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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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自然な会話

 授業前は時間が足りないので、昼休みを利用して犯人候補の10人に当たってみることになった。とはいえ、10人一人ずつ当たっていては時間がかかりすぎる。

「分担した方が良さそうですねぇ」

 という、ミフネ嬢の意見を聞いて、何人かのチームに分けて聞き込みに行くことになった。因みに、僕は狙われている対象なので、一応ミフネ嬢と一緒である。


 昼休み、早めに昼食を済ませてから、二年生の教室へと向かう。廊下を歩き、少しして振り返る。と、ミフネ嬢の姿が見えない。溜息をつきながら曲がり角まで戻ると、何故か窓の外を眺めているようだった。

「何でこのチーム分けに……」

「だって、殿下の安全が第一じゃないですか」

 ベルナール伯爵令嬢は、友人のキッドマン子爵令嬢と一緒に一年生に、そして殿下はクインテット嬢と一緒に三年生に聞き込みに行くことになっている。安全の為、護衛役のクインテット嬢が殿下と一緒なのは分かる。が、僕が言いたいのはそう言う事ではない。

「真面目にしてくれ……」

「真面目ですよ?」

「何処が!?」

 窓の外を眺めて時間を無駄にせず、早く聞き込みに行きたいのだが。真面目と言う言葉の概念が僕とミフネ嬢では違うのかもしれない、と頭を抱えていると、ミフネ嬢は平然とした顔で僕に言った。

「二年生に話を聞きに行くんですから、適当な理由が必要でしょう?」

「外を眺めて理由が浮かぶのか……」

「浮かびましたよ~、任せてください」

 呆れて呟いた言葉に、ミフネ嬢は笑顔で返した。本当なのか疑いつつ、外を眺めるが青空と雲が見えるだけである。此処から、どうやって自然に話を振るのか全く想像がつかない。取り敢えず、本人が任せろと言っているので任せることにしよう。

「そういえば、一人で聞き込みに行くのは難しいとはいえ、事情を知っている人を増やして良いのか……?」

「キッドマン子爵令嬢のことですか?」

「そう。ヴィヴィア先生が許可するとは考え難い」

「いえ、結構簡単に許可を出してくれたみたいです」

 一人での調査の際に、不測の事態が起こってはいけないので、基本的に二人以上で行動するように先生に言われている。初めは、令嬢は僕達が殿下達のチームに入って貰おうと思ったのだが、効率が落ちること、協力してくれる人材がいるという事で任せることになったのだ。

「ルイーザさんのお友達ですし、詳細は伝えないとのことですよ」

「詳細を伝えずにって……」

「あくまでも、黒魔術の噂の調査、という名目で協力を頼んだらしいです」

 ヴィヴィア先生から頼まれた極秘の調査と伝えているので、他言することもないということだ。また、言い方が悪いが子爵家出身とは思えないほど成績は良く、素行もいい優等生という事だ。

「先生の見る目は確かでしょうから、多分大丈夫ですよ」

「別に、その辺りを疑っては……」

「ほら、時間ないですから早く行きましょう」

 疑ってはいない、と言おうとした時には既にミフネ嬢の姿はなく、二年生の教室の方へと歩いていた。誰のせいで時間が無いと思っているんだ、という言葉は何とか飲み込んで、付いて行く。

「あ、あの人でしたっけ?」

 二年生教室がある廊下まで来て、確か、目的の人物であるバラク伯爵子息は専門政治学を取っているクラスだったな、と教室の中を覗く。すると、廊下の方を見ていたミフネ嬢がある方向を指して僕に尋ねた。

「……年の近い貴族子女の名前は覚えた方がいいですよ、ミフネ嬢」

「でも、三男でしょう?中々会う機会ないじゃないですか」

「血筋による身体的特徴を覚えておけば、後は歳で特定できるでしょう」

 ミフネ嬢が示した人物の方に視線を遣りながら、僕はミフネ嬢に言った。人の顔と名前が覚えられないと貴族は務まらないからだ。特に、ミフネ嬢は婚約者候補なのだから、国内外の人物を覚える必要があるだろうに。

「で、結局、正解なんですか?」

「髪と目の色、顔つきから確実にバラク伯爵家の子息で合ってる」

「合ってるならいいじゃないですか」

「今は貴族院だから候補が絞れても、実際の夜会で判断するのは難しいですよ」

 そんなことを言いながら、子息の様子を伺う。大分時間が早いが、移動教室へ向かおうとしているのか、筆記用具などを持って真っ直ぐに歩いている。

「よし、行きましょう」

「わかった」

 教室に入られると話しかけ難い。廊下にいる間に声を掛けよう、とミフネ嬢と頷きあう。暫く後ろをついていき、廊下に人が少なくなってきたところで、隣にいたミフネ嬢が急に走り出した。

「あの、これ、落とされませんでしたか?」

「え?」

 ミフネ嬢は、何故か僕のペンを子息に差し出して言った。いつの間に取られたのだろう。全く気付かなかった。咄嗟に僕も行こうとしたが、来るな、とハンドサインをされる。

「先程の曲がり角に落ちていたので貴方のものだと思ったのですが……」

「いや、違うけれど……」

「そうですか、すみません。あの……」

 そして、ミフネ嬢はにっこりと笑顔を浮かべた。


次回更新9月2日17時予定です。

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