表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
44/200

深緑の髪

 実践魔法の団体戦、とはいえ、一年生はようやく得意魔法が扱えるようになり始めたばかりだ。そんな状況で、味方を巻き込まず魔法を正確に扱うのは難しい。

「……一回戦、ほとんど何もしませんでしたねぇ」

「半分は向こうの自滅でしたね」

「大規模な魔法を使って味方もろとも吹き飛びましたね」

 団体戦では、全員が危険を感知して安全圏まで移動させるブローチを付けた上で行い、ブローチが起動したらその人物は脱落だ。リーダーの脱落でチーム全体が敗北となる。

「個人戦とは違い、味方の動きを見た上で魔法をコントロールする重要性に気付かされますね」

「それが今回の目的だろう」

「個人戦では発動までの速さ、団体戦ではコントロールを意識させるのですね」

 基礎練習や理論ばかりでは、魔法の授業がつまらないと感じて真面目に取り組まない者が出る。それを防ぐ為に一年の最初に模擬試合をし、自身の課題を見つけさせることでモチベーションを維持させる取り組みなのだろう。

「この試合も、安全装置のブローチが無ければできませんからね」

「魔法は危険なもの、という意識を植え付ける意味もあるのでしょうね」

 僕達は危なげなく勝ち進んだものの、脱落した生徒からすれば目の前に襲い掛かってくる魔法は恐ろしかっただろう。

「……仕方ありませんが、AクラスとBクラスで魔法制御能力の差が目立ちますね」

「高位貴族なら、幼少期に魔法として発動していなくても、魔力のコントロールは習っているだろうから……」

「そもそもの経験値の差が出ますねぇ」

「魔力量自体も違うから、基本的に子爵、男爵家は不利。その差を授業ではどう扱うのか……」

 残りの三試合を眺めつつ、授業の意義について話しているとベルナール伯爵令嬢が話についてこれず、戸惑っていることに気付いた。

「ベルナール嬢、先程の試合で気になった事はあったかな?」

「あ、はい。終盤、向こうのチームの連携が取れていたように感じました……」

「確かに、最後の一斉攻撃は見事でしたね」

 令嬢曰く、僕達に魔力とコントロールで勝てないと判断してからは、相手は連携攻撃を仕掛けてきたように感じた、ということだ。

「チームワークも試されているのかもしれないね」

「ヴィヴィア先生は模擬試合を行う、とは言われましたが、勝者を評価するとは仰っていませんからね」

「あんまり気が抜けませんねぇ……」

 話していると、いつの間にか試合は進んで、次は二回戦をすることになった。僕達の相手はAB混合の男子チーム。先程、素早い攻撃を繰り出していたチームだ。

「そろそろ作戦を練りますか?」

「負けるわけにはいきませんからねぇ」

「そうですね。攻撃は私とモミジ様。他は防御で如何でしょうか?」

「シンプル過ぎませんか?」

「複雑だと咄嗟の判断が出来ませんから」

 確かに、魔法に意識が向けられている最中に他の事を考えるのは難しい。戸惑っているうちに脱落しない為にも、簡単な作戦がいいだろう。

「では、緑チーム戦、張り切っていきましょう!」

 ミフネ嬢の気合いが入るのか入らないのかわからない掛け声を合図に、フィールドに入る。両チーム並んで、試合始めの合図を待っていると、

「……僕、睨まれてる?」

「え?」

 向かい側の列、一番端にいる濃い緑色の髪の男子生徒に睨まれていた。見覚えのない顔なので、面識はないはずだ。なぜ睨まれているのだろうか。

「……本当ですねぇ、あの緑頭の人、リーダーですよね。Bクラスですけど」

「AB合同チームだからといって、Aクラスがリーダーにならないといけない訳ではないと思うけど」

 単純に、爵位が一番高い人物をリーダーにすることが多いので、高位貴族が多いAクラスの方がリーダーになりやすいだけだ。

「モミジさん、試合始まりますよ〜」

「わかった」

 と、なると、僕を睨んでいる人物は向こうのチームで一番爵位が高いということになる。が、彼方のチームには同じクラスの伯爵かの生徒もいる。なので、彼は最低でも伯爵家以上ということになるのだが。

「始め!」

 伯爵家以上なら、長男は顔と名前を一致させている。なら、彼は次男以降。一口に伯爵家と言っても侯爵家に近い辺境伯爵家から、小さな領地を持っているだけの子爵家に近い家もある。

「深い緑色の髪……、面識はないけど、隣のナスヴェッター伯爵領の四男かな」

 風魔法を相手側に放ちつつ、リーダーの見た目と年齢から判断する。うちの領と違って交易路上にあるので、関税と宿場町で栄えている領だ。

「なんか、僕が狙われてる気が……」

「モミジさん!巻き込まれるので離れてください!」

 相手のチームは、何故か僕に一斉攻撃を仕掛けてきた。風で逸らしにくい、氷の弾が襲いかかってくる。

「なんで!?」

 理由はわからないが、殿下からできる限り離れなくては。そう思い、一人だけ外れた方向に走り出した瞬間、しゅるり、という音が聞こえ、急に体が重くなった。

「え?」

 見ると、黒い紐のようなものが、僕の足に絡み付いていた。

次回更新は8月23日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ