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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
62/200

高価な本棚

 暗い廊下の中を、3度ほど曲がる。先程、三人がいた部屋は宿舎の中で最も入り口から見えにくい部屋だ。

「入り組んでる場所ですねぇ」

「宿舎に泊まるのは貴族ですから、ある程度の安全確保が必要ですから」

「多分、全ての部屋に抜け道があると思うよ」

 詳しくは知らないが、抜け道は探せばあるだろう。実は、寮にも緊急脱出口があったりするのだ。貴族が集まる場所はその辺り面倒だ。

「この部屋ですよね、普通の部屋に見えますけど……」

「流石に、あからさまに何か置いてあるようなことはないでしょう」

「……お二人共、一応気をつけてくださいね」

 すでに中には誰もいないと思うが、念には念を入れるべきだ。入り口はクインテット嬢に見張ってもらい、僕らが中を調べることになった。

「モミジさん、そっちの棚お願いします」

「わかりました、けど……」

 入ってから確信した。この部屋は、宿舎の中でも上位貴族が利用するために作られている部屋だ。一番奥にあるのでそうだろうとは思っていたが、調度品の格が高い。

「どうしました?」

「いえ、この本棚、高級品なので……」

「え、そうなんですか?」

「伯爵家でも用意できるかできないか、レベルの品です」

 まあ、侯爵家ならこのレベルで調度品を揃えていないと舐められるので、ミフネ嬢からすれば見慣れているレベルだろう。クインテット嬢は薄々察していたのか苦笑している。

「まあ、そのことは置いといて、何かないか調べましょう!ね?」

「はいはい」

 自分だけ分かっていなかったのが悔しかったのか、ミフネ嬢が全力で話を逸らした。適当な返事をしながら棚の本を確認していく。基本的に暇を潰せる本や、国教の聖典とかが置いてある。

「特に変な本はないけど……」

「全部確認してくださいよ。一冊だけ無造作に紛れてることもありますから」

「よくあるやつですね……」

 本棚の中に、鍵付きの日記だったり、後ろめたい書類の入った本の形の箱があったりすることは多い。仕方がないので一冊ずつ手に取り、内容を確認する。きちんと製本してある物なのであまり疑っていないが、巧妙な貴族は外装と内容が全く違う本を隠していたりする。

「……ミフネ嬢、一人で全部確認してたら日が暮れる量ありますけど」

「終わったら手伝いますから。こっちは期待できそうにないですし」

 すでに、机やクローゼットは捜索を終えたらしいが、成果はないようだ。僕の方も、本棚を見る限り有名な本ばかりで、あまり期待できそうにはない。装丁も見覚えのある物ばかりだ。

「終わりました〜!!驚くほど何も見つかりません。そっち手伝いますねぇ」

「ありがとうございます」

 溜息をつきながら次の本気手を掛ける。今は僕が5段の本棚の2段目だから、ミフネ嬢と分担するならお互い後2段ずつか。ミフネ嬢は僕と逆の一番下の右側から本を取った。


 がこん。


「「え??」」

 ミフネ嬢が本を手に取った瞬間、本棚から音が鳴った。本を棚の後ろに落とした訳ではない。この音は、仕掛けが発動したような音だ。

「……そういえば、宿舎は大きさの割に部屋数が少なかったですね」

「手前の部屋って結構小さいですよね」

「一代制の貴族の為の部屋だからだろう」

 扉の間隔から考えると、手前側が爵位の低い者に貸す部屋だ。奥に行けば行くほど部屋が広くなり、扉の間隔は開くが、全体の大きさを考えるともう一部屋くらいできる筈だ。

「あ、そうか。一番奥がこの部屋だけど、部屋の広さからして……」

 隠し部屋がある可能性が高い。変な空きスペースのある場所と、本棚が面している壁は一致している。

「特定の本を棚から出すことが条件だったんですかねぇ」

「普通、偶然で開くものじゃないと思うけど……」

 ミフネ嬢の運が恐ろしい。この部屋に外と繋がりそうな隠し扉もなかったので、此処の本棚から行ける部屋に隠れてやり過ごす構造なのだろう。

「スライド式ですかね?」

「……壁に完全につけられていますから、回転式では?」

 どちらかの端を押せば本棚が回転するのではないだろうか、と言えば、ミフネ嬢は徐に右端を押した。すると、くるり、と本棚は回転し、向こう側に空間が広がっていた。

「……行きましょうか」

「クインテット嬢、本棚の前で見張って貰っても?」

「わかりました。お任せください」

 外側にしか鍵がない可能性もある。あまり考えたくないが、僕たち全員が中に入った隙に外から閉じ込められてしまったらどうにも出来ない。

「一応、直ぐには中が見えない構造なんですね……」

「隠し部屋が見つかっても、曲がってきた敵に不意打ちする為だろうけど」

 そう言いながら、ミフネ嬢より先に短い通路に足を踏み入れる。そして、三歩ほど歩いて左側にあるはずの部屋に入ろうとした。

 ごん、と鈍い、何かがぶつかる音が聞こえる。少し遅れて、視界が歪み、暗くなり、頭部に鈍痛が走る。ゆっくりと意識が薄れ、体が傾いていく。

「モミジさん!?」

 ミフネ嬢の叫び声を遠くに聞きながら、意識が無くなった。

次回更新は9月10日17時予定です。

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