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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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実践の終了

 鐘が鳴り終わった直後、僕の膝は地面に着いた。その様子を見て、教師は少し驚いた表情で僕の方を見ていた。その手には香り袋のようなものが握られている。扇と同じ麻痺毒が入っているものだろう。教師は平気そうなので、耐性があるのか魔法で防いでいるのか。

「……即効性のある麻痺毒なのだが、よく膝をつかなかったな」

「風向きの問題だと思います。風は吹き続けていたので」

 というか、鐘が鳴り始めてすぐに解除するという器用なことができなかっただけともいう。風属性魔法は制御が難しい。一度できた風の流れはすぐには変わらないのだ。今回はそれに助けられた。

「授業を受け持つのが楽しみだ。私は軍術を担当しているレナルドだ。授業に迷ったのなら、私の科目を選ぶといい」

「あ、ありがとうございます」

 褒められたのは素直に嬉しい。選択授業があったら候補として考えてみよう、と思っていると、レナルド先生は杖を取り出して振った。探知魔法で立っている生徒を確認するものらしい。僕はなり終わった直後に膝をついてしまったので、直接魔法を掛けないと脱落したことになってしまうらしい。

「それぞれ、名前と所属を言うように」

「1年Aクラス、セドリック・ヴァルガスです」

「同じく1年Aクラス、モミジ・ストックデイル」

「1年Aクラス、ミフネ・ファラデー」

「1年Aクラス、クインテット・ランシーです」

「あ、1年Aクラス、の、ルイーザ・ベルナールです」

 順に名乗っていく。授業終了時に立っているだけで加点されるが、活躍していた場合は更なる加点が与えられる。僕達は一年生の割には頑張っていたので、加点対象に推薦してくれるらしい。

「ついてきなさい」

 そう言って先生は歩き始めた。この授業、終了後は生徒が全員いることを確認するためにも、一度グラウンドに集合するらしい。

「動けない生徒はどうするんですか?」

「近くの動ける生徒が運ぶことになっている」

 大抵の場合、生徒たちは固まって行動するので集合時には殆どの生徒が揃っているらしい。単独行動となった生徒の多くは教師の移動系の罠に引っ掛かっているだけなので場所の特定も容易だという。

「稀に、罠や教師関係なく、隠れているうちに眠る生徒がいる。そういったことを防ぐために、集合することになっている」

 貴族院に通う生徒は当然貴族ばかりだ。警備体制は万全だが、万が一、誘拐などをされていてはいけないので確認は欠かせないらしい。そんな話を聞きながら歩いていると、グラウンドに到着した。

「え、人の山……?」

「脱落した生徒達だ。順に教師が処置をする」

 動ける生徒はあちらだ、と指示された方向を見る。学年、クラス別に整列しているようだ。ただし、人数は相当減っており、一年生は僕達しか残っていなかった。二、三年生は各クラス五、六人程度だろうか。去年は全滅したらしいので、今年は大健闘といえるそうだ。

「わたしたち、かなり運がよかったみたいですねぇ」

「最初の罠を避けることができたのは幸いでしたね」

 あれは完全に初見殺しの罠だ。一年生は、あの罠を避けられただけで充分評価されるレベルらしい。その後も、時間ギリギリまで見つからずに済んだのは本当に運が良かったとしか言いようがない。

「あ、先生たちが何かしてますよ」

「粉を掛けているのでしょうか」

 話しているうちに、全ての生徒が揃ったらしい。動けない生徒を一か所に集め終わったことを確認した後、その頭上から粉のようなものを振りかけた。麻痺毒を中和する粉だそうだ。ただし、動けるようになるまでは個人差があるため、動けるものから順に解散していいそうだ。

「あまりにも動けそうにないものは、寮まで運んでやれ。以上」

 教師陣は今から加点対象をどうするかの会議があるらしい。僕たち生徒は寮に戻るなり、好きに過ごしていいとのことだ。昨日に引き続き、今日も普通の授業がないことは少し残念だが、こんな状況では内容が頭に入らないだろう。

「どうしましょうか?もう帰りますか?」

 ミフネ嬢が首を傾げながら尋ねた時、ずっと黙っていたベルナール伯爵令嬢があの、と声を上げた。どうかした?と殿下が優しく尋ねる。

「あ、ありがとうございました。私だけでは、残ることはできなかったので……」

「そんなことはないよ。全員が協力した結果、残ることができたのだから」

 そう言うと、ベルナール伯爵令嬢は顔を赤らめつつ、ありがとうございます、と言った。殿下のこういった求心力というか、完成された人格というか、そういった能力は素晴らしいと思う。

「もしも、気が済まないのなら、この貴族院生活で困ることがあったら教えてほしい」

「でも、それだとお礼にならないのでは……」

「王族は在学中、学園をより良くする義務がある。その助けになると思って教えてほしい」

「わ、わかりました……」

 それでは、と綺麗に一礼して、ベルナール伯爵令嬢は去っていった。数週間後、彼女は本当に貴族院内の問題を調べ上げ、僕達に伝えてくれるのであった。


次回更新は7月17日17時予定です。

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