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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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不思議な規則

 入学式から二週間、段々と授業にも慣れてきたある日の朝、今日は珍しく担任であるヴィヴィア先生からの連絡事項があった。普段は授業がない限り教室に来ないので、何も言わずとも全員黙って先生の方を見ている。

「今日は年に一度の流星群の日だ。毎年楽しみにしている生徒も多いだろう」

 全員の視線が集まったと判断するなり、先生はそう言った。この国では、毎年この時期に流星群を見ることができる。この流星群は一年間に国内で使用された魔力が空に溜まったものであり、年に一度、農業が本格始動する前に地上に向けて魔力を降ろすことで田畑を癒し作物の実りをよくするものだ。

「もうそんな時期か……」

「俺は覚えてたぞ」

「最近は疲れて眠るのが早かったから、空の様子なんて見てなかった」

「今日は夜が楽しみだな」

 といった声が教室のあちこちから聞こえてきた。僕も、小さい頃からこの日だけは遅くまで起きて家族と一緒に空を眺めたものだ。余裕があれば今日は空を見るのも悪くないかもしれない。そう思っていると、先生が低い声で言った。

「話は最後まで聞け。今日は流星群の日だが、貴族院で生活する限り、就寝時間を破ることは許されない。遅くまで起きていないで、通常通り眠れ、というのが連絡だ」

「就寝時間って、その時間だと、全く流星群は見えないんじゃ……」

「規則は規則だ。在学中は我慢しろ」

 クラスの男子が先生に言うが、バッサリと斬って捨てられる。貴族院は全ての生徒が寮に入る。寮生活をする以上、最低限の規則は必要だ。そのうちの一つが、就寝時間と起床時間。普段なら気にならない時間に設定されているが、流星群を見ることはできない時間である。

「起きていてもバレないと思っている生徒がいるだろうから言っておく。此方はその位すぐにわかる。規則が何のためにあるのかよく考え、さっさと寝ることだ」

「見回りでもするんですか?」

「一応はする。が、他にもわかる理由はある」

 そう言い残して、先生は教室から出ていった。その後ろ姿を見送りながら、何人かの生徒がなおも不満を口にする。僕としては、確かに今年は見れないことは残念だが、たかが三年のことだ。我慢できないほどのことではない。それよりも、気になることがある。

「何のための規則、か……」

 貴族院の規則は少ない。勿論、寮の施錠時間などは存在するが、ある程度は生徒の自主性に任される。しかし、その中で最も厳しいのが就寝時間の規則だ。何か意味があるのだろうか。

「気になるな……」

「起床時間に関しては、授業に間に合う時間に設定されているだけですからねぇ」

「ミフネ嬢、急に話しかけられると驚くんだが」

「すみません、わたしも気になる内容だったもので」

 そう、起床時間は、食堂を利用して授業に参加するための時間を逆算して設定されている。なので、それより早く起きることは問題視されていない。一方、就寝時間だけはやけに早いのだ。

「わたし、そんなに睡眠時間は必要なくて、どちらかというと本を読みたいんですよね」

「朝起きればいいだろう」

「それにしたって、寝る時間が早過ぎます」

 基本的に、貴族は夜会に参加する。貴族院で設定されている就寝時間は、将来的に夜会に参加することを考えるとあまりに早すぎるともいえる。生徒の将来を考えるなら、今からその時間まで活動することに慣らしていってもいいだろうに。

「健康面以外の理由があると考えた方が良さそうだな」

「ですよねぇ」

 と、なると、原因は別にある。そもそも、規則が作られる理由は大きく分けて二つ。ルールを守らないと何か悪い事が起きるので禁止するために作る場合と、状況をより良くする方法が分かっているので普及させるために作る場合だ。

「何か、悪い事が起きるんでしょうか」

「その可能性は高い」

 年に一度の行事の際にも遵守させるという事は、前者の可能性が高い。そして、あれだけ先生が強く言うということは、かなり面倒なことが起こるのかもしれない。

「上級生に聞いてみます?」

「時間があれば聞いてみよう」

 二、三年生も一年生の時はこの規則に不満を抱いたはずだ。ならば、理由や噂程度のことは教えてくれるかもしれない。時間があれば尋ねてみよう、と頷きあう。

「二人とも、楽しそうに話しているね」

「ですが、そろそろ移動しないと授業に遅れます」

 ミフネ嬢と考えていると、既に授業の教科書とノートを持った殿下とクインテット嬢に声を掛けられた。ハッとして時計を見ると、既に授業開始まで時間があまりなく、他のクラスメイトも殆ど移動しているようだった。

「しまった」

「急ぎます」

 僕とミフネ嬢は大慌てで授業の準備をし、ギリギリ注意されないくらいの速足で廊下を移動した。結局、この日は授業のたびに教師から早く寝るよう促され、上級生に出会うこともなく、僕達は一層この規則の設定理由が気に掛かることになった。


 規則を守って眠った次の日、教室に入ると、クラスの半数の生徒が目の下に濃い隈を作っていた。


次回更新は7月18日17時予定です。

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