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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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図書館の備品

 予想以上に物理的な解決方法に、僕達は目を丸くした。幾らバーチが効果的とはいえ、実体があるか微妙な相手に直接投げつけて追い払う事は出来るのだろうか。

「ありとあらゆる場所に吊るしたり、いぶしたりする訳ではなく?」

「投げつけます」

「お守りにするのでもなく?」

「追い払います」

 どうやら本気のようだ。今回はミフネ嬢の勘を信じて協力すると決めた手前、今からやっぱりやめよう、とは言えない。僕はその場で大きく息を吸い、長く溜息を吐いた。

「……で、具体的に、どうやって投げつける?」

「そうですねぇ、モミジさんやクインテットさんは投げる威力が十分でしょうけど、わたしはあんまり速く投げられないんですよねぇ」

「僕達も、あまりに軽すぎるものは投げるのが難しい」

「……何か、道具を使った方がいいですね」

 駄目だったらその時に考えるとして、今はこの作戦を全力で行おう。そう決意しなおして具体的な方法を尋ねる。投げつけるのは良いが、大きめの枝以外は、軽すぎて上手く投げられないのだ。

「それに、バーチの数に限りもある。一度で効果が失われないなら、拾ってもう一度投げた方がいい」

「小さいものは拾う方が手間ですよねぇ、大きいものだけでも、再利用を……」

「小さくても、持ちやすければ拾いやすいですが……」

 貰って来たバーチは、殆どが香り袋に使われているものだ。なので、細かい、小指の先程の大きさの木片が多い。大きいものでも、燃やして使うものだったりするので細めの木の枝、といった程度の大きさだ。量も無限にあるわけではないし、工夫が必要だろう。

「……モミジは、確か、弓がある程度扱えるだろう?」

「はい、嗜み程度に」

 どうしようか、と考えていると、急に殿下に弓の扱いを聞かれた。側近候補は、有事の際の為に最低一つは対抗手段を持っておくように、ということで魔法以外に、一つは武器が扱えるように学んでいる。剣は殿下が扱える上、僕は得意な風魔法との相性もいいので弓を選んだ。

「小さなものを、弓の先に刺しておくのはどうだろう」

「それなら、手で投げるより早い速度でぶつけることができますね」

「それに、小さい木片を拾うより、矢を拾うほうが格段に楽ですねぇ」

 準備に少々時間がかかるが、確かに後々楽になるだろう。早速、弓と矢を取って来ようか、と思っていると、ベルナール伯爵令嬢が椅子から立ち上がった。

「私が借りてきますので、皆さまはお話し合いを続けてください」

 今迄、殆ど会議に参加できていなかったことを気にしていたようだ。だが、狙われているというのに一人で行動して大丈夫なのだろうか、と思っていると、ミフネ嬢も椅子から立ち上がった。

「ルイーザさんが今、一人で動くのは危ないです」

「あ、そう、ですよね……。すみません」

 自分が発端なので、何かしなくてはいけないと思う気持はわかる。が、それで被害に合っていては本末転倒である。ミフネ嬢が指摘すると、令嬢は恥ずかしそうに再び席に着いた。それを見て、ミフネ嬢が柔らかい笑顔を浮かべる。

「それに、弓は今から作るので大丈夫ですよ」

「え?」

 今、何て言った?と、僕達が聞き返すよりも前に、ミフネ嬢は図書館の奥、職員用のカウンターの中に堂々と入り、一番奥に置いてある掃除道具を持ってきた。箒を一つ、長めのはたきを一つ、麻紐、厚紙、そして、細めの突っ張り棒を大量に。

「……それ、図書館の備品では?」

「緊急事態なので、後で返します。一応予備のものですし、補充すれば大丈夫ですよ」

「一応聞くけど、何に使うつもりで?」

「武器ですよ?」

 そう言って、ミフネ嬢はまず、適当な長さに紐を切った。そして、はたきの先の部分を外し、丁度いい長さと太さの棒にすると、端に紐を括り付けた。

「……あ、わたしだと無理ですね。クインテットさん、モミジさん、手伝ってください」

「あ、あの!!ミフネ様、私、矢を作っておきます!」

「お願いします」

 手伝ってください、とは言われたが、本当にこれで弓を作るなら、かなり力を入れて弦を張らないといけないので、ミフネ嬢にできることはない。

「……僕達でやるので、ミフネ嬢は他のことをしててください」

「ありがとうございます、お願いしますね」

 そう言うと、今度は箒も分解し、柄の部分だけにする。そして、先の部分に一番大きく、太いバーチの木を括り付けていた。簡易的な木槍である。恐らく、クインテット嬢に渡すのだろう。

「よし、大体完成ですかね」

 暫くすると、弓と矢、槍が完成した。適当に作ったとは思えないクオリティである。僕はその出来栄えに感動しつつ、バーチのお礼の品と図書館の備品の補充で総額幾らかかるかを計算して、少し憂鬱になった。

「結構いい出来じゃないですか?」

「そうですね、握りやすいです」

 ミフネ嬢は、木槍に使わなかった大きめの木片に紐を括り付けただけ物を三本持っていた。矢にするには大きかったので、遠心力を使って投げるらしい。全員がバーチを持っていることを確認すると、ミフネ嬢が扉の方に移動した。

「いざ、勝負です!!」

 そして、元気よく図書館の扉を開け放った。


次回更新は7月31日17時予定です。

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