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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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これは事故

 交互に実験するためのルールは単純。僕が階段を上り、完全に下りたら次はミフネ嬢が階段を上る。安全の為、相手がきちんと一番下の段まで下りたことを確認するまで、次の実験を始めてはいけない。

「朝はミフネ嬢が実験したので、僕からでいいですか?」

「……ええ、いいですよ」

 いいとは思っていないけど、これ以上何か言って自分の実験を取り消されたら嫌なので仕方がない、といった返事である。

「モミジ様、最初の条件はどうされますか?」

「朝のミフネ嬢と同じで、取り敢えず『僕が、夕方、一人で』階段を利用します」

「わたしも、時間帯別はできてなかったので、『わたし、夕方、一人』からやります」

「二人とも、十分気を付けて。何かおかしいと思ったらすぐに声を上げるように」

 記録係のクインテット嬢に条件を伝えると、すぐに実験欄を開いて場所を確認してくれた。クインテット嬢の準備完了の合図があったので、階段を上ろうとした時、殿下が心配そうに言った。

「わかりました。では、今から上ります」

「一応、落ちたら水で受け止めてあげますねぇ」

 できる限りゆっくり階段を上りたいところだが、遅すぎて文句を言われても面倒なので慎重に、一歩ずつ上っている様に見えるギリギリの速度で階段を上り始める。一段、二段、三段、と、一定の速度で上っていく。十、十一、十二。何事もなく、上の階までたどり着いた。

「大丈夫でした」

「じゃあ、下りてきたら交代ですねぇ」

 ヴィヴィア先生から貰った資料を読む限り、落下事故が起きる時間帯はバラバラだったため、予想通りの結果と言える。一応、女性であるミフネ嬢が実験するときは気を付けているものの、この条件で落ちることはまずないだろう。

「いきますよ~」

 下の階に到着すると、嬉々としてミフネ嬢が階段を上り始める。今朝同様、少し跳ねるように上るため、歩いてくださいね、と念押しすると急に動きはゆっくりになった。やり直していては予定の実験に辿り着かないと思ったのだろう。

「九、十、十一、十二。大丈夫ですねぇ」

「今日は忙しかったので昼休みに実験は出来ませんでしたが……、時間帯は条件に関係ないのかもしれませんね」

「一応、他の条件と組み合わせて実験は続けるとして、関係のない可能性は高い」

「先生の資料通りだね」

 まだ、昼と夜を試していないので、確定ではないが、可能性は極めて低いだろう。では、次の条件を試そうという事で、僕は下の階に置いておいた鞄から、一冊の本を取り出した。

「モミジさん、それは?」

「僕とミフネ嬢が図書館に向かっていた際に、僕は本を持っていました。本を持っている人間が階段にいることが条件の可能性があります」

「資料の生徒は、殆どが移動教室前に落下しているから、教科書を持っていた可能性は高いね」

「では、次の条件は『夕方、一人、本を所持』ですね?」

「はい」

 因みに、本はもしも落下してもできる限りダメージを軽減するために、周りをベルトで固定してページが開かないようにしている。また、角の部分もベルトでカバーしているので、簡単には傷がつかないはずだ。

「行きます」

 僕が階段を上る音だけが響く。会話をしている、というのも条件に挙げている為、実験中は基本的に無言で上ることにしているのだ。とん、とん、と自分の足音だけが周囲に響く状況は不気味だったものの、何事も起こらず上の階に辿り着いた。

「……大丈夫ですね」

「今のところ、全く条件が分かりませんねぇ。実験なんて、回数やってなんぼなので、あまり期待していませんでしたが」

「年に数回しか事故が起こっていないということは、条件はかなり限定的なのでしょうね」

「とはいえ、気を抜いて怪我をしてはいけないから、十分注意するように」

 先程とは違い、足早に階段を下りる。下まで降りて、ミフネ嬢に本を渡すと、すぐに階段を上り始める。さて、次はどの条件で実験しようか。ミフネ嬢の方を見ながら、そんなことを考えたのだった。


 本の所持、独り言を言いながら、上の階にいる人と会話しながら、下の階にいる人と会話しながら、最上段で振り返る。これらすべての条件を一つずつ試して言ったものの、僕とミフネ嬢が転ぶことはなかった。

「最上段で振り返る、はかなりいい線いってると思ったんですけどねぇ」

「そもそも、階段で足元を見ていない時点で転びやすいからね」

 此処まで実験して、何も起こっていないという事は、一人で階段を上っている時には条件を満たしていない可能性が高い。殿下の護衛の問題があるので、今日はクインテット嬢は実験に参加できない。僕とミフネ嬢の二人、つまり、男女二人で上っている時、という条件で実験を始めた。

「僕が先行した場合、どの条件でも転ぶことはない、と」

「次は私ですねぇ」

 やはり、男子は転ばない確率が高そうだ。ミフネ嬢が先に上り、適度に会話をする。すると、最上段に差し掛かったその時、ミフネ嬢のが、確かに、何もない筈の空間に躓いた。


次回更新は8月11日17時予定です。

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