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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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発想の違い

 僕が殿下の側近候補に選ばれた時、王宮から手紙が来た。その手紙は、自分の子供が側近や婚約者候補に選ばれなかった貴族に諦めさせる意味で送られたと聞いている。つまり、お茶会の日に選ばれなかった時点で、どれだけ伝手を使ったり、優秀さをアピールしても候補には入れないことが確定したのだ。

「貴族社会は甘くない。候補の立場になれなかったなら、長男なら特に、領地経営の教育を始めなければいけない」

「女性だったら、すぐに婚約者探しが始まるでしょうねぇ」

「つまり、王都から領地に引き上げた貴族が多い」

 王都で暮らす理由がないのなら、自身の領地にいた方が経営しやすい。それに、王都で生活すると、領地で生活する以上に金がかかる。そうして、貴族の屋敷から人がいなくなり、家に住む妖精からしたら、誰も住んでいない屋敷は家とは認識されなかったのだろう。

「住居がなくなった妖精は、貴族の屋敷から出て、次の居場所を探した」

「でも、一度急に住処がなくなる、という失敗をしているなら、今度はそのリスクを避けるはずですねぇ」

「そして、常に一定以上の数、子供と言える存在がいる場所を探した」

「それが貴族院だった、ということだろうね」

 これで8年前から貴族院にいる理由は分かった。就寝時間が早過ぎることに関しては、ボガート側の寝る時間、つまり、幼児に言い聞かせる時間のまま適応されているのだろう。教師は早く寝ろとは思っているだろうが、翌日に響かないなら細かい時間はどうでもいいだろう。

「これで、相手の名前に、行動理由はわかりましたけど……」

「これからどうするか、ですよねぇ」

 色々あって貴族院に来ているなら、追い出そうとしても中々出ていってくれないだろう。というか、ヴィヴィア先生たちが、被害に合った生徒の対応はするのに追い出さないことも気になる。何か理由があるのか、忙しくて追い払うまで手が回らないのか。

「僕達が取れる行動は大きく三つ。放置すること、完全に消滅させること、どこか別の場所に移動させること、この位かと」

 単純に追い払うことが不可能なら、相手を完全に消滅させるか、相手も納得がいくような移動先を提案するしかない。が、前者は僕達の実力で可能かはわからないし、後者は受け入れ先を探すことも、ボガートに交渉することもどちらも難しい。

「ほ、放置するってことは、これからも少し就寝が遅くなっただけで、こうなることを心配しながら過ごすってことですか?」

「まあ、そうなるでしょうねぇ」

「今はまだ平気ですが、課題が難しくなっていったら、確実に時間が足りなくなります……」

 ベルナール伯爵令嬢が顔を真っ青にした。貴族院では、在学中に貴族に必要な知識をすべて習得することになっている。なので、それなりに授業は難しい。一年生の間は基礎だけなので課題も大して時間がかからないが、二年生以上の専門科目が始まれば時間の問題は出てくるだろう。

「なら、消滅させるか、移動させるかですねぇ」

「私たちの実力で敵う相手かわかりませんが……、殿下に危険があるならば、私は消滅させることに賛成です」

「僕も、話が通じる相手とは思えないから、強硬手段しかないとは思う」

 僕がそう言うと、ミフネ嬢は首を傾げた。何かおかしなことを言っただろうか。そう思ってミフネ嬢の方を見ると、心底不思議そうな声音で言われた。

「モミジさん、移動って、合意の上での移動を考えていたんですか?」

「折角見つけた住処を離れるには、それなりの理由が必要だろう?」

 なので、子供に早く就寝させる必要のある受け入れ先を探し、その中から常に子供が一定以上いる場所をボガートに提案して移動してもらうつもりだった。説明すると、ミフネ嬢は、目を丸くした。

「そんな面倒なことをしなくても、貴族院に近付きたくない、と思わせたらいいじゃないですか」

「え?」

「というか、人間に関わると碌なことが無い、と思わせれば、何処に行ってもわたしたちの所為で周辺の家に迷惑が掛かることもないですよ?」

 情け容赦無い発想である。相手は人間ではないし、税も収めていないので権利はないという考え方なのだろうか。確かに、権利は義務を果たしてこそのものだが、相手が納得するだろうか。いや、相手に納得なんて求めていないんだった。

「皆さんの意見としては、出ていってもらう、で固まっていますし、消えても自発的に移動しても一緒じゃないですか?」

「確かに……?」

 クインテット嬢が納得してしまった。ミフネ嬢の案で行くと、出ていったあと、此方を恨んで周辺地域に迷惑を掛ける可能性がないだろうか。そんな気も起こらないほど徹底的にやるのだろうか。

「と、いうことで、取り敢えずやってみたいことがあるんですけど、いいですか?」

 そんなことを考えていると、ミフネ嬢はにっこりと笑顔を浮かべたまま、椅子から立ち上がった。その手には、バーチの入った香り袋が握られている。

「まず、他の方々にも声を掛けて、バーチをたくさん集めましょう」

 じゃあ、後で此処に集合で、と言い残し、ベルナール伯爵令嬢の手を掴んでミフネ嬢は図書館から飛び出していったのだった。


次回更新は7月29日17時予定です。

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