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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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浪漫の定義

 状況を整理しよう。この階段は、お互い好意を持っている男女が仲を深めるきっかけになりたいと思い、ちょっとしたハプニング、という事で落下事故を起こしていた。その為、男女同士の仲が深まるのなら、方法は透明な段を出現させること以外でもいい、という事だ。

「とはいえ、僕はそんなに恋愛に詳しくはないんだけど……」

「……残念ながら、私もあまりお役には立てないかと」

 そのための代替案を考えなくてはいけないのだが、僕は恋愛ごとに興味はあまりない。クインテット嬢も、本を読むよりは武芸の稽古に打ち込むタイプなので詳しくはない。ヴィヴィア先生は、何も言わないので取り敢えず触れないことにしておこう。

「まず、手当たり次第に罠に掛けるのではなく、相手を観察して、ある程度確信を持ってから二人にハプニングを起こした方がいいと思います」

「その理由は?」

「お互い、周囲から見ても好意を持っているもの同士だけにハプニングが起きる、という噂がたてば、信憑性が増しますからねぇ」

 無差別に相手を選んでいては、僕とミフネ嬢の様にお互いに全く恋愛感情がない人同士も事故にあう。が、お互い好意を持っているもの同士しか事故にあわないという噂が立つことで、事故にあったという事は、両想いだという事を意識させる作戦らしい。

「そんな仕掛けで効果があるんですか?」

「こういう場合、何より大切なのは自覚だから、効果はあると思うよ」

「そうですか……」

 僕にはよくわからないが、階段と殿下はミフネ嬢の提案に賛同しているので、恐らく効果はあるのだろう。まあ、階段さえ納得してくれれば、事故自体は解決するので問題はない。

「後は、どのようなハプニングを起こすか、です。怪我の可能性があるもの、精神的、肉体的負担が高いものは、お互いが顔を合わせられなくなる原因にもなるので避けたいところですねぇ」

「怪我をしなくても、トラウマになれば、思い出さないために顔を合わせなくなる、という事ですか?」

「はい」

 それは納得がいく。もし、無事だったとしても、階段の一番上から落下するというのはかなり怖い。恐怖から階段を利用できなくなるかもしれないし、原因ではなくても、相手を避ける可能性は十分考えられる。

「と、いうことで、できる限りロマンチックで、危なくない方法を考えましょう」

「ロマンチック、の定義にもよりますけれど……」

「取り敢えず、現実の出来事と思えないほど情緒的で甘美な様、ということか……」

「モミジ、それは多分、辞書の定義だよね……」

 クインテット嬢が定義について疑問を持っていたようなので、答えただけなのだが、何故か殿下に苦笑された。確かに、ロマンチック、浪漫的という言葉を説明しているのに、情緒的という言葉を使っているのでわかりにくかったかもしれない。反省しよう。

「階段で起こるロマンチックな事……、先生、何かありますか?」

「ファラデー、普通は発案者から発表すると思うが?」

「まあ、いいじゃないですか」

 ヴィヴィア先生は眉間に皺を寄せて暫く考えた後、階段とは限らないが、偶然顔を合わせれば運命的だと感じることがあるだろう、と答えた。何でも、知り合いの女性が運命的な出会いを演出するために、偶然を装って遭遇する、という事を行っていたらしい。

「結構良さそうですねぇ、次、クインテットさん」

「私ですか……。そうですね、階段で振り向いた時に、丁度目線が同じ、というのはどうでしょう」

「普段は、目線が同じになることは中々ないですからねぇ、良いと思います」

 貴族院に在学しているのは十六歳から十八歳の貴族子女だ。男女の体格差は顕著になっており、ミフネ嬢の言う通り、目線が同じとなることは中々無いだろう。僕達だって、側近候補に選ばれたばかりの頃はミフネ嬢とクインテット嬢の方が背が高かったが、今は僕と殿下の方が高い。

「次、モミジさん」

「……階段限定でもないですけど、落とし物を取ってもらう時に手が当たる、とか」

「モミジさんにしては良い案ですね」

「喧嘩なら言い値で買いますが?」

 確かに、僕がこの手の話で役に立つとは思わないが、流石に馬鹿にし過ぎだろう。一応喧嘩を買う意思を示しておいたが、ミフネ嬢は全く気にする様子がなく、殿下の方を見た。

「殿下のお考えは如何ですか?」

「そうだね、今迄の意見と重複するけれど、女性が落ち込んでいる時に、偶然階段で出会って励ます、とかはどうだろう」

「良いと思います。階段さん、どうですか?こんな感じで纏めようと思うんですけど」

 階段がぐらり、と揺れる。この方針で進めていって良いらしい。とはいえ、意見を纏めつつ、取捨選択して効果的な状況を作り上げる、となると中々に難しい。

「あ、思いつきました。女性が泣いたり、悩みながら上っている時、後ろから男性が来た場合に、二人の間に音を立てて、女性が振り向いた瞬間目が合う、って感じでどうでしょうか」

 階段は一度大きく揺れ、僕の意見以外を採用した作戦が決定したのであった。


次回更新は8月16日17時予定です。

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