第21話 エリザちゃんは意外と物知りなのです
「実はね。獣王の四天王って言われている騎士がいてね。そいつの名はオーダ・クラウダって言うんだけど、まあ、化け物なんだよ」
「化け物? 妖怪変化みたいな?」
「それはニュアンスが違うなあ。ちょっと常識はずれな体と戦闘力を持ってる、キメラ系のヤバイ騎士なんだ」
「キメラ系って何なの?」
「うーん。ハイブリッド系って言った方が分かりやすいかな? サソリと人間を合体させたって言われてる」
うーむ。サソリと人間のハイブリッド……よくわからんが、特撮に出てくる悪役って感じなのかな。
「そいつは悪役なのか?」
「悪役っていうか、極悪非道? って感じだよ。とにかく残忍で、目的のためには手段を選ばない。大量殺戮を平気でやってのける非常識な騎士だよ」
「なあ、エリザはレグリアスの人なんだろ? 自国の騎士にそんな言い方をしなくてもいいんじゃないのか?」
「うー。それはそうなんだけど、今のリギラ大王とその取り巻き、ダーラ・クラウダが筆頭なんだけどね、評判が悪いって言うか、物凄く残忍なんだ」
「逆らったら直ぐに処刑されるとか?」
「そんな感じ。前のアルギラ大王の時はそうじゃなかった。平和で調和的だったんだ。今のリギラ大王は急進派なんだよね。だから私たちエイリアス魔法協会との関係は良くないの」
「エイリアス魔法協会ってのは保守的なのかな」
「そうだね。基本的には自然との共生を軸に調和を重視しているの。元々は森の多い獣人の国レグリアスで生まれた宗教思想なのよ。だから古来レグリアスの思想を受け継いでいるエイリアス魔法協会は精霊魔術と癒し系の魔術を得意としている」
「ああ、エリザと、誰だっけ?」
「シャリア様?」
「そう、その人は回復系の魔法が得意なんだ」
「そうなの。でも、現在のレグリアスは急進派に牛耳られていて、魔法協会にも攻撃的な魔術を求めてる」
「攻撃魔法は不得手分野なのかな?」
「それはどうかな? 協会の魔術師で攻撃魔法が使えるのは三分の一くらい。強力な攻撃魔法を駆使できるのは更に十分の一くらいだと思う」
「3%か……じゃあさ、エリザみたいな回復系の魔術師は冷遇されてたりするの?」
「そんなことはないよ。いざ開戦となった場合には回復系の魔術師は沢山必要になるからね。人々の命を救う大事な役目が待っているんだ。だから冷遇されることは無い。私たちの支部がグラスダースにあるのもそういう理由なの。回復系の魔法は医療にも役立つからね。この国にも大いに貢献してるんだよ」
「なるほど。じゃあ、あの人、誰だっけ?」
「また忘れたの? シャリア様。シャリア・メセラ様。あの方は魔術師であって医師でもある天才なんだから」
「凄いんだね」
「凄いんだよ」
そんなに凄いんだ。
シャリア様は。
透明感のある白い肌と青白い髪が印象的だった。どちらかというと小柄で、胸元は寂しいようだが、それでもウルファと比較するならちゃんと胸がある点は評価できるだろう。そんな凄い人の客人になってる俺って……自慢になるのかな。これは。
「その急進派は何でイチゴを狙ってたんだ?」
「あのさ、イチゴ姫は結構な身分なんだから敬称を省略するのは失礼だよ。姫殿下みたいな堅苦しいのは私も嫌いなんだけど、呼び捨ては感心しないな」
「ごめん。言われてみればそうかも」
「そうだよ」
「じゃあやり直し。イチゴ姫は何で狙われてたの? ヘイゼルさんはお嫁さんの候補だって言ってたんだよな。いわば護衛役みたいな立ち位置? だからアルちゃんが来て誘拐したから怒ってるんじゃないかな」
「そう、ヘイゼル殿下はイチゴ姫を何としてでも守ろうとするでしょうね。だから、そんな人がいるところにオーダみたいな化け物が殴り込みかけたらどうなるかな?」
「どうなるの?」
「壮太が住んでた町は灰になるよ」
「灰? 全部燃やされちゃうって事?」
「具体的にどうなるかは知らないけどね。まあアレよ。ゴ〇ラ対キング〇ドラみたいな怪獣大決戦が始まるって感じかな」
「キング〇ドラがウルファ?」
「うん。最強の親衛隊長。首が三本もあるのはアレだけど、大空を舞う黄金竜はまさにあの人だよね」
俺はウルファの事を、小学生体形のまま格闘戦がめちゃ強いんだと思っていたのだがどうやら違うらしい。ちゃんと竜の姿になって巨大化するんだと。ちょっと想像しにくいんだが、彼女を怒らせたら小都市が一つ吹っ飛んでしまう……のかもしれない。気を付けよう。
「ところで、どうして知ってんの?」
「最強の親衛隊長の事?」
「いや、そっちじゃなくて『ゴ〇ラ対キ〇グギ〇ラ』の方です」
「ああ、それね。こないだ見せてもらったんだよ。あれ、カッコイイね」
「見たんだ」
「見た。日本の映像ソフトは見れるんだよ」
「魔法で?」
「そう。アルダル・アスラ・ジブラデル様のお力です」
何気にアルちゃんってすごい人だったんだ。しかし、おぼろげながら話が見えてきた気がする。
「なあ、エリザ」
「なあに?」
「話を整理しよう」
「うん」
「イチゴは、いやイチゴ姫は大賢者の……」
「大賢者バリアス様」
「そう、その人の所で勇者見習いの修行をしていた」
「うん、そうだね」
「周囲からいじめられていた」
「そうだね。他の勇者見習いから」
「それを助けるために、大賢者はイチゴ姫を日本へと送った」
「そこはちょっと違うかな。姫はご自身の出自をご存じなかったので仕方がないけど、周りの人は知ってたんだよね。それはともかく、イチゴ姫が日本に送られた真の理由は、百年前の勇者戦争に関わる事だよ」
百年前の勇者戦争……そういえばヘイゼルさんが何か言っていたような気がする。勇者の暗部とか何とか。その辺が問題の本質なのかもしれない。しかし、そんな事に俺が首を突っ込んでいいのかどうかは疑問でしかなかった。