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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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金の懐中時計

 倉庫から脱出した後、僕達は教職員棟から遠い場所に移動することにした。幸い、倉庫の周りは木や草が多かったため、倉庫を開けた教師に見つかることなく入学式のあった会場に辿り着いた。

「……入りますか?」

 昨日の見た限り、この会場は中央のホールが広いが、控室や二階への階段があったりと逃げ隠れするにはちょうどいい造りだ。中で見つかっても一人が囮になればその間に他の三人が逃げ切れる可能性は高い。

「中に上級生がいるかもしれない。できる限り協力した方がいいだろうね」

「人数が多ければ、先生に対抗できるかもしれませんからねぇ」

「中に時計があればいいのですが……」

 取り敢えず、中に入ることは決定した。体力を温存や教師の位置を考える為にも、時計は見た方がいいだろう。確か、控室の方には時計が設置されていたはずだ。まずは其処で休憩することにする。

「……だれかいますか?」

「誰もいませんねぇ」

 ミフネ嬢と二人、顔だけ中に入って様子を伺う。物陰などを注意深く見るが、特に教師が潜んでいる気配もない。ゆっくりと中に入る。

「施錠はしない方が良さそうですね」

「先程とは状況も違う。他の生徒との合流を考えるなら、開けておいた方が良さそうだ」

 僕達と違って、上級生はある程度この授業での立ち回り方と言うものを理解しているだろう。その上級生の姿が見えないという事は、不利な状況に向かっているのではないかと少し不安になる。

「本当に、早く誰かと合流できたらいいですけど」

「時間が経てばたつほど、教師の位置は分からなくなります。動くなら早めに行動しなくては」

「時間によっては、下手に外に出ない方がいいですよねぇ」

 控室の方へと歩きながら、相談する。教師の数は正確に把握していないが、最初に見つかりかけたハーバー先生とコレイン先生はグラウンドから倉庫の方へ行き、その付近を捜索していたはず。そして、ヴィヴィア先生は開始の合図をしたときはグラウンドにいたが、レナルド先生はわからない。

「昨日の入学式で見た先生の数より少なかったので、グラウンド以外からスタートの先生もいるはずです」

「一人くらいは教職員棟からスタートがいると考えても良いでしょうね」

「あ、時計ありました」

 控室に入ってすぐの場所に、時計はかかっていた。現在は、授業開始から二十分。倉庫にいた時間が長かったか、そこからの移動に時間がかかったのか。予想以上に時間が経っていた。時間を見ると急に疲れが押し寄せてきて、四人で部屋の中央にある椅子に腰かけた。

「残り三分の二ですか……」

「積極的に行動するには微妙な時間ですねぇ」

 この場所は、入学式の会場に選ばれるだけあってそれなりに分かりやすい場所にある。つまり、外に出れば見晴らしがいい。此方も教師を見つけやすいが、当然見つかりやすくなる。

「グラウンド付近から捜索されることが分かっているなら、生徒は移動しますよね」

「教師も分かっているだろうから、誰かが反対側から捜索位はしそうだ」

「単純に、数だけなら教師の方が少ないですからねぇ」

 この学園にいる生徒は、一クラスが20人前後。三学年二クラスずつあるので、全体で生徒の数は約120人。で、一年生の半分以上は脱落しているので、グラウンドから走って出たのは100人より少ないだろう。

 一方、教師は最低でも各クラスの担任と、昨日は挨拶が無かったが副担任がいるはずなので最低でも12人。専門教科の先生がいるとして、多く見積もって20人くらいか。

「敷地が広いですし、5対1と考えると、一時間なら逃げ切れる気もするんですけどねぇ」

「確かに、担当区域を割り振っているなら、一度隠れてやり過ごせば発見率は大幅に下がりそうです」

「見通しの良い所は見つかりやすいと言っても、学園ですし、教室ばっかりですよね」

 正直、隠れる場所の方が多いのだ。教師が順番に隠れ場所を捜索しに来たとしても、窓から移動し、その建物から出ていったあと、再び戻れば見つかる可能性は低い。だが、最初の教師の口ぶりからして、毎年かなりの生徒が教師に見つかっている。

「何か仕掛けられているのでは?」

「その可能性は大いにあるけれど、罠にかかるのは精々一人ずつだ」

「居場所を知らせるようなものでないなら、その罠さえ解除すれば大丈夫ですよね」

「複数人なら、罠を解除できる可能性もある。その辺り、どうなんだろう」

 例えば、粘着上の床で足を取られて転び、その後立てなくなったとしても。一人が引っ掛かれば後続の人は避けれるだろうし、協力すれば助けることもできるだろう。一方で、居場所を知らせるような罠だったとしても、居場所が判明してから到着まで時間はあるだろうし、複数人なら散って逃げることができる。

「話し込んでるうちに、残り半分ですねぇ」

「……ミフネ嬢、今、どうやって時間を見ました?」

 今、僕達は低い机を挟んで二人ずつ向かい合って座っている。そして、壁掛け時計があるのは、僕と殿下が見ている壁の方。ミフネ嬢からは時計は見えないはずなのだ。

「え、机に、懐中時計があったので……」

 そう言って、ミフネ嬢は金色の懐中時計を僕達に見せた。次の瞬間、懐中時計の蓋の裏に刻まれていた模様が光り始め、僕達の視界は真っ白になった。


次回更新は7月14日17時予定です。

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