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花火大会の日に   作者: KK
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再会

お気に入りで流行の服を着て懐かしい海岸を歩く。歩く度に砂の音がして足跡が付いていた。涼しい潮風が吹き、磯の匂いがする。乱れた髪を耳にかけると、岩にぶつかる波の音が聞こえてくる。ふと砂で城を造っている子供たちを見る。私も子供の頃、作ったものだ。どれくらい前だろう。10年ぐらい前か、と思い出しながら海を眺める。それは空を反射し、何処までも続いている。




「お姉さん、何しているの」




ツインテールの少女が私に声をかけた。




「昔を思い出しているんだ」


「変なの」




変か。確かに変だ。けれど、大切な思い出があった。そんなことを考えながら炎天下の一本道を歩いていると、自転車のベルの音が聞こえ、振り返ると、背の高く、日焼けした男性がいた。軽く謝り、道の端に移動すると


「よお、美咲じゃねえか。変わらねえな。今、俺たち、27だから12年ぶりだな」と、まるで親しい間柄かのように話しかけてきた。




「えっと......。すみません。どちら様でしょうか」




「え、覚えてねえのか。大地だよ。佐々木 大地」と私に訴えているようだった。




こんな容貌だっただろうか。大地は日焼けをしていたが、もっと小柄だった。私が想像していた印象とは違うが、そうかもしれない。




「ああ......」


「絶対、忘れてただろ」




私は、その男性を見て「んん......、何ていうか別人みたい」と言った。




「そうか。そういえば、高校で結構伸びたな。それより、都会はどうだ。大きなビルとかいっぱいあるだろ」




見た目は違うが、中身は大地だと分かった。




「まあね。初めは、なかなか慣れなくて。今は馴染んで。仕事も上手くいってるよ」


「良かった。あいつら、どうしてるんだろう」




大地の笑顔が少し暗くなった。




「皆、バラバラになっちゃったもんね」




そう、私達は高校で離れてしまったのだ。




「雄斗は進学校だっけ。頭良かったもんなあ。医大目指して頑張るとか言ってた。私は父の転勤でね。千花ちゃんは田舎でどうしてんだろ」


「さあ」




少し苛立っているようだった。




「ねえ、私達4人で同窓会しない?」


「え、コスト掛かるだろ」


「違うよ。4人だからそんな大きいのはしないよ。大地の家で」




「はあ!何でそうなんだよ」と今度は怒った。




「申し訳ないけど、大地だけ引っ越してないから。それに私達の故郷は、この町だから思い出の場になると思って。無理にとは言わないけど、お願い」




私は頭を下げた。




「分かったよ」


「ありがとう。大地の家、広いから助かるよ」


「古いけどな」




早速私は2人に手紙を書いた。書き終わると、ポストに入れた。




「あと一週間ぐらいだね。2人で軽食作ったり、飾りつけしよう」


「何で。あの2人は?」




私は言葉を探した。




「え、ええと、だって、ほら、こっちが招待する側だから、お招きされた人にやらせたらおかしいでしょ」




「あ、そっか」と納得しているようだった。




「じゃあ、私、当日の16時頃に来るよ。また」




期待と忘れたいという思いが私の胸で旁魄した。姿を見たら、声を聴いたら、きっとそれだけで、あの時と同じ感情を抱いてしまうだろう。然るに、何故、私はあの提案をしたのだろうか。




同窓会当日、16時5分前に大地の家の前に着いたが、インターホンを鳴らすのに躊躇した。けれど、それだと時間が過ぎるだけなので、無心になり、ボタンに手を伸ばし、押した。このまま大地が来なければよいのに、と思ったが、無理な話だ。




「こんにちは。同窓会の準備をしよう」




家に入り、居間に向かった。




「さてまずは、予定。オムライスとスープと海老のサラダとケーキを作ろう。材料で足りないものはある?」




「あの、料理分かりません」と大地が恥ずかしそうに言った。




部屋を見渡すと、漫画や空き缶、弁当のトレーで散らかっている。一人暮らしだが、料理はしなさそうだ。そういうわけでか焼き魚を食べた後かのように生臭い。




「まあ、食材の方を優先しよう。冷蔵庫見て良い?」


「飲み物とアイス以外、何もないぞ。大体、コンビニの弁当だから」


「じゃあ、調味料は?」


「そこの棚にある。開けて良いから」




新品の物が保管されていた。見たところ、足りているようだ。




「じゃあ、紙とペン頂戴」




必要なものと個数をずらずらと書いた。そして、大地に差し出した。




「え」と驚いているようだった。




「半分払うから、後でレシートを見せて」




私がそう言うと大地は口を開けて呆然としていた。我に戻ったかと思うと「何で俺なんだよ」と私に問うので「私は片づけをするからお願い」と答えた。少し頭の中で整理をしたのか


「ああ、そういう事か。オッケー」と言い、メモ用紙を見た。




「はあ!何この量」と驚いていた。




「パーティー用だから」




大地は腑に落ちないようだったが、渋々、スーパーに向かった。散らかすことは昔と変わらない。不思議と自分が助けなくてはいけないと思ってしまう。




私はマスクを付けて掃除を始めた。床に散らかっているごみをゴミ袋に入れ、必要なのか分からないものをまとめて置いた。シンクに溜まってある皿を洗い、拭き掃除をした。ある程度綺麗になったところに大地が来た。両手に提げている袋いっぱいの荷物を床に置いた。




「重たかった」




部屋を見渡して「綺麗になったなあ」と驚いている。




「普段から掃除すること」


「はーい」




大地は生返事をした。恐らく、するつもりはないだろう。食材を冷蔵庫にしまうと、買い物代を払った。玄関の靴箱の上に置きものを置き、居間には風船を固定した。最後は料理だ。簡単な料理を大地に教え、私は比較的難しいものを担当することにした。包丁を持たせると指を切りそうになるので、じっと見た。




「何かやりにくい」




色々あったが、料理は完成し、同窓会の準備は整った。




少し経つとインターホンの音がした。誰だろう、と思って玄関に向かうと、雄斗が立っていた。




「こんばんは」


「こんばんは、来てくれてありがとう」




「よう、久しぶり。中へ」と案内した。居間に入ると、部屋全体を眺めていた。今は10分前だった。ちょうど待ち合わせ時間になるとインターホンの音がした。




「千花ちゃんだ」


「こんばんは、遅くなってすみません」


「遅れてないよ、ね」


「おう」




また昔と同じだ。私の入ることのできない、2人だけの世界があるのではないかと不安になった。随分と経っているから、そんなはずはないか。千花も居間に入り、皆が揃った。雄斗と千花は部屋を見渡している。




「凄いな。大変だったんじゃないか」


「本当に綺麗。ありがとう」




大地は「まあ」とまごついていた。




「皆が集まって良かった」




私達は中学校卒業以来ずっと会っていないが、こうして集まると当時を思い出す。見た目は変わったものの、中身は昔と変わりない。ただ集まって賑やかに過ごしていただけなのに、懐かしく感じる。

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