第五話 桜泥棒の予告状
魔法使いが居候してからしばらく経った。ある日突然、平穏な日々を打ち破るように彼らのクラスにとあるものが届く。
[お〜い!忍輝!遅刻するよ〜!]
なんやかんやあって花月との学校生活。今の所、特に変わることはない。
[よう。忍輝。]
叶都とのいつもの挨拶。いつもの会話。花月とは席が隣だから少々を話すことはあるけれど、僕の交友関係に変わりはなかった。
……正直、僕は期待していたのかも知れない。彗星の如く現れた転校生。そして正体は魔法使い。現実ではありえないことがどんどん起こる。そこから僕は、退屈な日常から非日常を期待していたんだ。
[はぁ…]
でも、現実、そううまくいくものではない。花月はあれから一度も魔法を見せないし、普段外出しているから、居候と言っても僕の家を寝床にしているだけだ。そう思った時、
パリン!
[は?]
教室の窓ガラスが割れた。近くに誰も人がいなかったのに勝手に割れた。外から誰かボールでも投げたのだろうか。否。ここは3階だ。届くはずがない。届いたとしても窓ガラスが割れるほどの威力にはならないだろう。
[……………………。]
花月が黙っている。まさか、魔法?
[おいおい、なんだよ!このカードは!]
窓際の席の森本と言う男子が声を上げる。
なんと、机にカードが刺さっている。おそらく誰かがこの金属製のカードを飛ばして投げ入れたんだ。こんなことは魔法を使う花月しか、ありえない。
いや、花月ではない。花月は、教室の中にいる。もしかしたら、破片が刺さったかもしれないと考えるとむしろ被害者側だ。
[そのカード、何て書いてるの?]
花月は森本に話しかける。
[{今夜、泉町学園の大桜を盗む。}……ふざけてやがんのか。]
予告状?……無理だろ。泉町学園の桜はこの町のどの木よりも大きい桜なんだ。盗むなんて出来やしない。だけど、脳裏に花月と出会った雨の日のことを、思い出す。