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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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互いの妥協

 ミフネ嬢は、効率的な実験を行うために、ヴィヴィア先生に過去の落下事故の記録を見せるように要求した。自分が事情聴取を受けたのだから、過去の事故も事情聴取の記録が残っている筈だ、と言えば先生も誤魔化すことができなかったのか、放課後までに閲覧してもいい部分だけ抜き出した資料をくれると約束してくれた。

「ヴィヴィア先生が協力してくれるなんて、ラッキーですねぇ」

「そして、仕事が早い……」

「放置している方が危険と判断して、最優先で資料を作ってくださったのでしょうね……」

 ミフネ嬢だけに情報を渡すのは危険と判断したのか、先生は僕達全員分の資料を作ってくれていた。渡された時に、この資料を見て、しっかり話し合って実験し、何かあればすぐに相談するように、と言われた。

「先生、職員会議が無ければ、実験を監視する予定だったのでしょうね……」

「今日中に解決しなかったら、明日からは実験の時に呼べ、と仰っていたからな」

 先生から貰った資料を基に、行う予定だった実験を幾つか減らしたものの、全ての実験を行うには時間がかかる。今日だけで終わることはないだろう。最初に、男子である僕が階段を利用する実験からやっていけば、何も起こらずに今日の実験が終了する時間になる予定だ。

「ミフネ嬢、前例では落下した生徒は女子だけという事ですが、本当か調べる為に、まずは僕から実験を……」

 今日さえ乗り切れば、先生の監督の元、安全に実験ができる。先生がいるなら、もし階段から落ちたとしても魔法で助けてくれるだろう。そう思って提案したのだが、ミフネ嬢は首を縦には振らなかった。

「……今日は、わたしから実験をしましょう」

「何故ですか?」

 クインテット嬢が尋ねると、ミフネ嬢は真剣な表情で資料を指さした。見ると、過去の事例の、周囲の状況の欄を指している。そして、僕達の目を真っ直ぐに見て言った。

「明日からは先生が一緒に実験を行いますよねぇ?資料を見る限り、全ての事故は周囲に教職員がいない状況で起こっています。真相を探るのなら、教師がいないという条件も視野に入れるべきです」

 確かに、書類を確認すると、今迄の事件では教職員が周りにいないときに落下事故が起こっている。僕達の時も、生徒が騒ぐまで教職員は誰も気付いていなかったはずだ。つまり、事故の発生条件として、周囲一定距離以内に教師がいないことが候補として挙げられるのは自然だ。

「……成程、一理ありますね」

「でしょう?なので、今日は朝に引き続き、わたしが主体に実験を……」

「で、本音は?」

「先生がいるとちょっとした思いつきとかは試しにくいので、今日の内に思いつくだけやっておきたいですねぇ」

 僕はため息をつき、クインテット嬢は額に手を当てた。殿下は苦笑している。僕達の反応を見て、口を滑らせたことに気が付いたのか、ミフネ嬢が慌てて口元を覆った。

「……冗談ですよ?」

「本音ですよね」

「……さっきの理由は、わたしが実験をする口実にはなりませんか?」

 誤魔化そうとするミフネ嬢の退路を塞ぐと、開き直って先程の言い訳の正当性を主張してきた。確かに、あの意見は一理あるし、全ての実験を先生の監督の元行っても結果が出なかった場合は、取り組むべきとは思う。

「間違ってはないですよね?今日中に試した方がいいと思いませんか?」

「……一理ありますけど、前回みたいに得体のしれないものと戦うことになったらどうするんですか?」

「それは……、何とか、戦って勝てばいいじゃないですか」

 ボガートとの戦いが意外と激しいものになったことは反省していたのか、ミフネ嬢が少し言葉を詰まらせた。しかし、その反省は今回の好奇心を押さえるほどのものではなく、なおも食い下がって実験の必要性を説く。

「今回は相手の弱点も分かっていないんですよ?殿下に何かあったらどうするんです?」

「条件を調べているうちに、相手がこんなことをする理由が分かるかもしれないじゃないですか。そしたら根本的な解決だってできます」

「わからない可能性もあるでしょう。殿下の安全が第一です」

「放置しているうちに殿下が被害にあったらどうするんですか」

 暫くミフネ嬢と言い合いをしていると、埒が明かないと判断したのか、クインテット嬢が待ったをかけた。僕とミフネ嬢は一度口を閉じてクインテット嬢の方を見る。すると、こほん、と一つ咳ばらいをして、クインテット嬢は言った。

「今日は、二人が交互に階段を上って実験を行うという事で如何でしょうか?」

 ミフネ嬢は退く気がない。で、僕は危険な実験を遅らせたい。ならば、交互に実験をすることで、ミフネ嬢は実験を全くできないという事態は回避できるし、僕が警戒しているような事態が発生する可能性も下がるのではないか、という事だった。

「殿下は、私がお守りしているので」

 そして、巻き込まれない様にクインテット嬢と殿下は一つ上の階で待機しておき、下の階からは僕達が交互に観察する。僕とミフネ嬢は暫く考えた後、渋々頷いたのだった。


次回更新は8月10日17時予定です。

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