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第4話 そんな理由で召喚に?

 彼女のいる世界には、三つの大陸がある。その三つの大陸を、三つの国がそれぞれ統治している。彼女の国はグラスダース。主に人間が住んでいるという。他には竜神の国ラグナリアと獣王の国レグリアスがある。ラグナリアには竜神、即ち、高位のドラゴンが統べる国で、魔物や異形の生物はこの国にいる。レグリアスは獣王の統べる国で、獣王とはライオンの頭部を持ち、人に近い姿をした獣人なのだという。その獣人にもいくつかの種類があって、豹や猫、犬、鹿、猪などの獣人がいる。その他にも魚人や鳥人、妖精や精霊もこの国に棲んでいる。それぞれの大陸はつながっておらず、行き来するには船が必要だ。

 この三国は特に戦争をするわけでもなく仲がいいわけでもない。お互いが不干渉の姿勢を貫いている。

 彼女はこのグラスダースの王都アラトフ近郊の小さな村の出身だ。村の名はミル。彼女が15歳になった時、王都にいた大賢者バリアスの所へ弟子入りさせられた。勇者を勇者と認定するのは大賢者の役目である。なので大賢者の元で修業する者は勇者見習いと呼ばれる。王立の勇者養成機関に入学するよりも、大賢者の元で修行する方が早く勇者になれるのだという。


「15歳の頃から、その大賢者様の所で修業してたんだね」

「ええそうです。でも、私は勇者修行の成績が思わしくなくて、二年目からは炊事や洗濯、お掃除ばかりさせられていました」


 イチゴの話では、貴族や平民を問わず素質がある者は誰でも勇者を目指すことができるし、優秀な能力を身につけることができれば、勇者として認定されるらしい。イチゴの国でも、勇者は数百人いるとの事だ。それでも狭き門である事に変わりはない。


 しかし、いくら見込みがないからと言って、掃除や洗濯ばかりさせているのはどういう了見なのだろうか。これでは家政婦じゃないか。流石にイチゴの事が気の毒だと感じた。


「それでどうしてここに来たの?」

「それは、18歳になっても見込みのない私に、お師匠様が異世界で勉強して来いと。まあ、放り出されたのです。ここを選んだのは、壮太さんのご指名があったからです。指名料はいただいておりませんが……」

「指名って何よ!」


 葉月に睨まれる。

 俺は畳んでベッドの上に置いていた魔法陣を見せる。


「俺が10分くらいででっち上げたんだ。何で女勇者イチゴなのか、お前知ってるよな」

「まあ、そうね。あんたゲームやるときは必ず主人公は女性でイチゴだったからね」

「そう、その魔法陣です。お師匠様が転送先をサーチしているときにその魔法陣が引っ掛かりまして、良い人そうだから行ってこいと……」


「俺が呼んだ。しかし、イチゴさんを飛ばしたのはお師匠様、で良いのかな」


 イチゴが頷く。


「ところで、どうしたら帰れるの?」

「もう帰れとか酷いです。壮太さん。私の事が嫌いなのですか? 大食いなところが迷惑だとか?」


 確かに大食いは迷惑かもしれないが、帰れとは言ってない。


「修行である程度成果が上がるまで帰れないって事で良いのかしら?」


 葉月が助け舟を出してくれた。


「はい、そうです。成果に関してはお師匠様が判断されます」

「うーん。それじゃあ、帰れるまでココにいなさい。それで、バイトもしてお金を稼いで自分の食い扶持は自分で稼ぐ。そうしよ。ねっ!」

「え、良いのですか?」

「良いよ良いよ。でも住むのはこの部屋じゃなくて私の部屋」

「それは……」


 何故か俺は躊躇してしまう。せっかく俺の部屋へ来てくれたイチゴを葉月の部屋へ追いやるようで、少し後ろめたい気がしたからだ。


「馬鹿ね。何ためらってるのよ。あんたみたいなおっぱい星人の部屋に、こんな可愛い巨乳ちゃんを住まわせる訳ないでしょ。私にはこの立派な胸をケダモノから守る義務があります。分かった?」


 何故そういう義務が葉月に発生するのかは疑問なのだが、世間的には真っ当な意見である。


「じゃあ、あんた服貸しなさいよ。私の服じゃ着れないみたいだから」


 葉月がゴソゴソとタンスを漁る。


「あ、このジャージ借りるわよ。で、財布貸しなさい」


 ベッド脇にある机の上から俺の財布を掴む。中から一万円札を抜きとった。それは俺の今月分の食費なのだが……。


「イチゴちゃんの服を買わなきゃね。フリマにも寄ってみようか。じゃあ私の部屋へ行って着替えるわよ」

「失礼します」


 二人は部屋から出て行った。今から買い物にでも行くのだろう。イチゴの着ていたあの〝布の服〟では寝間着にしかならないと思う。


 適当に作った魔法陣を開いてみる。

 

 本当に適当だ。

 フリーハンドで書き殴っているせいで、幾何学的な美しさのかけらもない。こんなものをサーチして転送してくるとは、イチゴの師匠、あの大賢者様は半端ない能力者だなと感心してしまう。


 隣の部屋へ入った二人が、キャッキャウフフと着替えている声が聞こえる。


「イチゴちゃん。胸、本当におっきいね。サイズは?」

「わかりません」

「うーん。これは95位? Gカップかな? Hカップかな? サイズの合うブラが無いかも?」

「ブラって何ですか?」

「こういうのよ」

「それは葉月さん専用なのですか?」

「これ、あなたには無理よね。全然合わないでしょ。ほら、こんな感じでおっぱいを包んで支えるのよ」

「いやん。くすぐったい」

「いいじゃんいいじゃん。少しくらい触らせてよ」

「じゃあ少しだけですよ」

「ありがと、イチゴちゃん」

「ああん。やっぱりくすぐったい」

「くわああ。柔らかいわ。これ。それにすべすべだし。乳首の色もピンクで綺麗よ。女の私でも憧れちゃう美巨乳ね」

「もう。そんなに触るんなら私だって!」

「え? ヤダヤダ。私、小っちゃいから恥ずかしいの」

「私の胸に触りまくったじゃないですか。自分だけ逃げるのは不公平ですよ」

「あああん。もうしょうがないんだから。優しくしてね」

「はい」


 となりの部屋での百合会話である。このアパートは壁が薄く、聞き耳を立てるなら隣の部屋の状況はまるわかりなのだ。しかし、こんな会話に聞き入っている俺は、一体、何者なのだろうか。少々幻滅してしまった。


 着替え終わったのだろう。二人が部屋から出ていく音がする。

 女の買い物……。それは体力を無限に消費する底なしの戦場だ。そんなモノに付き合う気はさらさら無かった。

 俺はついて来いと言われないように、ひたすら息をひそめていた。

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