ。それだけでも不気味だったはず。けれど、『黒髪は魔女』と知りながら、わたしを3歳まで育てた。
しかし、村の者に隠し通せるわけもなく、わたしという『魔女』は見つかり・・・
「そういえば彼から話を聞けるんだ。とりあえず聞いてみよう」
『悪夢』に蓋を、見たくない景色を布で閉じるように、意識を別の方向へ追いやった。鍵のない部屋から出て、1階の応接間らしきものへ向かっていく。
今わかったことは、夢は見るものじゃない。ということだけだ。
すると、彼ではないが1人の男性がいた。
幼い顔立の、働く年齢には見えないが高身長。いたく不自然に思えた。昨日に見かけなかった者だ。わたしはそれに尋ねることにした。
「彼に会いたいのですが」
「・・・えぇ、分かりました。その席に掛けてお待ち下さい」
その人は昨日居なかったように思えたが、すんなりと話が通った。
しばらくボーとしながら待っていた。久しぶりの休んでいる感覚であった。やがて、なぜか急いでいるように見える彼が来た。
「ハァハァ・・・おかしいな。侍女からお風呂があると話を聞いていなかったのか? いや、ボクが入ったあとの湯水は危険。なんて考えたか?」
まくし立てるように彼は聞いてきた。
「その、入り方が分からないというか・・・」
わたしが答えたあとに、彼は驚いたような、気づかなかった自分を笑うような表情をした。
「まあ、そうだな。ボクが悪かった。・・・申し訳ないが、今日は侍女らはいない。ボクが入浴について教える。ついてきてくれ」
とんとん拍子で風呂に入ることを決められてしまった。が、そんなことより、わたしはなぜ侍女がいないのか。あの侍女ではない男性は何者なのか、その疑問を考えながら彼についていく。
思いの外、彼の家は広いようで無言で歩く時間が渡っていた。そこでわたしは、雑談を試みた。
「良かったですね」
「・・・なにがだ」
「一緒に入浴だなんて、相手の方は『愛してほしい』と考えてしまうのではないでしょうか。わたしがそう思う人じゃなくて、良かったですね」
彼は何も答えなかった。
途端にわたしは、彼が不気味に思えた。愛したくないのか、愛されたくないのか、なにを思っているのか。
『魔女』が雑談をするべきでなかった。と思っていたら彼が止まった。どうやら浴場らしい。
「君は『愛してほしい』と求めないのか。『魔女』なる存在は・・・なんでもない。とりあえず今日は入浴について教える。明日からは侍女だろうがね」
結局は教えるらしい。
そう、入浴場も広かった。
彼は中に入らず、外から教えてくれるようだった。
「まっすぐ歩け。温水が流れているところで、桶を掬って自身の身体に掛けろ。それで、えーと、湯が張ってある場所に入れ。のぼせないように・・・って、そういうところは親に教わったか?」
「いいえ」
「・・・よし。とりあえずボーっとなりそうだったら、その湯から上がれ。これで大丈夫か?」
先程は彼が恐ろしく思えたが、親切な人物とハッキリわかった。なにも考えない時間は気持ちが良かった。寝るときの夢の何倍も良い行為だと思う。
そして、彼の言うボーっとなりかけたので湯から上がった。外の扉の向こうには、まだ彼が居た。
「・・・それが『入浴』ということだ。次は・・・頭を洗うのか? この質問に意味がないように思えるが・・・頭の洗い方は知ってるか?」
「さあ」
彼の反応がなくなった。しばらくして
「そのー、洗い方教えるから入っても大丈夫か? いや、入るぞ」
服は着ていたが、契約夫婦に思えない様子だと思う。一緒に入浴場にいるなんて。
「こんなこと人に教えたことはない。失敗しても怒るなよ・・・実演してやるから、早く覚えてほしいぞ・・・まずこの、1という数字の入ったじゃなくて、左の容器を使うんだ。泡がよく立つやつだ」
1という数字すら読めないと思われたらしい。が、読めないので彼の読みは正しかった。
無骨ながら、恐る恐る彼の指が、わたしの髪の間に入ってきた。やけにくすぐったいものだった。
「・・・おいおい、ボクは髪が長かった時期はないぞ? 目を閉じておけ、痛かったらすぐに申せよ?」
痛くない、むしろ気持ちのいいものだった。
「気持ちいいですよ。すごく」
「そうか。次は、湯を頭にかけるんだが・・・通常は侍女が湯の入った容器を持ってくる。今回はボクが持っきた。・・・よし、目を閉じたままにしておけ湯をかける」
泡が流された。
入浴の工程は長かった。洗ったあとも、髪の毛を乾かさないといけなかったり、服を着たり、面倒なことが多かった。
そうだ、洗われていたときに思った疑問がある。前世もあったはずなのに、『入浴の知識なんて覚えていない』自分でも、日本人であったと思っているはずなのに、覚えていなかった。
だが、今は彼の素性を知りたいので、この疑問はあとに解決しようと思った。
「先に応接間に戻っておけ。ボクは入浴場の掃除をしておく」
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「チッ。あいつめ。わざわざボクに彼女を入浴させるよう仕向けたな」
「おかげで変な情まで湧くでないか。『あの儀式に間に合わせないといけないのに』」




