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第1話 魔法陣を書いてみる

 暇だ。


 世間はゴールデンウイーク真っ最中だというのに、俺は暇を持て余している。


 金はない。

 彼女もいない。

 バイトも無い。


 バイトが無いというのは、まあ、自業自得である。

 寝坊して三回遅刻してしまったからだ。


 昨日、店長から「明日から来なくていいよ」と言われた。

 残念だが仕方がない。新しいバイトを探さねばならないのだが、探すのはゴールデンウイーク明けになる。

 

 暇だ。


 とにかく暇だ。

 全く持って暇だ。


 この暇をどう撃破してやろう……。


 いや、この思考はどうなんだろうか。

 暇を撃破するなど笑ってしまう。


 しかし、どうにかしなくてはいけない。

 そんな義務感に駆られ、ふと思いついた。


「魔法陣でも書いてみるか」


 フフフ。


 自分で言って笑ってしまう。


 魔法陣って書き方も知らないし、魔法とか信じていないし、単なる思い付きに過ぎない。専門書なんて読んだことないし、それっぽいラノベすら知らない。


 まあ良い。

 暇つぶしだ。


 それらしいモノを書いてみよう。


 まず広告を用意した。もちろん、新聞広告だ。俺は新聞なんぞ読む気はさらさらなかったのだが、親が勝手に購読を申し込んだ。日本経済新聞ってやつだ。親によれば、経済学部の学生であるならこれを毎日読むのが常識らしい。しかし、中身を読んでもほとんど理解できないし、バイトの求人探しにしか役立っていない。そんなところは自分でも痛いと思っている。


 サインペンで大きな円を描いた。

 フリーハンドなので大いに歪んでいる。

 まあいい。


 円を三重にしてみる。

 この隙間を埋めればいい。

 さて何を書くのか。


 その前に魔法って何だ。

 考えてみる。


 魔法とは自然界、霊界、いや異世界か。科学的に説明できない世界に通じる力を行使する事、またはその力。この科学的に説明できない力って何だろう。超能力か霊力か。


 わかんね。


 わかんねえけど、自分の意識、精神力がそのよくわからん世界の力と通じ合っているのだ。


 そう脳内に設定する。


 この魔法陣を使って何をするのか。何をしたい?

 

 金は欲しい。彼女も欲しい。しかし、それでは面白くない。


 魔法と言えばファンタジーだ。異世界だ。

 その異世界の住人を呼び寄せるのが面白そうだ。深い意味はない。興味本位というやつだ。


 勇者か、魔王か、魔法使いか僧侶か、モンスターとかゴブリンとかエルフとか。


 そう考えると面白くなってくる。


 俺は女勇者を呼ぶことにした。


 俺は昔から、RPGロールプレイングゲームをプレイするときはプレイヤー名をイチゴにして性別は女性でプレイすることにしている。深い意味はない。


 俺は三重になっている円と円の間に文字を書き込んだ。

 

『我は偉大なる魔法使い壮太(そうた)である。女性勇者イチゴを現世に召喚する。大宇宙の創造神の言葉に従い、我の言葉に従え。万物を織りなす超越者の導きをここに。我は全身全霊をもって呼びかける。さあ為せ、ここに。世界の奇跡を現せ』


 適当である。


 こんな呪文みたいなよくわからん文面でいいのか?


 きっと大丈夫だ。

 暇つぶしだもの。


 中心に何か据えたい。何か高尚なシンボルでも書くかな。いや、漢字一文字で行こう。


 勇気の勇。良いかもしれない。

 知恵の知。恵。無。義。礼。愛。


 愛か。愛にしよう。

 良いかもしれない。

 待て。愛ではなく仁にしよう。

 仁なら男女のエッチな感じが無くなって良いと思う。

 なら仁だ。


 俺は細字のサインペンを置き、油性の太字マジックを取り出した。


 そして中心に大きく「仁」と書く。


 おお、何だか格好いいではないか。

 それっぽくなった。


 では、本番スタートだ。

 俺は先ほど魔方陣に書いた呪文のようなセリフを読み上げる。


「我は偉大なる魔法使い壮太である。女性勇者イチゴを現世に召喚する。大宇宙の創造神の言葉に従い、我の言葉に従え。万物を織りなす超越者の導きをここに。我は全身全霊をもって呼びかける。さあ為せ、ここに。世界の奇跡を現せ」


 自分で書いたのだが、全然覚えてないので所々噛んでしまう。全くもって恥ずかしい。


 仕上げは血を一滴。

 いや、一滴の血でも痛いのは嫌だ。

 唾液でいいや。


 右手人差し指をぺろりと舐め中央に大きく書いた「仁」の所に唾をつける。


 その後、合掌して「南無阿弥陀仏」と唱えた。

 我が家は浄土真宗である。


 何も起こらない。

 当たり前だ。


 俺はその場でごろりと横になり、可愛らしい女性勇者イチゴを思い浮かべる。美しい女性勇者と冒険したりイチャイチャしたりの妄想を爆発させるのだ。


 そのきっかけの魔法陣作成である。妄想に浸るためのツールなのだ。


 その時、魔法陣の上方1メートルの空間が光りだす。

 その光は次第に眩しくなり直視できない明るさになった。


 そこから〝ボフッ!〟と、一人の女性が現れた。


 それは、俺がさっきまで思い浮かべていた女性勇者イチゴだった。

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