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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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不思議な塔

 クインテット嬢と一緒に、ミフネ嬢が描き直してくれた魔法陣に魔力を流していく。すると、魔力が捻れるような感覚がした。今までにない感覚に若干不安になり、ヴィヴィア先生の方を見る。

「ストックデイル、どうした?」

「なんだか、魔力が捻れているような感覚が……」

 言ってから気付く。魔力を流している僕が不安を感じているのなら、クインテット嬢も同様の状態に陥っているのではないか、と。気にかける事なく自分のことだけ考えていたが、大丈夫だろうか。

「クインテット嬢は、大丈夫、ですか?」

「私は問題ありませんが……」

 慌てて確認する。かなりぎこちない聞き方だったが、クインテット嬢は気にならなかったようで簡潔に返事をしてくれた。内心胸を撫で下ろす。

「ですが、モミジ様だけ、ということは、黒魔術の作用でしょうか……」

「恐らく問題はないと思うが、どの辺りだ?」

「手のひらと魔法陣の中間あたりです」

 逆に心配されてしまった。どうしようか迷っていると、先生が捻れを感じた場所を確認してきた。感覚を研ぎ澄ますと、丁度僕と魔法陣の中間の位置で捻れているように感じる。

「書き換えで魔力の流れが変わったから違和感を覚えるのだろう。ランシーは感じないのは、最初の魔法陣に魔力を流していないからだ」

「そうなんですね」

「異常がないようで良かったです」

 このまま捻れが感じられなくなるまで流し続ければ問題ないらしい。暫く待っていると、徐々にすんなりと流れていくようになった。

「あ」

「え?」

「消え、ましたねぇ」

 完全に抵抗がなくなったな、と思った瞬間、魔法陣が強く輝いた。そして、次の瞬間には跡形も無くなっていたのである。

「黒蛇は結構前から消えてたけど……」

「魔法陣が完全に消えましたね」

「テーブルの蝋も残ってません」

 魔法陣は、発動すぐに終了する様に変更したので当然なのだが、蝋もなくなるとは思っていなかった。僕のハンカチも無くなっている。どうせ処分するつもりだったから問題はないけれど。黒魔術に関わったものは全てなくなるようだ。

「……完全に魔法陣が消えたな。黒魔術も解除できている。これで作業終了だ」

「時間使った割にあっさり終わりましたねぇ」

「解説をしたから長引いただけだからな」

 今日のまとめ。黒魔術は手順の逆を行なうことで解除できる。魔法陣は打ち消すこともできるが書き換える方が楽だし使い道がある。思い返してみると確かに、殆どが僕達への解説だった。先生一人で解除するだけならもっと早く解決していただろう。

「本格的な黒魔術なら、魔法陣とは違う場所に媒体が置いてあったり、魔法陣が三つくらいあったり、複雑な手順があったりするから自信がないなら絶対に手を出すな」

「はーい」

「魔導士塔に報告すれば良いのですか?」

「そうだな。専門の奴がいる」

 魔法陣の書き換えができるだけで、ある程度の魔法を使った事件には対応できるようになるだろう、と先生は言った。複雑な黒魔術を使われた場合でも、一つでも魔法陣を解除するだけで機能停止させることはできるそうだ。

「では、後はこの気絶しているナスヴェッター伯爵子息を連行して、尋問ですねぇ」

「動機に、どの程度関与していたか、後は賠償問題ですね」

「僕を通して殿下に危害を加えようとしていた場合は更に罪が重くなるけど……」

 そもそも、黒魔術を使用している時点で重罪だ。僕に大きな被害は出なかったこと、まだ学生であること、詳細な部分は知らなかったことを加味して可能な限り罪を軽く考えても、将来の出世は絶望的だ。貴族籍に入れるかもかなり怪しい。

「残り二人は更に酷いでしょうねぇ」

「貴族になることは不可能。良くて退学、最悪の場合は、魔導士塔による罰が課されますね」

「魔導士塔って謎が多いよね……」

 この魔導士塔による罰、というものは、内容が秘匿されている。魔法が関わる事件を裁くのは魔導士塔だ。一定の基準以下の罪だった場合は王宮の方で裁くが、それ以上だと魔導士塔が独自の罰を与えることになっている。秘匿されている上、執行された人物を見かけた人もいないので、謎の罰となっているのだ。

「先生、ナスヴェッター伯爵子息を運んだ方がいいですか?」

「動かないでください」

 今回の事件に関わった人物の明るくない未来を想像して話が終わったので、子息を運んだ方がいいのかヴィヴィア先生に尋ねる。すると、呆れた調子の先生の声が返ってくるかと思いきや、全く知らない、感情の起伏を感じられない声が返ってきた。振り向くと、黒いローブに身を包んだ人物が隠し部屋の入り口に立っていた。

「……魔導士塔か。予想より早かったな」

「殿下からの通報を受け、調査に派遣されました。担当のタウと申します。今から調査に取り掛かるため、できる限り状態はそのままにしてください」

「お前たちは寮に戻れ。締め出されるぞ」

 そう言って、先生は僕達を隠し部屋から追い出した。空を見ると、既に日は完全に落ち、外は暗くなっている。気になることはあるものの、僕達は慌てて寮へと走ったのだった。


次回更新は9月20日17時予定です。

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