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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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お礼の手配

 図書館に取り残された僕らは、お互いに目を見合わせた。ミフネ嬢のやってみたいこと、というのは、バーチを集めるという事から、バーチを使って貴族院から追い出せるか試してみる、ということだろう。

「どうします……?」

 クインテット嬢が、僕と殿下に尋ねた。協力した方がいいのか、止めた方がいいのか、という事だろう。ボガートを追い払うことに関しては全員賛成しているが、行動に起こすまでが早過ぎる。

「止めるにしろ、集めるのを協力するにしろ、誰か一人は此処に残らないといけないね」

「此処に戻ってくることは確かですからね」

「ですが、殿下を一人にするのは……」

 実行を阻止するなら、バーチを集められない様にミフネ嬢を止めないといけないし、本当に実行するのなら物資は多い方がいい。手分けをしてバーチを集めた方が効率的だろう。だが、その場合、全員バラバラに行動することになる。クインテット嬢は護衛の仕事を心配したのだろう。

「此処で待つだけならそこまで危険もないだろうから、二人で行くといいよ」

「図書館は利用者も少ないようですが、何かあればすぐに逃げてくださいね」

「……まだ、止めるか手伝うかを決めていませんが」

 僕達がいない間に、図書館で何かが起こった時の段取りを考えている二人に声を掛ける。殿下の身の安全が第一なのには同意するが、ミフネ嬢を放っておくと、大抵の場合大事になる。だが、一概に止める、と決まらないのにも理由がある。

「今回は、まだ、理由がはっきりしていますからね……」

「手段も、突拍子のないものではなく、魔除けだとわかっているものを使うようだし……」

「上手くいく確率は高そうですよね」

 ミフネ嬢は、思い付きで行動することが多く、また、無駄に行動力や交渉能力が高い為、トラブルを起こすことが多い。同時に、他の誰も解決できなかったことを簡単に解決してしまうのだ。今回は、僕達にも理解できる手段なので、比較的成功率が高い気がする。

「出ていった時も、驚きましたけれど、いつもと違って何としてでも止めなくては、とは思いませんでしたし……」

「完全に感覚だけれど、上手くいく気がするね」

「……では、クインテット嬢も殿下も、協力するという事でいいですね?」

 二人は小さく頷いた。

「クインテット嬢、行きましょう」

「えぇ。私は女子寮の方へ行ってみます」

「では、僕は男子寮に」

「二人とも、気を付けて」

 殿下に返事をして、僕とクインテット嬢はバーチを集める為、それぞれの目的地へと走り出した。


 男子寮の部屋を順に訪ねていき、バーチを譲ってもらえるように交渉を繰り返していると、全ての部屋を回った時には既に日が傾きかけていた。図書館に集まった時点で放課後だったので当然と言えば当然だが、夜寝ない子供に取り憑く相手と敵対するには不安を感じる時間帯である。

「……モミジです、誰か扉を開けて貰えますか?手がふさがっていて」

「あ、今開けますね~」

「ありがとうございます……。って、ミフネ嬢、戻ってたんですか」

「ええ、先程、教室を回り終わったので戻ってきました」

 ミフネ嬢は教室に残っている生徒にバーチを持っていないか聞いて回っていたらしい。一応、教室から教室に移動するならば、人気が多いのでベルナール伯爵令嬢も安心だろうと思ったそうだ。

「僕は男子寮を回ったので、丁度良かったですね」

 言いながら図書館の中に入り、両手で抱えていたバーチを机に置く。両手で抱えていたとはいえ、大きな枝を手に入れたわけではなく、小さな木片やそれが入った袋を貰ったので、抱えるように持ってきたのだ。

「後はクインテットさんだけですねぇ」

「僕と同じタイミングで向かったから、直に戻ってくると思うけれど……」

 そう言った瞬間に、扉が開き、片手に袋を持ったクインテット嬢が入ってきた。

「遅くなりました……」

「わ、クインテットさん、大量ですね!!」

「領地が近い方に声を掛けたら、快く分けていただけました」

 後でお礼を兼ねてお茶会を開くつもりです、とクインテット嬢は続けた。僕も、領地から適当に摘まめる食べ物を取り寄せておいた方がいいかもしれない。ミフネ嬢も流石に自分で手配するとは思うが、後で確認しておいた方がいいだろう。

「これなら、なんとかできそうです」

「それは良かった」

 では、早速実践してみましょう、と、バーチに手を伸ばしたミフネ嬢の手をやんわりと掴む。ミフネ嬢は、何故止められたのかわからない、といった表情を僕に向けた。僕はにこり、とミフネ嬢に微笑む。

「……僕達は詳しい話を全く聞いてないんですが、説明して貰えますか?」

「あ、そうでしたね」

 もう説明したと思ってました、と照れたように笑ってから、ミフネ嬢は説明を始めた。まず、バーチを六等分する。ベルナール伯爵令嬢は三分の一、他のメンバーは六分の一ずつだ。狙われているのは令嬢なので、身を守るために使うという。

「殿下は基本、自己防衛手段として使ってくださいね」

「で、僕達はこれを使ってどうする?」

 大量に集めたという事は、どうにかして追い詰めて、煙で包むのだろうか。部屋一つに煙を充満させるには、僕達三人分では足りないと思うのだが。

「直接、相手に投げつけます!!」

 元気いっぱいな声が、静かな図書室に響いた。


次回更新は7月30日17時予定です。

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