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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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黒い霧

 扉が開くと、先程より明らかに暗くなっている廊下が見える。日が落ちる直前、赤紫色の空が不気味に光っている。ごくり、と誰かが喉を鳴らした。足元を冷たいような、生暖かいような風が通る。

「……待ってました、と言わんばかりの歓迎ぶりですねぇ」

「殿下、ベルナール伯爵令嬢、予定通り移動してください」

 僕達に対する敵意に満ちている状況に、ミフネ嬢がのんびりとした声で言う。が、その目はしっかりと廊下の方を見ている。作戦は単純。追い込み漁の様に、図書館奥の狭い場所にボガートを追い込み、一斉攻撃を仕掛ける。

「ああ、行こう。手を」

「は、はい」

 殿下が令嬢の手を取って、図書館奥、職員の為のスペースに移動していく。一緒に行動する理由は、二人分のバーチがあった方が安全だから。そして、最後に追い込む予定の場所にいてもらうことで、バーチの在庫によっては一斉攻撃の時に参加してもらうためだ。

「じゃあ、クインテットさん、準備はいいですか?」

「ええ、私は何時でも」

 追い込むまでは、基本的にミフネ嬢とクインテット嬢が中心となって動く。僕が使うのは弓なので、矢の消費を抑えるためだ。ただ、クインテット嬢に比べてミフネ嬢は隙ができてしまうので、その辺りのカバーをする予定だ。

「……僕は中央付近で待機しておくから」

「はい。何かあったらお願いします」

 図書館の中央、机の上に矢を置く。できる限り遮蔽物がない場所に待機する。僕が矢をつがえた瞬間、黒い霧のようなものが図書館に入ってきた。

「……こういうのを、ホラー展開、っていうんですよねぇ。本で読みました」

「ああ、フタバ様のお勧めシリーズですね……」

「話してないで、目の前に集中!!」

 側近候補の一人、一つ年下の読書家はジャンル問わず面白い本を仲間に勧めてくる。僕もそのホラー小説は読んだ。今の僕達と似たような状況で、主人公たちが協力して悪霊から逃げる話だ。最終的には全員生還するのだが、途中、一瞬気を抜いた隙に仲間が負傷する。

「というか、図鑑で見た時はボロボロの服を着た何か、って感じだったんですけどねぇ」

「完全に黒い霧にしか見えませんね」

 言いながら、ミフネ嬢が紐を振り、勢いをつけて霧に向かって木片を投げつける。結構いいコントロールだ。しかし、動きが分かりやすかったからか、霧は簡単に木片を避けた。

「あ、避けられましたね」

「でも、避けるという事は効果がありそうですねぇ」

「これで効果が無かったら僕達は下手すると全滅だよ」

 まあ、悪戯をするだけの筈のボガートが生命に関わるような攻撃をしてくるかはわからないが、此方側が危害を加える気しかないので向こうも本気で来る可能性は高い。現に、霧は木片を投げたミフネ嬢を威嚇するかのように、オオカミのような形になって牙をむきだしている。

「……霧は形が変えられるみたいですね」

「物理攻撃が通るか不安ですねぇ」

 今度はクインテット嬢が、オオカミの額部分をめがけて斬りかかる。すると、霧は切っ先を避けながら形を変え、今度は蛇のような形になった。避けられたとはいえ、今度はかなりギリギリだった。

「モミジ様!!額部分を狙ってください!!」

 クインテット嬢が突然声を上げた。何故、と聞き返すより前に、弓を弾き絞る。ボガートはミフネ嬢とクインテット嬢を警戒しているようで、僕の方に意識は向いていない。落ち着いて、しかし素早く狙いを定め、矢を放つ。

「ガッ」

 ほぼ直線に近い放物線の軌道を描き、矢が額に命中した。距離が短いので威力があまり殺されることもなく飛んだ矢が当たった瞬間、ピシ、という甲高い音と共にボガートから短いうめき声が上がった。

「……今、硬いものに当たった音がしましたよねぇ」

「先程、形が変わった際に、黒い球体のようなものが額にあるのが見えました。恐らく核のような部分なのでしょう」

「成程、そこを狙って行けばいい訳ですねぇ。モミジさん、ナイスです」

 ミフネ嬢が僕に向かって親指を立てた。が、その後ろ、ボガートが霧のような形から黒い襤褸のローブを纏った、背の高い人間のような姿に変わった。本来はこんな形なのだろう。そして、フードで顔は見えないはずだが、恨めしそうな赤色の光が真っ直ぐ僕の方を向いている。

「っ呑気に言ってないで、早く移動!!どう見ても、僕を狙ってる!!」

 足は地面に着いていないようで、前衛二人の間をすり抜けるように僕の方に飛んでくる。最初に攻撃が当たったから仕方がないとはいえ、僕は近距離戦闘ができない。置いていた矢を慌てて掴み、図書館の奥の方に走って逃げる。

「適当なところでルイーザさんに囮になって貰うつもりでしたけど、必要なさそうですねぇ」

「ですが、早く援護しないとモミジ様は近距離での対抗手段がありません」

 足音はしない筈なのに、背後から段々とボガートが近づいてきているのが分かる。ダメもとで矢をつがえ、振り向いた瞬間。ボガートの、黒く鋭い、爪のようなものが目前に迫っていた。


次回更新は8月1日17時予定です。

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